№006 決定的なハニトラに対処する少年の方法 【ゲシュタルト崩壊】
前回のあとがきにて、ごくごく民などと言う変態紳士がこのサイトにも常駐しているなどと言う勘違いをそのまま書いてしまったことをお詫び致します
「昨夜は【お楽しみ】でしたな?」
「あ?」
さて時間軸を物語冒頭の朝、つまりは会議の翌朝であり勇者召喚から4日目、すなわち前々々話『引き』の導入部分へと視点を戻す。
要するにシャーロット姫が夜這いに来た翌朝であり、それに対して咎めるでも知らぬ振りをするでもなく、王様本人が揶揄するように話を振った時点に描写が巻き戻るわけだが。
え? メタい? 何をいまさら。
あの後はボクも自室へ戻ったので何が起こったのかを最後まで見届けたわけではないが、烏丸くんがシャーロット姫に対して悪いことを働いたとは思えない程度の認識は抱いている。
ハニトラを仕掛けられている、と把握しておきながら手を出すような、自らの首を絞める事態を易々と引き起こすような考え無しな子でないことは明白だし、歳が近いとはいえシャーロットさんの印象はボクたち日本人の中では『子供』だ。
近年では選挙投票権の引き下げなんかで16から成人扱いにする政策もあったりするが、ボクらの中では『成人』と言えば未だ20以上からなのは言うまでもない。
現に、転位初日に『勇者として』一番目を引きやすいイケメンであるカナちゃんに縋るシャーロットさんの仕草にだって、ボクらの中では誰もが目くじらを立てなかったのだ。
特にカナちゃんのことが好きなパッションピンクこと桃園さんでさえ、『縋りつく美少女』という危険信号をスルーしていたくらいだし。
とにかく、以上のことから推察しても、子供を歯牙にかけるのはド外道のすることだ。
そういう前提もあって、猶更手を出すような真似はするわけがないと思われる。
……あれ、でも日本人男性って根本的にロリコンだから一抹程度の不安は払拭し切れないのかな……?
話を戻すが、仮にも王族がハニトラを仕掛けたという事実を、咎めることもなくむしろ揶揄するようにあの王様は烏丸くんへと話を振った。
犯人が確定した瞬間である。
なるほどー、貴方が率先して娘を差し出そうとしたわけですねー。
まあ、それにどうこう口出しできるのはボクじゃないけれど。
「あ、あのお父様、その――、」
「ああ、皆まで言わなくてもよいシャーロット。娘の選択に異論を挟む親などと、そこまで狭量である心算など無いのでな。【若いふたり】が夜半に同じ部屋に居たのだ、何も言わずともわかっているとも」
恐らくは訂正を挟もうとしたのだろうが、そんな姫の言葉を遮って知った顔でうむうむと頷く王様。
……途中までとはいえ、ボクもその【同室】に収まっていたのですが。その辺りまでは把握していないのか……。
それどころかハニトラが成功したものとすっかりと思い込んで――。
――いや、これは外堀から埋めようという策略……?
物わかりの良い父親を演じているようだけど、そもそも王族が考え無しに【王女の相手】を個人の勘定任せにするはずがないし、元よりハニトラを仕掛けるように差し向けたのも王様だって『自白』していた。
それが自白ではないと自覚できているかを窺い知れるものはいないけど、裏の采配を見透かしてしまっているボクや烏丸くんからすれば、のうのうとふざけたことを言っているカイゼルヒゲのおっさんだ。
しかしあのひとからすればハニトラが成功していようといまいと問題はなく、烏丸くんが王族を延いては国家を易々と害しないようにとの安心を【内外】に示せれば良いと思われるし。
え? そんな策張らないただの気の良いおっさんだっていう説?
ねえわ。
人間裏があるのが当然なんだから、未熟な子供はさておいて、いい歳過ぎた大人のしかも国主が、こっちの予測を裏切る『ただのいい人』で終わるわけがねーわ。
というかシャーロットさんの態度からも、もう違うモノだという意識がされ難いっていうのも問題だとは思うけど……。
彼女からすればハニトラが成功したとは言い難く、しかし自分の行動がどうしたって貞淑を犯す行為であったと認めざるを得ないのだろう。
恥ずかし気に顔を赤くして、烏丸くんの隣の席で座り込んだまま俯く様子は、見る者によっては初夜を迎えたばかりの新妻って感じだ。
汚い。さすが美少女、汚い。
何をやっても絵になるんだから、まったくもって美少女って奴は得だよ。
………………ガチで初体験済ませました、っていうオチじゃないよね?
