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№004 いつから宿屋が安全であると錯覚していた…? 【タイトルロゴの回収】

おいおいラブコメがねーぞ!

という声が聴こえた気がしたんだ


 さて話をガチャを回すことになった事態の前日、つまりは会合の夜に時間を戻そう。

 ボクも把握している、昨晩の事情に関する出来事だ。


 実はボクに充てられた自室が烏丸くんの部屋と隣同士になっているわけだが、風呂に行った帰り道にそれに遭遇してしまったのだ。


 ……普通にあるんだよね。この世界にもお風呂が。

 しかも湯を溜めておく大浴場型の湯船に漬かれるタイプ。

 城で王家らを筆頭に貴族に使われているだけあって豪奢な造りで、身体を洗うのにメイドが用意されていたりもした。

 いあ、ボクは自分で洗えるからとキッチリ辞退しましたけどね? 流石に他の子は知らないけど。


 現代日本の蛇口みたいにワンアクションで湯水が出る造りでは流石に無かったけれど、引いて来た水を沸かせて使う『水道』の概念があることには軽いカルチャーショックを覚えたものです。


 まあ、考えてみれば古代ローマでも風呂の文化はあったと聞くし、湯に漬かりたがるのは生物の本能と呼べるレベルの何某だ。

 風呂文化が廃れたのも某C教の戒律が関わって廃止されたのが原因の一つだから、宗教の存在しないこの世界なら300年も在ればそれなりに発展しているのも頷ける話だね。

 いや、衛生観念の足りなさが原因だったか――。


 ――お風呂の話はもういいですかそうですか。



 まあ要するに、空桶片手に物足りない洗面用具を伴って、湯立ちの熱が夜気に奪われないうちに部屋へと戻れば、烏丸くんの部屋の前でうろうろしている某お姫様を見つけてしまったことが事態でした。


 しかもその恰好が、なんというか実に煽情的で。

 身体の線は細く、14という年齢相応に起伏には乏しく、女性らしい肉感はほぼ伺えない。


 しかしレース系の……ロー、ブ……? はたまたベビードール? いやさ、ネグリジェ? 要するにそんな感じの、薄手の布に身を包んだシャーロット姫の御姿は、『実際の年齢』という実情報を挟んでもなお麗しい。語彙がアレで済まない。


 敢えて例えてイラストを妄想させるのならば、ドラゴンの名を冠する国民的有名RPGで言うところのシルクのビスチェに近しい裾がふわっふわの夜着を纏うその姿が、背中まで伸ばされた金の髪と神秘的なコントラストを醸し出し、えもいえぬ色気を顕わとしていた(詩的表現。



 ところで、この世界の衣服に関しては、自室を用意してもらったその日に色々と賜らせていただいたついでに推測し、文化を学習したこの日に一緒に学ばせてもらった。


 一般的な既製服に使われる布は動物の皮を(なめ)したものが中心で、シルクつまり蚕の繭から糸を紡ぐような技術が無いらしい。

 元の世界だと養蚕には5000年以上の歴史があるから、絹製品が無いと言われると異文化コミュニケーションどころの話じゃなくなってくる。


 例えば虫の居ない世界なんてモノもトリップ系小説には出揃うので、先ほど挙げたお題目(例え)の『シルクのビスチェ』を形成するならばその辺りの齟齬が現状との矛盾を醸し出す。


