97.ホテルマン、怒られるのが怖い
二人も増援が来てくれたら、戦況は打って変わった。
「いっくぞー!」
「「「うおおおお!」」」
シルの合図とともに妖怪たちは魔物に飛びかかっていく。
「包丁乱れ刺し!」
「私は確か……クリスタル……ブレイクでしたっけ?」
空中に浮く無数の包丁と氷の塊が魔物を襲う。
「呪ってやるー! えーっと……メンタル病めー!」
「おんどれーい! 井戸の底から溢れる呪いの水!」
ケトとサラも負けじと魔物を攻撃していく。
ただ、サラの語彙が妙に禍々しい。どう考えてもケトの影響だ。
明らかに、見てはいけない類のビデオを履修している。
相変わらず妖怪たちはテレビの見過ぎだ。
技名を叫びたくても、いざとなると何も思い浮かばないらしい。
矢吹とポチも素早く動き、剣で魔物を薙ぎ払う。
魔物に囲まれていても、手数が多ければ魔物は減っていく。
まぁ、俺のすることと言えば――。
「やーい! ノロマなポンコツ犬め!」
囮として最大限力を発揮することだ。
『グルルルルル!』
「なっ!? あいつ俺をバカにしやがって!」
なぜか魔物だけではなく、ポチも反応していた。
ひょっとして狼男だと思っていたが、犬男なのかもしれない。
名前もポチだからな。
「ふく、しゃがむ!」
「えっ?」
突然、聞こえたシルの声に反応してしゃがむと、魔物は隣にいるソウに目掛けて飛びついた。
しかし、ソウは振り向くことなく、剣を振り払うと、魔物の首を一瞬で切り落とした。
「なぜ……ここにあるんだ……」
ソウの視線の先には鳥居があった。
「ソウ、大丈夫か?」
「あっ、ああ……」
わずかに視線を逸らし、何事もなかったかのように息を整えて魔物を処理していく。
あの鳥居とソウに何か関係があるのだろうか。
そう考える時間もないまま、気づいた時には周囲に魔物の死体が散らばっていた。
「ははは、やっぱりお前たち強いな」
「ふくはよわいよ」
「逃げてるだけだもんね」
魔物を倒して嬉しそうに笑っている妖怪たち。
俺がやったことは囮として逃げ回っただけだから、何を言われても仕方ない。
それよりも気になるのは戦っている最中のソウの表情だ。
「ソウ、何か――」
「あれだけ森の中に入るなと言ったよな?」
「うっ……」
ソウのことを心配している場合ではなかった。
迷惑をかけたのは俺たちの方だからな。
「ごめんなさい」
「すぐに森から出るぞ」
ソウの声は普段よりも低かった。
やはり怒っているのだろう。
元々帰るつもりだったから、今はこの森から早く離れた方が良い。
明らかに普段よりも魔物の数が多かったからな。
ただ、さっきまでの賑やかさが嘘のように、森はしんと静まり返っていた。
それがさらに不気味に感じる。
ソウは一瞬だけ足を止める。
「ソウ?」
「ああ、大丈夫だ」
ポチの声にソウは小さく息を吐いた。
そんな様子を俺はどこか気になって見ていた。
「かえったらうどんがたべたいな」
「オイラも!」
「サラは冷たいのがいいかな」
「なら私と一緒に冷やしうどんにしましょう」
そんな二人とは反対に妖怪たちはウキウキしながら町へ帰っていく。
今日も薬草をたくさん採取したから、人助けにはなるだろう。
実際は助けてもらった立場なんだけどね。
森を抜けると、町の方から賑やかな声が聞こえてくる。
お昼の時間帯なのか、休憩をしている人の姿が目立つ。
「なぁ、やぶきんはソウたちが来てること気づいていたか?」
「あぁ、ちゃんと魔物は来てないって伝えたぞ?」
「はぁー、そりゃーわかりにくいだろ」
ソウたちが来てくれたおかげで、魔物に襲われずに済んだ。
それはすごくありがたいことだが、さっきから背中に刺さる視線が痛い。
きっとこの後怒られることを考えると、気が重くなる。
「ふく、うどん!」
「早くしないと呪うよ?」
うどん屋が見えると、シルたちは急いでお店の中に入っていく。
相変わらず妖怪の世界でうどん屋って珍しい気もするけど、見慣れていれば当たり前に感じる。
もうこのお店には通い詰めているからな。
「いらっしゃいませ!」
お店の中に入ると、見たことない女性が入り口の椅子に座って挨拶してくれた。
俺たちは頭を下げると、そのまま空いている席へと向かう。
「母さん! 家で寝てなくても大丈夫だったのか?」
「ええ、たまにはお店に遊びに行きたくてね」
「あんまり無理したらダメだぞ!」
「ふふふ、二人は心配性なんだから」
後から店に入ってきたソウとポチが女性と話をしていた。
どうやら二人の母親らしい。
ポチの母親なら狼女かと思ったが、普通の女性のようだ。
ただ、顔が青白く、頬が痩せこけている。
服から出ている手足を見る限り、痩せているのは顔だけではないようだ。
しばらくすると、うどんがテーブルの上に置かれていく。
猫舌のケトと冷たいのが好きなサラ、エルの三人は力を使ってうどんを冷やしていく。
「お前ら変わった食べ方しているな」
「オイラは猫舌だからね」
遅れてソウとポチがやってきた。
その隣には二人の母親もいる。
「いつも息子たちがお世話になっております」
「いえ、こちらこそお世話になっております」
妖怪の世界もあいさつは日本とあまり変わりなかった。
気づいた時には俺と彼女がずっとペコペコと頭を下げていた。
どこか礼儀正しい人で懐かしさを感じる。
「母ちゃん、お世話しているのは俺たちだぞ!」
「そうだ。お前たち森に入るなとあれほど言っただろ!」
やはり怒られるのは変わらないようだ。
そんな様子を二人の母親は楽しそうに笑っていた。
どこか優しそうな笑みを見ていると、牛島さんがシルたちを見ている姿を思い出す。
しばらく帰っていないから、牛島さんも心配しているだろう。
「ねーねー、おばちゃん!」
「なーに?」
シルはジーッと彼女を見て、話しかけていた。
おばちゃんと呼んで背筋がヒヤッとしたが、やはり優しい人のようだ。
「おばあちゃん、びょうきなの?」
「シル! 失礼なことを聞いて申し訳ありません」
俺はすぐにシルの口を塞ぐが、彼女は優しそうな顔で笑っていた。
ただ、ソウとポチの顔は暗いままだ。
きっと嘘は言っていないのだろう。
「ええ、最近は寝てばかりね」
「母さん、今日はもう帰ろう」
「俺たちが送るよ」
ソウとポチも心配して、家で休むように伝えていた。
思ったよりも具合は良くないのだろう。
そんな様子を見てシルは椅子から降りて、彼女の前に向かった。
「ならこれつかって!」
シルがポケットから何かを大量に取り出すと、店内は眩しさに包まれた。
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