第五章 私の心をあなたに(4)
早織は朝影と黒神が早苗に向かっていくのを見ながら立ち尽くしていた。
(黒神君は何を言いかけたんだろう。それに、朝影さんは何をしてたんだろう……)
突然現れた朝影に、早織は驚いていた。彼女がここにいる理由は何となく予想がつくが、今まで何をしていたのかまでは分からない。
朝影は大気を凍らせたり、氷の槍を作ったりして応戦しているが、新たな人間が介入してきても早苗の圧倒的優位は揺るがない。段々と2人は傷を負っていく。
(2人の連携が凄くて、早苗も高威力の技は放ててないみたいだけどそれでも)
どこかで練習したのか、朝影と黒神は絶対に近くに寄らない。お互いがほぼ対角線上にいるようなポジショニングをしている。
早織が知らないのは当たり前だが、朝影と黒神は特訓をしていた。そこで多少の連携は出来るようになっていたのだろう。
それでも早苗は冷静だった。右から来る攻撃を剣でいなし、左から来る攻撃を黒球で破壊する。『超方闇』を放つ隙がまだ見当たらないのだろうが、このままではすぐにその隙も見つかるだろう。
さらに驚くべきは、早苗がその場から殆ど動いていないということだ。位置を変えずに2人の攻撃を受け続けている。
(完全体、私の言葉が引き金――たとえそうじゃなかったとしても、あんなこと言ってしまうなんて……)
そこまで考えて、早織は未だに後悔を引きずっている自分に気付いた。そして黒神が伝えようとしたことも。
(でも、やっぱりもう……)
早織が俯いたとき、彼女の腕時計から的場の声が聞こえてきた。
『早織、これは決定事項だ。よく聞け』
どことなく興奮気味の的場はこう続けた。
『実験完遂が確認されたが、まだ「二重能力」は発現していない。ワシはそこが到達点だと思っているのでな……まだ実験は終われない』
「一体、どういう――」
『君には死んでもらう』
早織の思考が停止した。この男は何と言った?
「し、え? 死んでもらう?」
『「二重能力」を発現させる可能性のある最後の選択肢だ。受け入れろ。これから早苗にも指示をする』
「ま、待って! そんなの!!」
『さっき言っただろう、決定事項だと。まあ、君のお友達2人は生かしといてやる。協力してくれたお礼だ』
的場は大声で笑うと、一方的に通信を切断した。
早織は事態を受け止め切れていないらしく、腕時計を見つめたまま動かない。
そして、朝影と黒神の攻撃を受け続けている早苗のイヤホンに指示が入る。
『早苗、早織を殺せ』