 世界観によっては再現不可能な装備とかね。

 結局、じゃあその着ているモノの正体はなんなのさ、とツッコミを入れたくもなってくるし。


 一応、布製品の種類的には麻とか綿とかもあるけど、肌触りと程良い軽さを考慮すると植物由来とは思えない出来栄えで……まさか石油製品があるわけじゃないだろうな。

 ファンタジー世界の素材は謎に満ち溢れてます。



「えーと、シャーロットさん?」


「ふぇっ!? ……あ、ど、どうもキンジョーさま、ご機嫌麗しゅう」


「ども。いや、そこまで怯えなくても何もしませんよ?」



 話を戻そう。


 烏丸くんによる初手の脅迫が後を引いているらしく、ボクらのような普通の学生にも怯えたご様子のままのシャーロット姫。

 そんな状態で鉢合わせてしまったのだから、如何にして彼の部屋へ赴こうとしたのかはさておき、妙に可愛らしい反応で狼狽えるのも仕方がない。


 というか、どう考えても夜這いの恰好としか思えませんが。



「そこ、烏丸くんの部屋ですよね。彼に何かご用でも?」


「ぇ、えぇっと……」



 思えないのですが敢えて問うてみるスタイル。

 わからないことをわからないままにするよりも、コミュニケーションをより多くとって会話を重ねないと個人間での溝が埋まることは無いのです。

 云わずとも分かり合えるなんてことは幻想です。


 胡乱な持論は脇に置いて確認したところ、やはりというかなんというか、上からの命令でハニートラップを仕掛けに来たのだと白状された。

 もっと明確に言うならば、命令と言うよりは嘆願に近く、ハニトラと言うよりは生贄に近い認識が彼女の中に形作られていた。



 貴族中心のこの国において、王家以上の存在などはあるわけもない。

 しかし、国家の中枢を貴族に据えても、国家の中心が民になるのは至極当然の事項だ。


 国とは数を多めにした人の群れの延長線上だから、大多数が幸福を得られるような選択を取らなければ群れが破綻するのは目に見えている。

 大多数の生存と繁栄を選ぶならば、犠牲にせざるを得ない者はどのような立場に置かれていたとしても選択しなくてはならない。


 今回その【犠牲】に選ばれたのが、見目が良く、人格が良く、誰であっても欲することになるであろう『国家の中心への橋渡し』に繋がるシャーロット姫であった、というだけの話なのだ。


 つまりは、そんな会議を彼らは開いて、其処で彼女が自らを繋ぎへ自薦するように誘導したのだろう。

 それがあわよくば国を助けてくれる一手(理由)になればと、微かな期待も乗せられているのかもしれない。


 まるで魔王に献上される姫の様である。

 人身御供として供される村娘で例えても可。



「というか、シャーロットさんは婚約者がいらっしゃいませんでしたっけ?」


「確かにいますが……、この世界を救っていただくかどうかという瀬戸際です、仕方のないことと納得していただけるでしょう……」



 どう見ても泣きそうな顔で身体を抱き締め、自らの選択を決意と共に示そうとするシャーロットさん。


 聞けば、彼女の婚約者は王都ではなく現在別の都市に居るのだとか。

 事後承諾になるだろうけど、目前に迫った脅威と天秤にかければ何が大事かは一目瞭然。


 というか、烏丸くんへの認識が相変わらず手酷かった。間違っちゃあいない実績も備えちゃいるけれど。



 だがしかし、だ。



「じゃあ、ボクからももう少し口添えさせてください。さすがにこうして事情を知ってしまって見送るのは、色々と気まずいですし」



 愛想笑いで彼女と彼との橋渡しを申し出る。


 そもそも、召喚勇者それぞれに充てられているはずのお付きメイドすら遠慮している烏丸くんからすれば、姫であろうとむしろ(王族)であるからこそ容易く懐へ引き入れるとは思えない。


 下手をすれば『余計な口を挟んだ』という程度の理由を添えられて、国へ対して後顧の憂いを考えずに殺戮の限りを尽くしそう。


 今後に溝を為すような案件をスルーとか、『普通の高校生』としての精神安定上出来るはずもないでしょ!?


 

 しかしそもそも、この国がもっと短慮なら呼び出しても言うことを聞かないボクたちを始末して『次』を呼び出そうとしていたのだろうが、それが取れない手段だという事情も王様から教えられている。


 そうなると彼の警戒は杞憂に終わりそうだけれど、自らを差し出す姫様が『国家のため』と差し違えてでも烏丸くんの息の根を止めて、まだ話が通じそうなボクらへお鉢を回そうとすることも考慮へ入れられる。……想像してみるとナイフ構えたヤンデレみたいだが。


 さておき。

 要するに、今回のこれは夜這いという名の『外交』。

 『寝首の掻き合い』という、血生臭い事案が潜んでいそうな側面も映しているのである。

 あるのだけ、れ、ど。



「ご配慮ありがとうございますキンジョーさま、どうかせめてお話だけでも通していただければ、あとは私自身で成し遂げますので」



 ……苦汁を飲み込む様な無理して作ったような笑顔を見せられちゃうと、そのボクの小市民的な保身あっての提案が酷く矮小に思えてきますごめんなさい。


 これが何か企てているような態度だとしたらもう誰も信じられない、ってくらいの無垢さがきらきらと伝わってくる……!

