終章 日常の変化(4)
「これから、どうするつもりなんだい?」
一見すると、今回のカントリーでの出来事は、『エデン破壊論』の遂行を企んだ『楽園解放』のリーダーを黒神が倒し、エデンの治安維持部隊として働くよう改心させたというものだ。
だが、実際は違う。
黒神は、エデン破壊論者ではないものの、実験破壊論者である(といっても、そうなった経緯はあまりにも軽薄なものであるが)。つまり、エデン――特にエデンの管理者たちにとって黒神は『英雄』ではなく、『敵』なのだ。
「どうするって言われてもな……まだ動くべきじゃないと思う。俺も能力者になってまだ数日だし、何より『楽園解放』への警戒は強いからな」
「ごもっともだ。同じ考えで安心したよ。でも、それだとかなりの時間がかかる。場合によっては、世界大戦が始まってしまうかもしれない。急がば回れとは言うけど、回りすぎてもダメだ。そのことは忘れないでくれ」
「ああ……」
実際、エデンで行われている実験の全てを理解したわけじゃない。
黒神は元々無能力者で、そういうことに無関心だったこともあるが、それ以上にエデンが公表している実験プログラム以外の実験が存在するのか。存在するのならば、それがどんなものなのか。
その全てを理解しなければ、簡単に実験破壊とはいかないだろう。
そういう意味で、やはり実験破壊は長い期間を要すると考えられる。
「君は能力者になった。これから見る世界は違ってくるだろう。しかも、エデンの闇に触れることがあるかもしれない」
「少なくとも、今までのような生活は出来ないってことだよな」
朝影は自分の入るタイミングを失ったことに気づき、退屈そうにあくびをしている。
「間違いなく、君は混乱に巻き込まれていくさ。『英雄』として世間に認識されてしまったしね」
「……それでも、もう進むしかないんだよな」
「そう。ここで立ち止まるわけにはいかない。なにせ君は、『楽園解放』さえも背負っているんだからね」
その言葉に嘘はない。治安維持部隊となることを許容したメンバーは、必然的に黒神の論に賛成したことになる。
進む、立ち止まるの選択が影響を及ぼすのは黒神1人ではない。
「改めて言わせてもらうよ」
そう言うと、神原は背筋を伸ばし、同じく背筋を伸ばした黒神の目をしっかりと見つめながら、
「これから、宜しく」
死闘を繰り広げた2人は、固い握手を交わす。
「あ、そういえば。一応うちのメンバーだから、光には間違っても手を出すなよ?」
「は?」
「寝てるときにキスしようとしたりするんじゃねェぞ?」
「おいこら朝影ぇぇぇぇぇぇぇぇ!! しかも話が飛躍してんじゃねぇか畜生ぉぉぉぉぉおおおおお!!」
叫んだが、彼女はいつの間にか風呂に入っており、黒神は歯噛みするしかなかった。
1年が終わる。
そして、様々な人間の日常が変わる。
『表』を突き進む者、『裏』へと足を踏み入れる者。彼らにどのような事態が待っているのか。それはまだ、誰にも分からない。
彼らの行く先は――