「それに、未だ見通しは不明瞭だが、世界の先を安寧へと傾けるべく動いてくださる方を王族へと迎え入れることに意義など唱えぬ。お前は貞淑に、カラスマ殿に付き随っておれば宜しいのだ」
「ふぅん……」
畳みかけるようにシャーロットさんの言質を封殺する王様だが、呟くような烏丸くんの反応が妙に不穏に感じるのはボクだけだろうか。
というか、王様の言葉からもやっぱり策を張っていたことが判明したわけだが。
……というか、烏丸くんは何故に其処で否定を口にしないの?
ふと、部屋の空気が妙に静まり返っていることに気付く。
王様が喋っているから私語が厳禁、というわけでもなく、朝食の席だというのにやたらと消化に悪いイメージが場を満たす。
横目で見渡せば、カイチョーとカナちゃんとパッションピンクが、烏丸くんへ冷ややかな目を向けていた。
まるで犯罪者か変態を目撃したかのような剣呑な雰囲気……これが空気の原因か!
「少し用事が出来た。シャロ、行くぞ」
「え!? あ、は、はい! し、失礼しますお父様」
「うむ、構わぬ。しかしもう愛称で呼ぶ仲か、実に良好だ。はっはっは」
ちょ、ええー。
空気どうにかしてから行ってよ。
明らかに不穏な空気を纏わせつつ、慌てる姫を引き連れて席を立つ烏丸くん。
それを追うべく、ボクもまた慌てて席を後にするのであった――。
◇ ◆ ◇ ◆
「タクっ、ちょっと待てっ!」
――と、そのままフェードアウトできればよかったのだがそうは問屋が卸さぬというのか。
部屋から出て早くも見失ったふたりを追いかけようとするボクの腕を引いて、カナちゃんを筆頭に全員が後を追ってきていた。
「なにかな、今ボク急いでるんだけど。具体的に言うなら烏丸くん達を急いで追いかけて詳しく聞いておきたい」
「追いかけてどうする、って詳しく何を聞くつもりだ!?」
「そりゃあナニやろなぁ」
「嶽本会長は黙っててください!」
先制を打つボクのジャブに、裏拳で人中を食らったような反応を見せるカナちゃん。
軽くカイチョーと冗句を交わし、改めて幼馴染はボクへと問いかけた。
「子供に手を出すロリコンだぞ。いくらタクが善意を顕わにしても、危ないことには変わりない」
「そうね。幼児体系に食指が動くってことは、ショタも往けるって話だろうし」
「誰がショタか」
成長足んねーだけですぅー! Fカップのパッションピンクは前に出てくるの辞めてくんない? キミなんてボクの人生にとってはモブと変わらないんだからね!
カナちゃんと会話しているから関わってくるのか、軽く人を揶揄するのを取り止めない桃園さんがちらちらと邪魔だ。
傍目に言い返すのも煽るだけなことも自覚しているので内心で扱き下ろしつつ、ボクは語る。
「さておいて、此処は烏丸くんとはきちんと話しておくべきだと思うんだ」
「何故だ、正直かかわりになりたくないんだが……」
「そうして引き離されても、同じ召喚被害者が別行動することは事態の好転にそうそう繋がらないよ」
語るべきことを語る。
思えば、こっちの同学年組とは召喚されてから然程の交流も無かった気がする。
お互いに考えることや準備もあったから、部屋も違うモノを充てられたし自然と別行動になっていたけれども、良く知らないもっと言及するならば悪い印象しか抱いていないであろう烏丸くんへのイメージも、今回の事態が決定打になっているかとも思う。
それもまた彼の行動の結果だろうけれども、だからといって遠避けていては日本の常識が通用しない異世界では悪手そのものだ。
「ああいうチートキャラは同じように召喚された他のキャラと一線を画しているから独断専行を取られるとあっという間に俺TUEEEE的な存在に成り上がっていたりして後々に断罪だ!って逆襲に来たりするんだよ。ネットで見た!」
「タっくんはナニをいうとるんや」
ゆえに、彼を現状のイメージだけでハブにするのはダメだとボクは思います。
そんな素人系ジュブナイルのお約束を前提に据えてワンブレスで語ってみたが、即座にカイチョーのツッコミが入るくらいには胡乱な話であることも自覚している。
しかし、実際に魔法めいた手段を既に得ている烏丸くんを召喚被害者の自陣から引き剥がされることは、やはり見過ごしてはいけないことだと思うのです。
「まあ、言いたいことはわかるけどな……」
「せやね、お約束っちゃあお約束や」
おや意外。
カナちゃんとカイチョーはボクの話に僅かばかりの納得を見せているご様子。
やや呆れたような顔つきで唸るお二人とは対照的に、ピンクはどう見ても疑問符を頭上に浮かべたご様子で納得がいっていなかったけれど。
「せやけどタクミくん、烏丸くんがやらかしたことは擁護できへんよ?」
「そう、だな。見逃せないかといって、仲間にするにしたって性癖が明らかにアレなのはちょっと……」
「あ、それたぶん王様の虚言」
「「それを先に云え」」
……言ってなかったっけ?
