Section29
Lucerna
結局、私たちが戻ってきたのは最初に出て行ってから2時間も後のことだった。
ジルたちはティアナと話したりしていたけれど、やっぱりうまくいかなかったのかティアナは黙り込んでしまっている。
だけど……私はもう決めた。
「ティアナ、ちょっと話があるんだけど聞いてもらえないかな」
私はティアナに話しかけていた。
話を聞いてくれるかどうか心配しながら私は様子を見守る。
ティアナは少し考え込んだ後に口を開いた。
「なに……ルーシェちゃん」
「私、ティアナに言わなきゃいけないことあるんだけど、きっと今言ってもティアナには分かってもらえないと思う」
多分、私が何言っているかティアナは分からないかもしれない。
それに今のティアナにこんなことを言っても、相手にされないと思うし……
だけど、一応伝えないといけなかった。
――そうしないと、ここで終わりそうな気がしたから。
私の言葉を聞いたティアナは案の定私に言った。
「悪いけど、ルーシェちゃんが言ってること全然分からない、それに言ったでしょ?仲直りするつもりないからって」
「ティアナ、流石にそんなことを言ったら……」
ジルが口を挟んだところをティアナは、遮った。
「ジル、これは私とルーシェちゃんの問題だって言ったでしょ!口を挟まないでよ」
あまりのティアナの威勢にジルは黙り込んでしまう。
もしかしたら、いつものティアナじゃここまで怒らないと思ったからかもしれない。
それくらいみんながティアナの威勢に驚いていた。
「ちゃんとティアナにも全部説明するから。だから、待ってて」
「……」
無言になるティアナ。
そんなティアナを見るのが本当に嫌だった。
でも、ちゃんと仲直りしてみせる。
……そう決めたんだから。
そう考えて私はジル向き合いながら言う。
「ジル、これから私たちは別行動にしてもらいたいの」
「……え?」
流石に突然のことにジルも驚いているみたいだった。
「ちょっと行かなきゃいけない場所ができちゃって、クレアと行きたいんだ」
そう言って、私はクレアをちらっと見た。
クレアは成り行きを見守るように私とジルのやり取りを見つめている。
「うーん、本当はみんなで一緒に帰りたいんだけどな……」
それは私も思っていた。
本当はみんなで一緒に帰りたい。
また電車の中で、みんなと一緒にトランプとかで遊んだり、ご飯を食べたりしたかった。
だけど、クレアからこんな話を聞いてしまったら……探す必要があるのは明白だ。
なんとしても見つけ出して、エルナに見せなければいけない。
なにしろ私だって、あの優しそうだったアルフォンスが全て仕組んでいたなんて信じきれていない面もある。
だけど、クレアの言う事なんだし、多分本当だと思う。
……だって、マリエルは嘘をついたことが無かったから。
その時代の記憶を共有しているクレアもそんな私を騙して嘘をつくなんて決してしないと思う。
「お願い、ジル」
「ルシェルナ、それは……ティアナと仲直りすることに関係するの?」
ジルはティアナに聞こえないように小声で聞いてくる。
やっぱり、ジルはこういうところの気配りがしっかりできてるところがいいところだと思う。
「……うん、絶対帰ってきたら仲直りするから」
「そっか。本当はみんなで帰りたかったけど、それならルーシェを信じるよ」
――ジルが、認めてくれた。
ジルだって、この旅行の企画者で責任者な訳だからここでみんな一緒にいることから離れたくはなかったはずだ。
でも、私の気持ちを察してくれた上でこうやって私とクレアが少し外れることを許してくれた。
だから、私は私でちゃんとティアナと仲直りしないといけない。
そのためには、あの場所に戻らなきゃ!
――正直クレアが協力してくれることが本当に嬉しかった。
もちろんクレアが話してくれたことだからというのもあるけど、それとは別にこうやってまた私に協力してくれている。
だから一緒に頑張って探そう。
エルナと仲直りするために――
私とクレアはジルたちに話をつけたあとすぐに、出発することにした。
昨日乗ってきた逆方向の電車に乗る。
そんな電車に乗り込む際に、クレアが話しかけてきた。
「ねえ、ルーシェ」
「……んー?何?」
「さっきの話のことなんだけど――」
クレアがそう言ったとき、ちょうど電車が出発するベルが鳴った。
とりあえず、車内に入ってから話したほうがいいよね。
「あ、クレア。もう出発するらしいから中で話さない?」
「……そうね、そうしましょう」
そんなやり取りをしながら車内に入る。
車内のシートに落ち着きながら、私はクレアに話しかけた。
「ええとクレア、それで何の話だったの?」
「いや、なんかね、こんな風にまた会えたことが嬉しいなって思って。こんな事が起きちゃってる時にっていうのは分かってるんだけど……」
言われてみれば、なんとなくこうやって話しているけど、今は200年も前の時代じゃないんだよね。
でも、こうやって過去に親しかった人とまた話せている。
私がラインブルクのお屋敷でこの記憶を思い出した時最初に思ったことも……こうして会えてよかったってことだった。
そう考えるとなんだか、今ティアナと喧嘩していることが悲しくなる。
「……そうだね、も嬉しい。だけど、だからこそこんな風に喧嘩してたら駄目だと思う」
「うん、そのために探しに行くわけだしね」
探しに行くといっても、本当にプレーヴェの街にあるのかが問題だと思う。
でも、マリエルはどうしてその書類を公表せずにわざわざ保管なんてしていたんだろう。
そのことについて私は聞いてみた。
「でも、なんでそんな事実を黙ってたの?公表すれば間違いなく――あ……」
そうか……そういうことだったんだ。
「私も、エルナお嬢様に対して配慮をしてたのよ、巻き沿いをさせたくなかったから」
「そういうことだったんだ、ごめん」
「ルーシェは……まだアルフォンス伯を恨んでるの?」
不意にクレアは聞いてきた。
なんかいきなり言われてもちょっと困ってしまう。
……アルフォンスのことは恨んでいるわけじゃない、いろんな理由があって因縁があってこうなってしまったんだから。
自分で言うのもなんだけど、私もエルナも結局蚊帳の外で何も分からなくて知らなかった。
少しでもお互いの事情を知っていれば、いろいろと話し合えたのかもしれない。
でも、実際は私たちの知らない間で色んなことが起きててそれに振り回されていただけだった。
だから恨んでるとかじゃなくて……アルフォンスとも、もう一度話したかった。
「恨んではないよ、だけどもう一度話したかったかな」
私はクレアに思っていたことをそのまま口に出した。
「そっか、そうだよね。それに、アルフォンス伯も何も考えずにあんなことをしたんじゃないと思う」
「……でも、恨んではないけど許してはないよ」
なんとなく分かるのはティアナが私のことを許すつもりはないって言ったときの気持ちだった。
自分がこう思っているように、ティアナもそんな風に考えているんじゃないかと思う。
だから余計に悲しくなる。
いろんなことが絡まりあっていすぎて、どうにもならなかったから。
窓の景色を眺めながらそんなことを考えていた――




