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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編1
33/105

33話 疑惑の親子4

 ローレンスの元に珍しい客人が訪ねてきたのは、レティシアが領地へ発ってしばらくしてからだった。


「急な訪問で申し訳ありません、ラインベール公爵」


 頭を下げるヴァスバード侯爵に、ローレンスは気にしないでくれと告げた。ヴァスバード家とは交流はないが、若くして中央部隊の大将の座に就いた彼が、フィリウスと同様に多忙な人物であることは想像に難くない。


「それで話というのは」

「レティシア嬢が第一発見者になった事件のことを覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、一ヶ月前のあれか。呪陣は悪戯だという話だったと記憶していたのだけれど」

「確かにあれは魔女の痕跡ではありませんでした。けれどもしかしたら犯罪予告ではないかという疑いが浮上してきたのです」


 犯罪予告と言われても、現場を見ていないローレンスにはピンと来ない。


「脅かすつもりではありませんが、実はあれと同様の事件が二年前から立て続けに起こっていまして、その最初の事件が起きた日が、公爵が社交界へ復帰した日なのです」


 それ以外にも社交界でローレンスの噂が流れていた時期と事件の時期が一致することも彼は話した。初めて知らされた話に、ローレンスはただ愕然とするしかなかった。


「まだ事件と公爵と関係があると決まったわけではありません。けれど可能性の一つとして、あなたに何らかの恨みを持った人間の犯行という線も考えています。それで失礼とは存じますが、誰かとトラブルになった覚えはありますか?」


 ヴァスバード侯爵の単刀直入な問いに、ローレンスは心臓が跳ね上がるのを感じた。彼の言う恨みを持った人間が、呪陣事件に関してだということはわかっている。けれど後ろ暗いことがある身としてはどうしても動揺してしまう。


「表立ってはないけれど、私のことを面白くないと思う者はいるだろうね。長年貴族としての役目を放棄していたのにも関わらず、この地位にいるのだから」


 ローレンスは平静を装いながら答える。


「……あなたが市井に身を置いていた頃はどうですか?」

「トラブルはない。それに身分を隠して生活していたから、私が貴族だと知っている者はいないはずだ」


 ローレンスはマリアンヌを探すため、一等兵崩れという肩書きで全国を放浪していて、一つの土地に長く住んでいたわけでない。だから住民と必要以上に親しくなることもなかったし、身分は徹底的に隠していた。


「お嬢様の方でもトラブルはありませんでしたか?」

「もちろん」


 星導士(せいどうし)が二人の面倒を見ていてくれたので断言できる。


「……なるほど。ありがとうございます。どんな些細なことでもいいので何か思い出したことがありましたら教えてください。今のお二人は何かと目立ってしまうため、注意するに越したことはありませんから」

「確かにあと数か月は嫌でも注目され続けるだろうね」


 きっと次がレティシアがどこの誰と親密にしていただのという噂が流れるだろう。容易に想像ができる。


「レティシア嬢はいらっしゃいますか?」

「いや、今朝がた領地に戻ったところだ。基本的に娘はあちらで生活しているから」

「とりたてて言うほどの理由がないのでしたら、レティシア嬢も王都でお過ごしになられることをお勧めしいたします。王都の方が警備は整っていますし、なによりレティシア嬢もあなたがそばにいる方が安心でしょう」

「そうだね。そうしたいのは山々だけど……娘はどうやら王都の雰囲気と合わないらしいんだ。だからしばらくは邸の警備を強化したり対応しながら、こちらに生活拠点が移せるようにするよ」


 ローレンスは曖昧な返事をした。確かにヴァスバード侯爵の言う通りだろう。王都は国の中心とだけあって警備は厳重だし、何かあってからではなく、万が一を考えて行動すべきだ。しかしレティシアを王都に呼び寄せれば、ようやく食事を摂るようになってくれたのにまた絶食するのではないかと思って二の足を踏んでいるのだ。


「承知しました。では領地周辺の巡回を強化しましょう」

「すまないが、よろしく頼む」


 ヴァスバード侯爵は、雑談することもなく帰って行った。本当に仕事の合間を縫って忠告に来てくれたのだろう。それに感謝しつつも、複雑な気持ちになっていた。


(僕に恨みを持った人間か……)


 亡くなった人物も含めれば、相当いるだろう。もしかしたらマリアンヌだって、恨んでいたかも知れない。ローレンスは自室に戻ると、ざらつく心を宥めるようにただ星見儀(ほしみぎ)を見つめていた。



 ◆◆◆



(一体親子に何があったんだ)


 ラインベール公爵邸を後にしたヴィンセントは、眉間に皺を刻んでいた。レティシア嬢への疑惑を確かめたかったこともあって忠告を兼ねて彼と会ったのだが、その結果、公爵にも疑念を抱くことになった。


 彼はトラブルを抱えている。それは彼が多少動揺を見せたところをみるとほぼ確定だと思う。隠したのは言えない事情もあるからだろうが、解せなかったのは、なぜ彼が娘に遠慮しているのかということだ。いくら具体的な被害が出ていないとはいえ、娘を王都へ呼び寄せるのにどうしてああも消極的なのだろうか。ヴィンセントの忠告を信じていないのならわかるが、ラインベール公爵の態度はそうではなく、ただ彼女を呼ぶことに躊躇っているように見えた。


(あのときの彼女の挙動はもしかして違う意味だったのか……)


 劇場でレティシア嬢に、公爵が誰かに恨まれる心当たりがあるかと尋ねたときのことを思い返す。彼女はヴィンセントの問いに、否定どころか驚きもしなかった。もし心当たりがあったとしても、普通なら否定するなり父親を庇ったりするだろう。だがあれは、まるで他人事のような態度だった。


(もしかしたら彼女は父親を恨んでいるのか?)


 市井で生まれ育ったのであれば、貴族社会に来ることは彼女の意思ではなかっただろう。それでレティシア嬢は父親に怒りを感じていて、ラインベール公爵はその件で娘に遠慮していた。そう考えてすぐに打ち消す。


(そんな単純なことではなく、重要な何かが二人の間にあったはずだ。恐らく市井にいた頃に)


 ヴィンセントはただならぬ胸騒ぎを覚えていた。

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