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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編2
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83話 嵐の予感1

「疲れてないか?」

「疲れてたら聴取は免除されるの?」

「いや。予定を明日に変更するだけだ」

「それなら変更しなくて結構。ああ、エスコートもね」


 レティシアはヴァスバード侯爵が差し出した手を一瞥すると、一人で馬車から降りた。そして目の前にそびえる国営軍本部(たてもの)を睨んだ。





 カイにより、第五区から東側の第三区の三等地の拠点に強制的に追い出されたのが七日前だ。そこから王都へ向けて出発することになったのだが。軍の馬車を使うとは聞いていても、まさか宿が駐屯所とは言われていなかった。安全上の理由とか体の良いことを言っていたが、どう考えたって監視上の理由だろう。


 ヴァスバード侯爵一人でも苛ついたというのに、十人近くの軍人に四六時中囲まれたら不愉快極まりない。旅が終わった後は後で、面倒な事が待ち受けているとわかっているから、なおのこと。


 こんな目に遭うとわかっていたら、第五区にいた時にどんな手を使ってでも逃げてたのに。


(……でも私には表(こっち)でやらなきゃいけないことがある)


 レティシアは黒幕を暴かなければならないのだ。この裏には間違いなく貴族がいる。だから公爵令嬢という肩書きがある、自分にしかできない方法で黒幕を探し出し、殺すのだ。


 そしてもう一つは、昔ヴァッセがレティシアに何をしたのか調べることだ。


 カイたちと再会したあの地下の空間で思い出したのだ。第五区に行ってすぐ、あそこによく似た場所で、星授(ほしのさずけ)の儀のような儀式を受けていたことを。王都の星堂(せいどう)で儀式を受けた時に感じた既視感は、これだったのだ。


 しかしなぜ今、そのときの事を調べるのかというと、


(たぶん、この戦争と関係がある)


 これはレティシアの勘だが、全く関係がないのであれば、カイがああやって含みを持たせるような隠し方をしなかっただろう。その理由は全く見当も付かないが。

 とにかく、そういうこともあって調べようと決めたのだが、そう簡単にいかないだろう。もう十年も昔の子どもの頃のことで記憶が曖昧だし、なによりあ(・)の(・)こ(・)と(・)まで思い出さなければならないのだから。


(あんのクソジジイ……!)


 レティシアがあの日のことを今の今まで忘れていたのは、あの鳥の半面を被ったジジイのせいだ。儀式っぽいことが終わった直後、まるで箒を渡すような気軽さでジジイが渡してきた、ボロボロの人形(ペグドール)。ただでさえ不気味だというのに、その人形が突然、もがくように手足を動かしながらゆっくりと首を回し、こっちを見たのだ。その後のことは何も覚えていない。たぶん気絶したのだろう。


(ああ……気持ち悪くなってきた……)


 ようやく遠目で視界に入れられるくらいには人形嫌いを克服したと思っていたのに。

 恐怖体験を思い出したせいで顔が青ざめていたらしい。


「体調が悪そうに見えるが」


 ヴァスバード侯爵に再びいらない提案をされる前に、「天敵の腹の中に突っ込まれたから気分が悪いのよ」と答えておく。


「昨日話した通り、君の過去や誘拐中のことは既にイーツカルツェ公爵へ報告しているが、改めて君から事情を聴きたいそうだ。長い時間は掛からないとは思うが」

「なら早くあなたたちの頭(ボス)のとこに案内して」


 レティシアは歩き出し、


「ただイーツカルツェ公爵と会う前に、軍医に診てもらう。君は怪我をしていたから」


 レティシアは立ち止まり、「はあ?」と呆れた視線を投げた。


「あんなの怪我には入らないわ」

「それは君の基準だ。エレンツィオ、彼女を軍医の元へ案内してくれ」

「さあ、レティシア嬢。こちらです」

「?!」


 突然横から女好き貴公子軍人ことエレンツィオが現れた。なんでよりにもよってこの男なんだよ、普通は下っ端に任せるだろうが、下っ端に。レティシアがこの男を苦手だと知ったうえでの人選のようにしか思えなかった。


(覚えとけよ、この堅物軍人)


 キラキラしい毒気に当てられたレティシアは、もはや反論する余力もなく医務塔に連れて行かれてしまった。



 ◆◆◆



 レティシアをエレンツィオに託したヴィンセントは、本部へは入らず、星堂に馬を走らせた。表ではなく、裏門から敷地内へ入る。するとローブを被った一人の星詠(ほしよみ)がヴィンセントの元へ駆けつけてくる。


「ヴァスバード侯爵、何事でございましょうか?」

「突然訪問してすまない」


 ヴィンセントは詫びたあと、彼に小さな包みを渡す。


「……これは一体何でございますか?」


 中の瓦礫を確認した星詠は眉を顰めた。


「これは第五区にあった、星堂らしき場所の床の一部だ。この黒っぽいインクでこういう模様が描かれていて、さらにその下には劣化した別の模様があった」


 黒いインクの模様をメモした紙を渡し、手短に発見現場の様子について伝える。


「あちらには百年ほど前まで魔女がいたという話があるから、念のために調べてもらいたい」

「承知いたしました」

「もしも問(・)題(・)が(・)あ(・)れ(・)ば(・)、元帥へ直接一報を頼む」


 星詠は表情を固くして頷いた。問題がある。それが意味することはただ一つだからだ。

 ヴィンセントは彼に調査を託すと、再び国営軍の本部へ馬を走らせた。

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