第一章 運命の邂逅(5)
目覚めた少女が見たのは、真冬なのに額から汗をダラダラと垂らしている少年とそれを見てケラケラ笑っている少年だった。
「ん……どういう状況?」
黒神はむくりと体を起こした少女を見て、涙声でこう言った。
「俺、逮捕されんのかな!?」
「状況は分かったわ。はあ、まあ確かに、一応命の恩人だから少しくらいは話しておかなくちゃね」
髪型を整え、服装を直した朝影はフローリングの床に正座した。それにつられて黒神と赤城も正座をする。
「お察しの通り、私はエデンの人間ではないわ。外界から来たの。以上」
「え、終わり?」
「言ったでしょ、貴方には関係のない事だって。踏み込まないほうが懸命よ」
正直、黒神は納得できていなかった。あんな道端に倒れているなんて、明らかに異常だ。朝影が外界の人間である以上、確かにこれ以上踏み込むのは得策ではないのかもしれない。
「朝影ちゃんだっけ? そんなにヤバイ組織が絡んでるの?」
言葉を失う黒神の代わりに、赤城が質問をする。
「平たく言えばそう。国家レベルと言っても過言ではないわ」
国家レベル。それほど大きな事案を抱えている人間を、果たしてエデンは侵入させるだろうか? それも、こんな華奢な少女を、いとも簡単に。
「でもさ、そんな重大なことを抱えてるのにどうして誰も追ってこないの?」
「多分、この家にいるからだと思う。一般人の家に匿ってもらってるなんて、考えられないだろうから」
「だとよ、終夜」
黒神はゆっくりと口を開く。
「それは、誰にも相談できないほどのことなのか?」
「少なくとも、見ず知らずの人間に話す内容ではないわ」
彼女の意志は固いらしく、どうしても答えてくれそうにない。かと言って、もし答えられても、能力を発現できていない黒神にはどうしようもない。
「そうか……」
「さて、ここを戦場にするわけにはいかないわ。快晴だし、そろそろ行くわね」
そう言うと、朝影は立ち上がり、玄関へと向かった。元々所有物の少なかった彼女だ。出て行くときも手には何も持っていない。
「そうだ。せめて私の能力だけでも見とく? これは別に私の抱えてる問題とは関係ないし」
「ん、おう」
朝影はにっこりと微笑むと、手を前に突き出した。
「『冷却』」
彼女の手の周りの大気が凍っていく。瞬く間に、手のひらサイズの氷が完成した。
「ま、これは誰でもできるレベル。とにかく、私の能力は氷属性ってこと」
黒神は羨ましそうに眺めていたが、赤城は畏怖の表情を浮かべていた。さっきまでヘラヘラしていた人物の表情とは到底思えないほど顔が引きつっている。
「焔、どうしたんだよ」
「……朝影ちゃん、デバイスは」
「デバイス? 持ってないわよ」
「嘘だろ……ありえない!!」
「どういうことだよ焔!?」
「気づかなかったのか!? 朝影ちゃん、デバイス無しで能力を使ったんだよ!!」
能力は確かに各人に潜在的に備わってはいるものの、デバイスを使わなければ発現することはない。それが、常識である。
だが、朝影は違った。彼女はデバイスを用いることなく、いとも簡単に能力を発動していた。
「そんなことがあるのか……」
赤城は俯いてなにやら考え事を始めたようだ。ブツブツと呟いているが、何を言っているのかは聞き取れない。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「ん、ああ。困ったらまた来いよ。少しくらいは助けになるだろ」
「ふふ、考えとく。じゃあ、ありがとう。さよなら!」
朝影は微笑みながら部屋を去っていった。
嵐のような奴だった、と黒神は思う。
「なあ焔、どうしたんだよさっきから。珍しく怖いぞ?」
「……終夜、俺たちはとんでもないことに巻き込まれるところだったのかもしれないぞ」
冗談かとも思ったが、赤城の顔を恐怖で歪んでいた。あの年中ヘラヘラしてるような男がここまで恐れることとは、一体何なのだろうか。
(まあ、能力の無い俺には関係の無い話か)
疑問を持ちながらも、黒神は自分を強引に納得させた。
これが邂逅。そして、その後彼らは更なる混沌へと足を踏み入れることになる――