 ごめんなさいボク姫の身を案じているとかそういう点をあんまり考慮に入れてません許してくださいぃぃぃ……!




  ◇    ◆    ◇    ◆




「ぅわあ、なんだこれ」


「なんかご用ですかね」



 疑問と言いうよりは警戒が表立つ、烏丸くんが顔を出した部屋の扉から覗ける中の様相は、ボクの部屋とは一線を画していた。


 部屋中に散見する本、本、巻物、本、本、本。

 寝床として用意されているはずの天蓋付きの豪奢なベッドの上にまで、所狭しと積まれていた様相は神保町の紙遣いを彷彿とさせるほどの書籍の数。


 やや不審そうにボクらを見下ろす烏丸くんだけど、たった数日で自室をこの(ザマ)に替えたキミが一番不審だよ。



「なにこれ、どうやったら此処まで散らかるの」


「散らかっちゃいないでしょう。ちょいと足の踏み場が無いだけで」


「それは充分すぎる散らかり具合だよ」



 これまでの行動と言動の印象から、もっとキッチリしたヒトだと思っていたのだけれど……。

 プライベートは意外とだらしない子なのかなぁ。



 部屋の様相も気にはなるけれど、先ずは果たすべき『仕事』から、ということで先ほどボクが浄化されかけたシャーロット姫(犯人様)を仲介する。


 その際に、お見合いのように後は若いモノおふたりでふぇっふぇっふぇ、と早々に立ち去るつもりはなく、ことのついでとばかりに姫が居辛くないようにと配慮する『振り』をして彼の部屋へと入室する許可を求めるボク。


 ボクが必要としている今の状況はこの先にあるわけでしてー。



 そんなボクの意図を汲み取ったのか、はたまたネグリジェ姿で恥じらう姫様に劣情(萌え)を覚えたお陰か、しかして烏丸くんはやや嫌そうな顔を崩さぬままに、部屋へと押し入ろうというボクらを歓迎してくれた。


 文字通り足の踏み場も無い床を探しつつ侵入し、辛うじて座るスペースという名の隙間をベッドの上に見つけ出し、家主の許可を取り収まるボクたち。

 そんなボクらに対して、家主であり惨状の加害者である烏丸くんは胡乱気な顔を崩さぬままに問いかけたのだった。



「それで、用件はいったい何なんです?」


「その前にイチ時間、いや30分だけでいいからボクにこの部屋を片付ける時間をくれないか」


「それならお引き取り願います」


「ノゥ! 待って待って!」



 とあるラノベネタを使ったところ辛らつに切り返されるという不条理。

 これは知らないから切り返されたのか、はたまた知ってはいても付き合っていられないと斬り捨てられたのか。


 しかしてステイと拒絶を遮り、さておきウィットに富んだ冗句を緩衝材代わりに入れることは不可能と判断し、ボクは話を切り替えることにした。



「というか、これらってこの世界のだよね。烏丸くんってこっちの文字をもう読めるの?」


「いや、そういう能力は俺にはないです」


「ん?」



 話を切り替えてないって? ははは、まっさかー。


 それはそれとして彼の返事にこちらの質問との齟齬を感じる。

 それを失言とでも思ったのだろうか、嘆息するような間を置いて、烏丸くんは言葉を続けた。



「あー……、これらが此処の言語で綴られているのは把握しているみたいなので言いますが、ぶっちゃけこれらって日本みたいに自動筆記や活版印刷がされていない、手記染みた物が大半なんですよ。つまり、」


