Section36
Sierra
あの件で、エルナは本当にブロンシェルへ行ってしまった。
私も……まさかあんなことになるなんて想像もしてなかったのに。
エルナとは付き合いが長いし、ちょっと喧嘩したくらいでは仲が引き裂かれるようなことは今まではなかった。
……でも、今回はあまりにもあっけなさすぎる。
それに、エルナに誤解されていることも色々あった。
確かにエルスリール家はシュヴァルツ出身だけど、私はアルジェント生まれでシュヴァルツに行ったことは一度もない。
……それに私はアルジェントの利益を考えてシュヴァルツについた方がいいと思った。
決してエルナを苦しめるためにシュヴァルツ側に付くことを決めたわけじゃないし、ブロンシェルを倒したいとか思ったわけじゃない。
でもこれは……私の誤算だった。
ちょっと考えれば分かることではあったかもしれない、敵対するブロンシェル側の人たちが侮蔑されたり悪口を言われたりすることくらい。
マリエルにも言われたけど……やっぱり、謝りに行こう。
そして誤解も解こう。
私の意見が決定打になったことは確かだけど、そこはちゃんと説明したい。
ブロンシェルまでだと結構遠いけど、エルナは大事な友達だ。
(――行きたいけれど……今は無理かな……)
ブロンシェルまではここから馬の足で1週間近くかかる。
行くとしたら準備もしなきゃいけないし、すぐに行けるわけじゃない。
……でも、できるだけ早くに行きたい。
遅くなればなるほど、行きたくなくなってしまいそうで怖い。
そう考えれば考えるほど不安になる……
「お嬢様、今よろしいでしょうか?」
私がそんなことを考えていると、マリエルに呼ばれた。
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「アネットお嬢様がお話をしたいと玄関でお待ちになっていますよ」
――アネットが?
(なんだか久しぶりだなぁ……最後に話したのはコンサートの前だったし――)
私はマリエルに玄関に行くように伝えて、そのまま向かう。
……しばらくして玄関について、ドアを開けると――
「シエラお姉さまー!!」
「う、うわぁ!」
やっぱり抱きつかれた。
まったくアネットは相変わらずだなぁ。
この前もこんな感じだったし、元気そうで何よりなんだけどね。
「お姉さま、お久しぶりです!」
「そうね、久しぶり」
私がそういうと、アネットは何か言いたそうにもじもじしていた。
でも、しばらくしてアネットは口を開いた。
「あの、今日はお姉さまにお話したいことがあって来ました!」
「……お話?」
「はい、何だかエルナお姉さまと喧嘩しちゃったとかって……」
――なんでアネットがそんなこと知ってるんだろう。
エルナと喧嘩した話は限られた人しか知らないと思うんだけど……
とりあえずそれは置いといて。
「あ、うん。まあそうなんだけど、仲直りしようと思ってブロンシェルに行こうと思ってるんだよね」
「……そうだったんですか、良かったー!」
他人事なのにすごく心配してくれてるのが表情から伝わってくる。
こうしてアネットに慕ってもらえてるのも嬉しい。
安心したように見えたけど、アネットは言葉を続けた
「でも、何かあったらリュミエール家を頼ってくださいね?ブロンシェルのほうにも別荘があるのでお父様に頼み込めば貸してもらえると思うので!」
あ、そうだ。
アネットのリュミエール家はもともとブロンシェル出身の家柄でクォンツィアから少し離れた場所に別荘を持っている。
私も何度か行ったことあるけど、すごく落ち着いていて綺麗な場所だった。
「ありがとう、じゃあエルナのところに行った時に借りていいかな?」
「はい!お父様も快く了承してくれると思います!」
エルナのところに行ける日が決まり次第、リュミエール家に頼りたいと思う。
(――頼れるところで頼らなくちゃ、好意は無駄に出来ないよね)
私もエルナも、もう少しお互い頼ったりしていたらこんなことにはならなかったのかな。
そんなことを考えながら、私はアネットとのひと時を過ごすのだった――