32話 疑惑の親子3
面倒な観劇を終えて再び王都の邸に戻ったレティシアは、自室に籠って思考を巡らせる。
過去何件も起こっていたという魔法陣事件。あれは第五区の人間の仕業で間違いなかった。
第五区と呼ばれるそこは、かつて人間が暮らしていた土地で、今なお古の時代の力が強く残っている。だから常識では理解できないこと、例えば一日の長さは季節ではなく日によって違ったり、道もその時々で形や位置が変わったりと、不可思議なことが起こるのだ。
そしてその不可思議な現象の中には、人間の手で起こせるものもある。その一つに離れた場所と場所とを繋ぐ、門だ。具体的には専用の道具で特殊な文字を書くと、目的地まで瞬時に移動できる特別な入り口が作れるのだが。その門を作る時に使う文字が、過去の魔法陣の紋様の一部として描かれていた。それも五個もあったので偶然ではないと断言できる。
(だけど誰が、何のために)
テーブルの灯りを見つめたまま、レティシアは眉間に皺を寄せる。門の扱いは厳しく決められていて、市井側の出入り口を作る場所は第三区の四等地か、第四区の三、四等地にしろと厳命されている。にもかかわらず、魔方陣事件の全てが第二区や第三区の二等地や三等地で起こっていた。そのうえ閉じた門を消さず、あろうことか魔女さらにを示唆する魔法陣に仕立てるという暴挙に出ているのだ。
(頭は何をやってんだ)
門は便利な移動手段の反面、国営軍に領地を侵略される危険がある。だからこそ、扱い方には細心の注意を払っていたというのに。考えられるとすれば、統制が効かなくなっているのか、あるいは。
(軍の目をそっちに向けている間に何かするつもりか)
門を使える者は第五区でも、力を持っている家の人間に限られている。だから人員や武器をかき集めればそれなりの戦力になるので、何かを企てている可能性はある。国営軍に対抗できる戦力かどうかは怪しいが。
レティシアはソファの背に体を預けるとしばらく考え込んでいたが、「ああ、もう!」と拳と足を振り下ろした。
「なんでこうも身動き取れないのよ!」
悔しいことに、今のレティシアにはあちらの情報を知る術はない。ノーツェルに行っても、最後の繋がりだった星導士はもう姿を消しているだろうし、行動したくとも人脈がないどころか、、一人で自由に動き回って情報を集めることができないのだ。まあ目を付けられている状況でそんなことをしようものなら、もれなくヴァスバード侯爵が動くのが目に見えているが。
(早くいい結婚相手捕まえなきゃ)
そして家族の元に帰るのだ。この際、愛人枠でもなんでもいいから、とにかく情報が欲しい。のだが、次の夜会もそのまた次の夜会もまだ親族会だろう。というかあと二ヶ月くらいは普通の夜会に出られない気がする。
やる気を削がれる現実に、レティシアは大きなため息を吐きながらソファに倒れ込んだ。
なぜか第五区について色々知っているレティシア




