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第1-1話 俺とコマバト勝負だ!

岩手県六角中学校。

天塚江留の居るクラスに転校生がやってきた。

「駒場斗真っていいます」

「好きなものはコマバトっす」

「他は…特に無いっす、よろしくっす」

『塩を掛けられた青菜』を擬人化したような全く覇気のない駒場の姿勢を目の当たりにして、天塚はショックを感じずにはいられなかった。

(あんなシナシナメンズが隣の席なんてマジ最悪〜)


駒場という少年、授業態度もまた酷かった。

国語、算数、理科、社会…。

それら全ての授業をゾンビのような表情で聞き流している。

鮮魚コーナーの隅で放置された青魚のように濁った目で黒板の文字を追ってこそいるが、ノートには一文字も書かれていない。

これならいっそ眠ってもらった方が視界から外れて助かるわ、と天塚は苛立ちを募らせる。

(コイツ何しに学校通ってるのよ〜)

天塚の執るノートの筆跡の揺らぎ具合にも彼女の怒りが写し出されているかのようである。


(給食時間)

「ハァ〜、学校ってつまんねー…」

給食に出されたクリームシチューをスプーンで遊びながら駒場は愚痴をこぼす。

(そりゃあれだけ学ぶ気ゼロならそうでしょうね!)

という怒りを押し殺し、天塚は駒場に注意を促す。

「少しは"勉強しよう"って気合を入れなさいよ!アンタが視界に入るから気が散ってしょうがないのよ!」

非常に理性的なアドバイスであるが、当の駒場は額にハエが止まっていることよりどうでもいい、というようなご様子である。

両側に離れきった駒場の右目に奇妙な光景が目に入る。

行列だ。男子生徒がデザートであるミルクプリンを手に取りながら教室に渦を巻くような行列が形成されていた。

その渦の中心に、まるで山のようなデブが鎮座していた。

「負け組デザート献上隊のしょくーん!一刻も早くこの菜蔵様の元にデザートを持ってきたまーえ!」

菜蔵と名乗るデブは並んでいる男子達から嘲笑混じりで次々とミルクプリンをひったくるなり、自分の机にプリン・ピラミッドを建造していた。


「なぁなぁ天塚、ナニアレ」

天塚は呆れ口調で答える。

「何って、菜蔵にコマバト勝負に負けた男子共がデザート献上しているんでしょ」

「子供の遊びにデザート賭けるなんてホント男子って未熟よね〜」

「アンタもアイツらみたいな子供の遊びにハマって…」

小言を言いかけた天塚だったが、駒場の様子を見て思わず言い淀んでしまう。

"コマバト勝負"そのワードを耳に入れた途端、駒場の目はまるで夜明けのヒマワリのように爛々と見開かれ、血が通い始めたかのように髪型や姿勢が起き上がり始めていた。

「ちょ、ちょっとアンタ大丈夫?」

天塚が言うが早いか駒場は席を離陸して矢のように駆け出した。

駒場に押しのけられ吹き飛ぶ男子生徒、

崩壊するプリン・ピラミッド、

満面の笑顔の駒場と突然の出来事に固まった笑顔の菜蔵の邂逅、

全てが一瞬の出来事だった。

「お前、コマバト強いんだってな」

駒場が問いかける。

「あ、あぁ強いとも。クラスの誰よりもな」

菜蔵も突然の出来事に怯みこそしたが冷静に言葉を返す。

「お前に放課後、コマバト勝負を申し込む!」

「「「えぇーーッ!?」」」

授業中はゾンビ状態だった人間が発したクラス最強のコマバトラー(コマバトを遊ぶ人間の総称)菜蔵への当然の勝負宣言は、クラス中の男子生徒に衝撃を走らせた。

「おいおいおい、止めておけって転校生サンよぉ」

親切な負け組男子生徒が声を掛けてくる。

「アイツのゴリ押し戦法の前には思いつきの戦略なんて役に立たないぜぇ」

「悪いこたぁ言わない。デザートをラブレターにするにはまだ段階が早いでしょうよ」

男子生徒達の心配を余所に駒場は笑顔で答える。

「大丈夫、俺の強さは次元が違うから」

「クックック、自らデザート献上隊への入隊志望とは随分有望株じゃあないか」

「受けて立つぜ、その勝負!」

まさかのビッグマッチの成立に男子生徒は沸き立ち、その馬鹿騒ぎに女子生徒は眉を顰めていた。

騒ぎの輪の端っこで頭を抱える女子生徒が居る。

勿論天塚だ。

(授業中も迷惑だと思っていたら別方向で騒ぎも起こすし、何て両極端なヤツなのよ!!)


(第1-1話_終)

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