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第四章  そして完全体へ(9)

 早苗の分身を倒した黒神は、月宮姉妹の戦闘を眺めていた。

 参戦しようとも思ったのだが、入る隙もなかったのだ。


(やっぱり、2人とも根幹にあるのは同じなんだよな……)


 そう、彼女たちはいがみ合っているのではない。寧ろ、どちらも仲良くなることを望んでいるのだ。早織は普通の生活、早苗は『遊び』をもってそれを実現しようとしている。

 だからこそすれ違いが生まれる。


(けど、もしもお互いがお互いの気持ちを理解出来たら)


 そう思ったからこそ、黒神は目の前の光景に焦りを感じた。

 早苗の耳に付いているイヤホンから何かしらの指示が出たのか、彼女は立ち上がって早織に向かって何かを言った。そして、それを聞いた早織が激高し――


「ま、マズい!! ダメだ早織、それだけは!!」







 的場壮大はモニター越しに月宮姉妹の戦闘を見ていた。

 そして、激高した早織を見て彼は気付く。


「そうか、そうだったんだ!! ワシらは大きな勘違いをしていたということか!!」


 顔にあるシワがこれ以上にないくらい伸びるような、不気味な笑顔で、子どもが喜ぶようにピョンピョン跳ねながら彼は喜んでいた。

 それを見て、研究室にいた者たちは一瞬たじろぎながら、


「せ、先生? 一体どういうことですか?」


 的場はモニターを見たまま答える。


「何故分からんか!! ふん、まあいい。よく考えてみろ、どうしてあそこまでやって完全体にならなかったのかを」


 9673回という実験回数は普通ではありえないほどの回数だ。2人が中学生になってから戦闘実験を始めたとしても、やはり膨大な数であろう。

 そもそも『二重能力試行実験』における戦闘実験では、早苗に2つ目の能力を習得できるだけのスペックを施すためのものである。だからこそ、的場は彼女が対処出来ない場面を潰していくことで完全体――否、二重能力を受け入れられる状態になると考えていた。


 それは間違いではない。実際、完全体へと近づいてはいたのだから。

 だが、早苗には圧倒的に足りないものがある。


「それが、『敵意』だ!!」


 思えば早苗はこの戦闘のことを遊びだと言っていたではないか。それは的場が意図的に植えつけた認識であったが、これこそが完全体への昇華を邪魔していたのだ。

 つまり。


「戦闘能力を補完するための実験だったのに、そこに不可欠な敵意が欠けていたのだ!!」


 どこまでいっても、早苗の中では遊び。それでは折角習得した能力も『戦闘』のためのものではなく、『遊び』のためのものとして処理されてしまう。

 では、早苗がその能力を戦闘のために使うようになったら? 

 咀嚼して。

 もし早苗が早織に対して欠けていた敵意を持ったら?


「そうだ。それこそが完全体へのエッセンス!! そして、今! 彼女は――早苗は確実に敵意を持った!!」


 殺す。

 早織のその一言で、早苗の中には敵意が芽生えた。

 それは一瞬だったかもしれない。早苗はすぐに切り替えようとしたかもしれない。だが、一瞬で十分だった。

 条件が揃った。その事実があれば、それでいい。


「さあ早苗、成るのだぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 的場の、年齢に似合わないほどの咆哮が響き渡る。

 研究員たちも、いつの間にか興奮を感じていた。長年続けてきた研究が身を結ぶ瞬間。

 その時が――





 ――来る。

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