さておいて、昨夜の遣り取りに王様の策についての説明、しかして烏丸くんの狙いが不透明なことも挟みつつ教えておく。
渋っていたお三方だが、説得の甲斐あって烏丸くんを引き留めることには納得した模様だった。
「ほなら、とっとと見つけておこうか。まかり間違って先に旅立たれようもんなら、タっくんの言う通り後々になって痛い目を見るハーレムメンバーなのは間違いないで」
「その場合討たれるのはカナちゃんだね。つまり幼馴染が死ぬ」
「理不尽だな!?」
連れ立って王宮内を往く。
そんな中、桃園さんの呟きがボクらを止めた。
「ハーレムといえば……、あたし『向こう』に居たときに聞いた覚えがあるんだけど……」
「なに? 自画自賛?」
「あたしらのことじゃなくって、新規よ。1年に既にハーレム作ったやつがいる、って」
「俺はハーレムとか作った覚えも無いぞ……」
なんかもうハーレムと言う単語が出過ぎてゲシュタルト崩壊起こしそう。むしろ胸焼けしそう。
ちなみにカナちゃんのツイートは棄却され黙殺された。
「ああ、その辺も含めて彼に話聞こうかな思うとったんよ。話題の1年はあの子やで、たぶん」
「マジすか」
ハーレム野郎ばっかりだな男子。しねばいいのに。
◇ ◆ ◇ ◆
――部屋に充満していたのは甘く芳しい花の香りだった。
閉め切って香を焚いた室内は寒々しい室外と打って変わって暑気で溢れ返っており、思わず服を脱ぎたくなるほどに発汗を誘発することが理解できた。
そんな蒸し暑い部屋の中で、中央に用意してある天蓋付きのベッドの上で、金糸の髪の少女が肌を晒して伏せている。
苦悶にも似た喘ぐような息遣いを断続的に漏らし吐き出し、膝立ちとなった、お尻を突き出したかのような姿勢だった。
四つん這いに成れないのは、伸ばせない自らの腕で上体を支えていられない所為だろう。
ベッドに伏せたシャーロット姫には、褐色の素肌を晒した男性が、圧し掛かるように覆い被さってその身体を支配していた。
何事かを囁くように、男の唇は姫の耳元に寄せられ、しかし彼の片腕は姫の首を拘束するかのように肩へと回されて、伸ばされたその指先は姫の口中を蹂躙している。
陶磁のような白い肌には彼の空いた片手が、肉付きの無いお腹や太腿、ささやかに膨らんだ胸元に触れて、這うように撫で回す。
そのたびに幼い姫はびくりびくりと細い肢体を震わせて、電流のように走る刺激に合わせて嬌声にも似た声音が漏れる。
それはまさに、自身を慰める術を知らなかった初雪のような彼女が、快感を教え込まされ新たな扉を無理やりに開かせられてゆく様にも伺えたわぁお――あれ真っ暗、
「俺たちの信頼を返せ!!」
「……いきなりなんすか皆さん」
……後から知ったのだが、このときのボクはカナちゃんの手で目を塞がれて、視界を奪った幼馴染はと言えば褐色の彼――烏丸くんへと激昂顕わに代表して怒鳴っていた。
なので、描写が不充分なのはカナちゃんの所為である。まあ全年齢だし仕方が無し。
スレッドの移籍? 何の話かわからないなぁ。
~作中における軽い解釈~
・ネットで見た!
飛び交っていたのはありとあらゆる素人小説
俺TUEEEE!や断罪モノは基本的にみんな大好きだが、多すぎて辟易されるのも事実
・パッションピンクさん
Fらしい。なぜ知っているキンジョーちゃん
・このお話は全年齢向けです
基本的にはキンジョーちゃんの目線で進む物語。是非も無いよネ!
ちなみに地上波では謎の光が差し込みます
なお、書籍化すると表現が盛られます。まあそんな予定一切無いのでこんなこと口走っても無問題ですけど!