Section26
Lucerna
旅行は今日で最終日。
こんな最悪な朝は今まででもなかったかもしれない。
朝の朝食での雰囲気は最悪だった。
誰も何も喋らないで、ただ黙々とご飯を食べているような。
つい昨日の朝までは、みんなで楽しくやっていたのに。
本当はみんなに迷惑をかけたくない。
特にクレアには、いろいろと昨日も心配をかけさせてしまった。
ティアナ……いや、エルナとの仲違いはずっと続いている。
あれからティアナは何も喋らなかった。
私もとてもみんなと笑って話せる状況でもなく、ずっと黙り込むことしかできなかった。
……だから、クレアには謝った。
ずっと元を辿れば、全部の原因は私にある。
だって、エルナをあんなにしたのは、私のせいだから。
私が全部――
「ルーシェ、ちょっと話そう」
「……え?」
うつむきながら考え事をしている私に声をかけてきたのはクレアだった。
「少しだけでいいから、ちょっとだけ」
それ、頭痛が痛いって言うのと一緒だよ……とか久々に突っ込みいれたくなる。
「いいよ」
気づいたら答えていた。
なんだか、私自身いろいろと昨日から気が滅入っていたみたいで、ちょっと話すくらいならいいかなと思ったみたい。
「ジル、ちょっとだけ時間いい?まだ時間には余裕あるんだよね?」
「そうだね、1時間くらいなら」
「じゃあちょっとルーシェと話してくるね」
クレアはそう言うと私の手を握りながら近くの通りまで引っ張っていく。
何を言われるかと思いきや、クレアは一言言った。
「ルーシェ、言いたいことがあるんだけどいい?」
――言いたいことね。
そりゃあいいたいこともあると思う。
「……言いたいことね」
「うん、聞いてくれる?」
――クレアはいつもそうやって。
だから嫌だった。
知っていたからこそ、何も告げたくなかった。
でも、今は私から言わないと。
「ルーシェ、その――」
「――マリエル」
「……え?」
「だから私は……マリエルが言いたいことを聞いてるんだよ?」
沈黙。
間違うはずがない。
直感があった、クレアはマリエルだって。
「お嬢様、気づいていたのですか……」
あの時のマリエルの口調で、あの時と同じ言葉をクレアは言った。
……だから私もあの時と同じ言葉で返す。
「当たり前だよ……これだけ一緒にいるんだから気づくよ」
「……っ……ごめんなさい」
「マリエルは、何も悪くないよ」
私はそう言ったけど、クレアはただただ謝り続けた。
「私が守るって言ったのに、お嬢様を……っ!」
「……仕方ないよ、あの状況じゃどうしようもなかった。マリエルだって分かってたでしょ……?」
「でも!でも――」
あのときのマリエルの気持ちは私もよく分かっていた。
マリエルはあの時、何かを知っていたんだ。
……でも、それとは予想外に私はあそこで襲われた。
だから、私を守れなかったことを悔やんでいるんだと思う。
だけどそれは、マリエルのせいじゃない。
それだけは言えるはず。
「クレア、私はクレアのこともマリエルのことも嫌いじゃないし恨んでもいないよ」
クレアは私の話を黙って聞いている。
そんな様子を察しながら私は話を続けた。
「そればかりか、感謝でいっぱいだよ。クレアもマリエルも、私のこといつも気にかけてくれて、それで……」
いろんなことを思い出す。
あれ、なんか頬がくすぐったいな……
「それでね、いつもクレアも……マリエルもね――」
「ルーシェ……っ!」
「……っく……ぅう……」
私はクレアに抱きつきながら、ただ泣いていた。
いろんな感情が次々に湧き出てきて、泣き止めない。
そして、そんな泣き喚く私を、クレアは何も言わずにずっと抱きしめてくれていた。
それが本当に幸せで、最高の一時だったと思う。