プロローグ
「何? 人間しかいない世界があるだと?」
私の目の前。玉座にすわるこの御方。
流れるような白金の髪は天使をもひれ伏せ、真っ赤に染まる両の瞳は鮮血の如し。
スラリと伸びた手足は女神も嫉妬の念にかられる。
見るからに柔らかそうな豊満なおっぱ――。失礼。
その強さ、敵う者無し。最凶にして最悪。
七十七代目にして、初めて魔王ではなく、大魔王と呼ばれた。
『第七十七代目大魔王。セラルナ・ストナ・ナミナーナ』様。
「それは何処にあるのだ」
「はっ、我々の調査では、『地球』と呼ばれる異世界にあるものと思われます」
「ちきう?」「地球です」
「ああ、ちきうな」「地球です」
「……」
「ちきうでございます……」
セラルナ様はただ一つだけ欠点がありました。
それは言葉が少し不自由なこと。
セラルナ様は小さい『や』が上手く言えません。
「そんな場所があるとはな、魔族は一匹もおらぬのか?」
「ええ、古い書物などには魔族の存在を確認できたのですが、現在は魔族はおろか、魔法もございません」
「何だと? 魔法がない? 信じられぬな。一体どんな生活をしておるというのだ」
「ええ、なんでも『電気』というものを使っているとかで。原理としては私どもの使う『サンダー』と同じ様な物らしいのですが、魔法がない状態でそれをどう使用しているのかは謎でございます」
「ふむ。魔族がいない、魔法がない。全く謎ばかりであるな」
この半年、偶然見つけた地球と言う異世界に私は興味を抱いていた。
この世界にはない技術や文化は、この魔界の発展に役立つ。
私はそう確信していました。
「それでは本題にはいります。セラルナ様、私が地球に行くことをお許し下さい」
「何と、余の側近のお前がわざわざ行くと言うのか?」
「はい。今まで異世界に調査に向かわせた者達は、誰一人として戻って来る事は出来ませんでした。ゲートをくぐってすぐ死ぬものもいれば、地球に到達しても僅かも持たぬ者ばかりで」
話した通り、そこらの低級魔族では地球にたどり着く事すら出来ない。
それなりに位の高いものでも、誰一人として戻って来る事無く、長くても三日で息絶えていた。
原因はわからないが、私なら何とかなりそうな気がします。伊達に魔王の側近を何代も務めている訳ではありません。
決して異世界の『アニメ』が気になっているわけではありません。
「ふむ、確かに側近ならそこらの魔族とは違うからな。だが命がけだぞ、お前はそれでも行くと言うのか?」
「はい。これも魔族の繁栄、ひいてはセラルナ様の為。私の命一つ安いものです」
そう、危険は付き物だ。
それでも私はアニ――。魔族の為に。
「そうか! お前の心意気やよし! 分かった。一緒に行こう! 魔族の為に!」
「ありがとうござ――いいいいっ?」
「いっ、今なんとおっしゃいました?」
何かの間違いだ。そんなはずはない、あってはならない。
「余も参ると言ったのだ。何か問題でもあるのか?」
何を言い出すんだこの人は。そんな事になったら私のワクワク異世界ライフがめちゃくちゃになってしまう。
「問題あるに決まってるではありませんか。セラルナ様は大魔王様です。そんなお方が魔界を離れるなどと、あってはなりません」
「すぐ来れば大丈夫であろう、四天王もいるし」
「しかし――」
「それとも何か? 余と一緒では不満だとでもいうのか……?」
「滅相も……ございません」
「うむ。では早速向かうとするか!」
意気揚々と笑うセラルナ様に不安を抱きつつ、私達はこうしてまだ見ぬ『地球』へと足を運ぶ事になりました。




