終章 日常の変化(1)
30日まで大事をとって入院(前科ありのため、早期退院を許してもらえなかった)、外に出れたと思ったら警察から事情聴取され、マスコミからはインタビューを受け、遠くの町に住む両親から電話がかかってきて、怒られたり褒められたり。
翌日は折角の大晦日だというのに、今度は高校のクラスメートからSNSで質問攻め。学校から呼び出され、デバイス登録の申請(不適合のままだったので教師たちも困惑)、校長からのありがたいお話……。
結局、黒神が家に帰ってきたときにはもう日も暮れ始めていた。
「しかも、なんでお前がいるんだよ」
「あら、ダメ? こんな可愛らしい女の子と1つ屋根の下、しかもこんな狭い部屋で。貴方にとってはかなりいい条件だと思うけど」
朝影光は外界の人間である。なんか流れで『楽園解放』とは手を切ったみたいになったため、治安維持部隊には加入しなかった。だが、それにより『楽園解放』のメンバーに支給される寮に入れなくなってしまったのだ。
つまり家無し。
なので、彼女は仕方なく(朝影曰く)、黒神の家に転がり込んだというわけだ。
「……つか、自分で可愛らしいとか言うか?」
「病院でのこと、言いふらしてもいいんだけど?」
「やめてください」
朝影は下をちょこっと出して意地悪っぽく笑った。
「で、なんでエプロンなわけ」
「一応居候させてもらうんだから、家事くらいしないとね」
そう言うと、朝影は台所(といっても、部屋なんてリビングくらいしか無いが)に移動し、料理をし始めた。あの材料だと、カレーを作るのだろう。
「朝影」
「ん?」
「その、ありがとな」
高校生の男子の1人暮らしでは十分な家事が出来ない。もちろん、黒神の料理が下手だからというのもあるが、やはり女子よりは欠けているのが事実だろう。
黒神のありがとうにはかなりの熱が篭っていた。
(一体今までどんな生活してきたのよ……部屋はかなり片付いてるけど)
「黒神、これから宜しくね」
まだ居候の許可は出していないはずだが。しかもここはマンションなので大家さんの許可もいるはずだが。疑問と不安を抱きながらも、黒神は答えた。
「ああ、こちらこそ」
「あ、それから大家さんには話を通してあるから」
行動が早すぎる。というか、何勝手に許可を得てるんだ。
そう思ったが、もはや受け入れるしかないのだろう。
それに、同い年くらいの女子が自分の家で料理をしている。これほどまでに男の夢を体現している状況はないだろう。にやける顔を必死に抑えながら、黒神は横目で朝影を見る。
これが、激闘の末に得たもの。
たった1人の女の子のために命を賭けてまで戦ったと言えば、普通の人間は苦笑いをするかもしれない。だが、彼はこれで満足している。
助けたかった存在が今、ここにいる。ただそれだけで、満足している。
「あ、俺のインタビューやってるし。なんか恥ずかしいな……」
確実に変わっていく日常。
だが、今は一息吐きたい。黒神は、心の底からそう思った。




