第五章 私の心をあなたに(3)
「まったく、周囲に障壁を張ったから良かったものの……あの威力は規格外だな。しかし、遂に成ったな」
モニターには早苗の『超包闇』によって破壊されたゴミ処理場が映っている。そして、ボロボロになった早織と黒神の姿も。
一方で、研究室は歓声で包まれていた。
1万回近く行ってきた実験がようやく実を結んだのだ、当然の状況だろう。的場もそうだ。年甲斐もなくはしゃいでいる。
「ははははは!! 成った、成ったぞ!! だが……」
彼はひとしきり飛び跳ねると、今度は真面目な顔で呟いた。
「やはり完全体と同時に『二重能力』への昇華は無理だったか。だとすると、もう方法は1つしかあるまい」
完全体となった早苗には、まだ少しだけ自我が残っている。故に的場が指示を出したら答えることも可能だ。
「早苗――」
早苗の光線はゴミ処理場を破壊してしまった。あのまま行けば住宅地まで破壊してしいそうだったが、いつの間にか周囲に張られていた障壁のようなものによって最悪の事態は防がれたようだ。
黒神が早織に飛びついて、抱き寄せながら間一髪で回避出来たのだが、もし当たっていたらと考えると2人の背筋が凍った。
「く、黒神君」
「あれは本当に……くそっ、どうしようもないぞ。圧倒的すぎる」
早織は顔が血ではなく真っ赤になっているのだが、黒神には気にしている暇が無いらしく、そのままの体勢で早苗の方を見ている。
「でも、多分あいつはまだ意識を保ってるはずだ」
さきほどの光線も、その気になれば逃げられない程の威力を出せたはずだ。そもそも早織を殺さなかったのも、意識があるからに違いない。
逆に言うと、もし早苗は意識――つまり自我を失ったとしたら?
「そんな最悪の状況にさせるわけにはいかない。早織――っておい!? どうしたんだよ、早織? 顔が真っ赤だぞ!」
「べべ、別になな、何ともないから、ととと、とにかく一旦離れて?」
「ん、ああスマン!」
ようやく離れると、2人はゆっくり立ち上がった。
「立ち上がるのを待ってたのか。なあ早織、早苗を助けるなら今しかない」
「……でも、もうどうやって会話すればいいのか分かんないよ」
早織の表情が暗くなる。
早苗に対して放った言葉をまだ引きずっているらしい。
「早織、このままじゃもう――」
言葉を継ごうとした直後、2人の早苗が突進してきた。その手には『闇創剣』が握られている。
「さすがに凌げないかもな」
そう呟いて、黒神は早織の前に立った。
「ちょ、黒神君!?」
「今の早織じゃ戦えないだろ? だったら俺が戦うしかない」
「でも、いくら『影分身』とは言っても……」
「やってみなきゃ分からないさ」
早織の前に立った黒神に対して、2人の早苗が剣を振るう。
(どちらが分身かは分からない。だったら!)
黒神は両手をそれぞれ片方の早苗に向けた。そして、白い光線を放つ。だが、2人の早苗は剣を持っていないほうの手で『超包闇』を放ち、白い光線を相殺した。
元々黒神も体力に限界が来ている。そのため、光線が相殺されるとその衝撃でバランスを崩してしまう。
「ち、く、しょ……」
しかし、2つの剣が振るわれることは無かった。加えて、分身は氷で出来た槍に貫かれて消えてしまった。
「氷ってことは」
「待たせたわね。やっと隊長たちへの報告が終わったわ」
朝影光。傍観者であった彼女が、参戦する。