「……ああ、書く人によっちゃ癖字とかすごそうだもんね。だから暗号解読みたいな作業になって」



 そこで『そんな能力は俺にはない』発言に繋がるわけか。


 云いたいことが互いに伝わり頷き合うと、じゃあ今度は別の疑問が沸いてくる。



「じゃあそこまで読めないモノを、なんでキミはこんなに貯め込んでいるのさ」


「この世界の歴史や文化を口伝だけで把握し切れるわけはないっすからね、情報を精査するには多角的なモノの見方を捉えておかないと。 この世界が何で構成されてどのような道筋を歩んで来たかを把握しておけば、起こっている事態に適切に対処できる手段を模索するのにも役立ちますし」



 もっともそれを扱うか否かは気分で決めさせていただきますがねー、と取って付けたような言葉で締め括る。ツンデレか。


 要するに、彼はこの国を散々脅したり虐めたりしながらも、それなりに解決するための手段を模索していたのだろう。

 言葉にするとこんな感じに、



『勘違いするなよっ、この国のことなんて別になんとも思ってないんだからな』



 ――みたいな。ツンデレだね。


 その内心を察してしまい、そっかー、と思わず優しい目を向ける。

 まあシャーロット姫は未だに察せられることなく怯えているけど。というか男子のツンデレとか誰得。


 そもそも、彼は思った以上にこの国に対して悪感情を抱いていないのか。

 もしくは行動に即直結させるほど直情的ではない、ということかもしれないが。


 どちらにせよ、先に懸念したような『殺戮の限りを尽くす』みたいな行動に移しかねない気配は抱いていない様子なので、ボクとしては安心である。


 え? 初手で脅迫しただろって?

 いや、アレはアレで今の立場の確立にもなったし、ひょっとすれば計算されてた可能性も微粒子レベルで存在していたかも。まあ今はいいや。


 さておき、懸念が少なくともボクの中では解消されたので、姫を初めとしたこの国の人たちや顔見知りであるボクたちが抱いていた得体の知れない恐怖は大分和らいだ。ボク個人に限定されるが。


 そんな状態だからこそ、彼に近づくための第一歩を今、ボクが踏み出すのであった。



「ともあれ、さておき、とにかく、だね。穂織野宮に通う二年の金城巧です。学園都市の合法ロリ先生みたいに『キンジョーちゃん』って呼んでね」


「了解ですキンジョーちゃん先輩。同高に通う新入生の烏丸です。お手軽お気楽フレンドリーに『ソラくん☆』とお呼びください」



 挨拶は大事。古事記にも載っている。

 そんなボクらの遣り取りを、シャーロットさんは怯えを失くさぬままにぼんやりと眺めつつ呟いていた。



「……あの、ひょっとしておふたりは、お知り合いではなかったのですか……?」



 あ、バレた。

 まあいいや、今はそれよりも。



「で、だね、烏丸くん。キミに是非とも聞いておきたいことがあったんだけど」


「呼ばねえのですかよ。なんです? 応えられる程度なら答えますぜ」



 後輩だという自白は取れたし、ファーストネーム呼びは距離感そこまでまだ取れてないし。

 そんな内心は吐露せずに、ずっと気になっていたことを問い質すボクであった。



「キミって、ひょっとして【魔術師】とかソレ系統のひとなの?」


~ローマこそ我が至高! 称えよ!(赤王感

 ぶっちゃけなろうで良く喩えられる中世ヨーロッパ()よりもかなり文化が進歩していたのが紀元前ローマだとか。…なんで時代が進んでいるのに退化してるんですかねぇ…?

 原因挙げれば作中で准えた通りに基本としては某C教が原因ですがね。お題目の救世主様ご本人では無くて後々の権益をどうのこうので衰退が云々。人類は衰退してました、とかいう世界線。救えねぇ…



~ファンタジー世界の素材

 後々にも出て来るけど、世界樹の葉とかドラゴンの鞣革とか、蚕の代わりは巨大虫系モンスターの吐く糸だったとかいう裏設定があるのかもしれん

 あるのかもしれんが、多分其処が気になるのは技術者か生産者か異世界トリップした主人公くらいであって読者ではない

 描写のバランスって大事よね、という話。バランス取れない作者からの言い訳です



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