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第五章  私の心をあなたに(2)

「あ……」


 早織に対して振り下ろされた剣は、彼女の体を切り裂くことはなかった。黒神が防いだのではない。そもそも、早織を狙っていなかったのだ。


「さ、早苗?」


 呼びかけるが、返事は無い。もしかしたら、少しだけ意識が残っているのかもしれない。


(そうだ、その気になれば黒神君を殺す事だって出来たはず。それをしなかったってことは……今なら、今ならまだ!)


 早織はようやく意を決した。早苗の腹部を蹴り、その反動を使って離れる。

 そして早織はいくつかの水球を出現させた。


「早苗のに比べれば小さいけど……」


 水球から放たれる『水冷弾』の威力は、その大きさと呼応する。そのため、もし早苗が『包闇弾』を放てば簡単に消し去られてしまうだろう。

 だが、馬鹿と鋏は使いよう。たとえ威力が劣っていたとしても、それだけで勝敗が決まるわけではない。


「『水冷連弾(アクアガトリング)』」


 水球の中からさらに小さな球体が発射される。その大きさは親指くらいだろうか。

 それを見た早苗は無言のまま剣を黒球に戻した。放つのはもちろん『包闇連弾』。


(――来る!!)


 早織は早苗よりも多い数の水球を発射した。とはいえ、やはり『包闇連弾』に次々と消し飛ばされてしまう。その度に砂埃が舞い、数秒後にはお互いに相手を視認できないほどにまでなった。


(さっき使った手だけど……『水分身』!)


 早織の隣に水が人型に集まり、そしてもう1人の早織が出来上がった。早織は左に、分身は右へと動き始めた。


(チャンスは1度。これが決まらなければ私の負け!!)


 早織の考えはこうだ。砂埃が消え、視界がある程度確保できたところで早苗は2人の早織を見つける。どちらかが分身であることは分かるだろう。だが、どちらが分身かまでは一瞬では判断が出来ないはずだ。そこで、両方向から『超水流』を放つ。


 一瞬の隙を突く攻撃。逆に言えば、一瞬の隙を突けなければ簡単に避けられてしまう攻撃。

 その時が、来た。

 砂埃が消え、早織の方からも早苗が視認できる。早苗も同じだ。

 だが。


「――え」


 2人の早織。それを見れば分身だと分かっていても戸惑うはず。しかし、早苗は違った。

 2人の早織に対して、それぞれに『超包闇』を放ったのだ。


「そんな、嘘……!?」


 黒い光線が地面を抉りながら迫る。その威力は言わずもがな。死ぬまでは無いにしろ、当たればもう戦うことは出来なくなるだろう。

 これが完全体。どのような場でも、瞬時に最適な判断を下す。『二重能力』を扱う資格を得た状態。


 眼前に迫る光線に諦めかけた時だった。

 後方から早織の頬を掠めていった一筋の白い光線が、『超包闇』と激突した。


「――っ!? く、黒神君!!」


 いつの間にか早織は黒神が叩きつけられた壁の前にいたらしい。振り返ると、腹部を押さえながら右手を前に突き出している彼がいた。


「諦めるな……ここで諦めたら小さな可能性さえも捨ててしまうことになる!」


 今も、あれほどの大きさの『超包闇』を止めている。そう、まだ勝てないと決まったわけではない。


「それに、俺たちが諦めたら早苗を助けられる人間はいなくなってしまう!!」


 そう言うと、黒神は光線を放出したまま早織の隣に立った。


「まだ早苗には理性が残ってる。それには気付いてるんだろ? だったら分かるはずだ。『最悪の状態』になる前に、倒さなきゃいけないんだ」


 直後に爆発が起きた。黒神の光線と早苗の『超包闇』が相殺されたのだ。


「痛……行くぞ、早織!」


 分身はもちろん消えている。だが、今度は黒神が一緒だ。


(彼と一緒なら、怖くない。私はまだ戦える!!)


 気付けば、共に駆け出していた。黒神は『氣』を両手に集中させ、早織は両手に水球を出現させて。

 そう、諦めなければ何とかなる。共に駆けて、そう思った。いや、黒神だったからこそそう思わせられたのかもしれない。

 だが。



 次の瞬間、巨大な黒い光線がゴミ処理場ごと2人を飲み込んだ。

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