Section52
Lucerna
……なんか、こうしてみんなの前で演奏するのって恥ずかしい。
今更なんだけどね。
一方のティアナは結構堂々としててちょっと凛々しい感じがする。
やっぱり、こういう舞台……ではないけど発表会とかには慣れてるのかな?
「じゃあ、ええとティアナ始めよっか?」
「うん!」
とりあえず、ほとんど見知ってる顔だけど挨拶しないとね。
親しき仲にも礼儀有りというし……
「……ええと、本日は私たちのためにお集まりいただきありがとうございます」
「拙い演奏かも知れないですが、最後までお聞きいただければ嬉しいです!」
なんとか言葉を選んで挨拶をする。
これでいいのかどうか、ちょっとわからないけど。
「ルーシェちゃん、りらっくす!」
後ろでティアナが囁く。
やっぱりティアナは全然緊張とかしてないみたいだった。
私とティアナは一礼したあと、ピアノの椅子に腰掛けた。
……鍵盤に指を乗せて、ティアナに合図して、息を合わせる。
(――やっとティアナと、演奏できるんだ……)
なんだかそう思うとすごく長い時間がたったんだなって思えてくる。
200年の重さってどれくらいなんだろう、と。
……ふと、シエラの気持ちを考えてしまう。
そんなことを考えながら私は演奏を始めた。
音がずれないように、早くも遅くもならないように、慎重に――
ティアナのピアノの懐かしい音がよく聴こえてくる。
その懐かしい音が、私をリラックスさせて、滑らかに私も音をなぞってゆく。
(――懐かしいなぁ、こうやって昔もよく合わせて……)
……普段は大人しいのに、演奏になると急に凛々しくなっちゃって。
でもやっぱり怖がりで、臆病で……
と思ったら、私の腕を強引に引っ張って噴水まで連れてって。
――音は緩やかに流れていく。
あの時と同じ曲で、あの時と同じティアナの演奏だった。
私は弾けなかったけど、今なら……!
ふと、自分の中に何かが流れ込んでくる感覚――
(――あれ……?)
指が私の意志とは無関係に、動いていく。
鍵盤が水面を打つ雫の波紋のように緩やかになぞられていく。
それを私はまるで他人事のように……眺めていた。
(――綺麗な音……すごく落ち着いてて、なんだか優しそうな……)
これって私が弾いてるの――?
その綺麗で優しい音に聞き入っているうちに曲はもう終盤に。
……そして気づいたら、終わっていた。
(――いつの間に、終わってる……)
私が弾いたんだよね?
でも、それにしてはあまりにも落ち着いてて綺麗で、完璧だったような……
そして――
「すごいじゃないか!ティアナもルーシェも最高の演奏だったよ、素人の僕でもなんか二人の相性の良さを感じたよ!」
ジルが褒めてくれた!
「これはなかなかの演奏だな、ルーシェもティアナも長いあいだピアノやってるだけあるな!」
普段あんまり話さないラルフまで大絶賛してくれた。
ふと、ティアナの方を振り向くと驚きの表情を浮かべていた。
「……ティアナ?」
「いまのルーシェちゃんが弾いたの……?」
「うーん、それなんだけどね」
なんて言えばいいんだろう。
私が弾いたといえば弾いたんだけど、なんとなく弾いているときシエラの気持ちが伝わってきたような気がするんだよね。
「……なんかね、なんて言えばいいのかよくわからないんだけど、シエラが弾いてたような気がするんだよね」
「シエラちゃんが……?」
「うん、私もよくわからないんだけどなんとなくね」
「――私もだよ」
「……え?」
なんだろう、今一瞬エルナみたいに――
私の見間違い?聞き間違い?
「ルーシェちゃんどうしたの?」
「ごめん、何でもない!」
「……でもよかった、大成功だったよね!」
「そうだね!うまくいったと思う!」
本当に良かった。
もし、シエラがあの演奏を弾いたのなら私はすごく嬉しい。
だってこの演奏を一番望んでいたのは……シエラだから。
私はそれをよく、知っている。
「ルーシェ、今の演奏って……」
(――もう一人いたよね……)
クレアもまた、さっきの私の演奏を聞いてやっぱり何か感じたみたいだった。
「さっきティアナにも同じこと言われたよ、私も多分シエラが弾いたのかなって思ってるんだ」
「……やっぱりね、あれはシエラお嬢様の演奏だったわよ」
クレアも、もといマリエルはわかってたんだよね。
だって、マリエルはずっとシエラの隣にいたしいつも見守ってくれていて、お互いに信頼できる存在だったから。
私とクレアがこうして今も仲がいいのも、もしかしたらそういうところから来てるのかもしれない。
「きっとシエラが一番願っていたことだと思う、もう一度エルナとピアノを弾きたいってこと」
「そうね、なんとなくあの演奏からはそんな気持ちが感じ取れたわ」
(――シエラ、よかったね……)
私は心の中でシエラに話しかけた。
何も返事はなかったけれど微かにエルナのピアノが輝いたような気がした――
ええと、長らくの間お疲れ様でした。
「Entwined complexity」これで完結です!
活動報告の方にも書きましたが、最初にこれを書き始めてから4年も5年も経ってしまってなんかダラダラやりすぎた感がすごいです(笑)
ここまで長い小説を読んでもらえた方が居るかどうかすらわからないところですが、もし読んでくれている方がいましたらありがとうございます。
できれば感想等お待ちしております。
といっても、やはり長引きすぎたのもあって、自分の中ではイメージしてたものが十分に描ききれなかったなーという印象です。
これが処女作でもあり、力不足を痛感することになったのですが何はともあれ一応完結までこぎつけたことは達成感を感じてます(笑)
で、このあとにはまだアフターというか後日談というか、百合要素的なのを入れようとは思ってたのでもしかしたらちょくちょく続きを書くかもしれません。
あとは、挿絵に関してはまだまだ少ないのでこれもちょくちょく描いていこうかなとは思ってます。
そして誤字脱字と校正などもまた同じようにやっていくつもりなので今後もこの作品に磨きをかけていきたいです。
それではここに上げ始めてから2年間、読んでくれた方、お疲れ様でした。