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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編1
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27話 綺麗な花にも毒はある1

 光があるところに影はある。平和なこの国が光だとすれば、影は間違いなく第五区だろう。


 現在では五老院(ごろういん)と呼ばれる、有力凶賊の五家ーーネービス家とザバステン家、チ二チェ家、モンテアーノ家、クシュト家ーーが支配しているため、昔のような襲撃事件はなくなった。しかしだからといって、凶賊たち(やつら)が脅威である事実に変わりはない。


 ゆえに第五区との境界である鉱山付近には、国営軍の北部隊の基地を配備し、そこに北方三辺境伯の配下である騎士団も加わって、警備に当たっている。


 そんな連中がレティシア嬢に接触していたとしたら。


(ーー金目的、か……)


 彼女を人質に公爵を強請るためだろう。しかしそれでは疑問が残る。彼女の見定めるような、睨み据えるような目。ヴィンセントには、あれがあちら側にいた者の目にしか思えないのだ。


「失礼しまーす」


 エレンツィオの暢気な声に、ヴィンセントは考えるのを中断して顔を上げた。


「例の件の途中報告か」


 例の件とは、時々市井で発生していた呪陣事件のことだ。エレンツィオには仕事の片手間でいいからと再調査を頼んでいた。


「まだ報告書を読んで、全ての事件を把握したところなんですけど」


 そう言って、エレンツィオは机に上にバサリと地図を広げる。軍が使用する精密な地図には所々にバツ印がついており、その横には事件の推定日時間が書き込まれている。過去の事件の報告書に一通り目を通しているヴィンセントは、過自分の記憶の中の情報と照らし合わせながら地図を見る。

 全部で十一箇所。日付けは発見日時と事件の推定日時の二つが記されているから、どれも当日の目撃者はいないようだ。


「犯行場所に共通点はなし。事件前後に不審者を見た、喧嘩や小競り合いがあったなどの、犯人に繋がる手掛かりもなし。共通点があるとしたら、六件目からですね」


 ヴィンセントは報告書に目を落とす。五件目までは呪陣のみが描かれた悪戯で、六件目以降は呪陣の呪陣のそばに動物の死骸が置かれるようになっている。

 六件目が鼠。その次が鳩、鴉、兎と続き、前回と今回が野犬だ。どれも野生動物なのは、足が付かぬようにしているからだろうが、それよりも気になることがある。


「……贄が大きくなってきているな」

「そうなんですよ。直近二件が同じ野犬っていうのが、ちょっと気になりますけど」


 前回も今回も事件現場が管轄内だったため、ヴィンセントは現場を見ているが、野犬の大きさにそこまでの差はなかった。


「単に野犬以上の大きさの動物、例えば鹿とかを捕らえられなかった。それで二つを区別するために、十一件目の野犬は死骸を刻んだ可能性はあります」


 エレンツィオはそう告げるが、恐らくそうではないだろう。区別するだけなら、もう一匹、鳥や鼠を置けば済むのだから。それにだ。


「十一件目だけ、事件のペースが早すぎるな」


 それまでの事件の間隔が不規則とはいえ、三ヶ月に一件くらいのペースだが、今回の事件は前の事件から一ヶ月足らず。恐らくは他の事件とは異なる、何か明確な理由があったはずだ。今はまだ、その何かが全く想像できないが。


「新情報、とまでは言い難いですけど、北部の方に出かけた際に市井で妙な話を耳にしました」

「妙な話?」

「先日、私用で北部の方に行ったので、ついでに最近変わったことはないか、四件目の事件現場付近の酒場とかで聞いて回っていたんです。そしたら事件が起こる前に、輝星石(きせいせき)を掘り当てて、一攫千金だと豪語していた酔客がいたという話が出てきました」

「鉱夫ということは、流れの者の可能性もあるか」

「その一回だけだというので、恐らくそうでしょう。ちなみに店主も含めて皆、酔っ払いの戯言だと片付けていたみたいです。オレがしつこく聞かなければ、思い出さなかったくらいですし」


 それはそうだろう。水晶やダイヤモンドとは異なる輝き方をする輝星石は、偽物と簡単に見分けがつくので宝石商に売ることは不可能。では国外で売り捌けるかといえば、今現在、貿易は船でしか行っていないから、これもほぼ不可能なのだ。他に売る方法があるとしたら輝星石ではなく、水晶だと偽って売ることだろうか。


「輝星石の偽造品の件は念のために伝えておこう。呪陣の調査はかなり根気がいるだろうが、引き続き頼む」

「任せてください!」


 エレンツィオはやけにやる気のある返事をする。これは恐らくレティシア嬢が第一発見者として関わっているからだろう。全く凝りていないなと思いながら背を見送り、ふと気づいた。あの事件は、レティシア嬢がお披露目した直後ではなかったかと。


 ヴィンセントは改めて地図に目を落とし、一番最初の事件現場を確認した。一件目の現場はレバンディオン。ハインカルツェ領内の都市だ。


(事件が起こった推定日時は、ラインベール公爵が社交界に復帰した翌日から翌々日の間か)


 長らく社交界から姿を消していたラインベール公爵が、再び現れたことは社交界以外でも様々な噂を呼んだのでよく覚えている。

 そして記憶に新しい、直近二件の事件。十件目の事件のあった場所の付近は、ハインカルツェ家の御用達の鍛冶屋があり、十一件目の事件は、レティシア嬢のお披露目があった直後。それもラインベール領で起きている。つまり、十一件中、三件の事件がラインベール公爵に関係する場所で発生しているということだ。


(他の八件に関しても調べる必要がありそうだな)


 市井に駆け落ちしていた公爵が、貴族社会に再び戻ってきたと同時に起こり始めた事件。ただの娘とは思えない令嬢といい、胸騒ぎを覚えていた。

【輝星石】ダイヤモンドよりも輝く、高級な宝石。

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