№019 異世界冒険、開始! 【主人公ではない】
「まあ、マジで落ち着いてください」
「落ち着けるか!? アンタが、言っておけば、アタシはあんな、あんな気持ちイイ目にぃぃぃっ!?」
「いや、ほんとに落ち着いた方がエエと思うでユラちん?」
語るに落ちてるぞピンク。
こいつ今日からドエム戦隊ビッチピンクって呼ぼう。ニチアサの戦隊モノヒロインみたいだネ!
ていうか、ほんとに帰ること出来るんだ?
「……落ち着いてるな、タク」
「いや、けっこう驚いてるよ。……カナちゃんまで平坦とか言い出さないでよね?」
「い、わねぇよ、うん」
フラットな態度に見えるのはジュニドル時代に培った処世術のひとつでもある。
モノ描きのように一歩引いた地点から俯瞰的に物事を臨めば、割と色々なモノが見えてきて役に立つのです。これ前にも言ったな。
そんなわけで突っ込まれたら二番煎じになる幼馴染にはジト目を向ける。
何やらごちゃごちゃと言い淀んだ気もするが、口には出してないのだから追及はしないぜ。
「でもまあ、良かったよ、帰れて」
「ああー、まあいつまでも中世ヨーロッパ的世界観じゃあねぇ。世の中の転生者には悪いけど、現代日本人には生き辛いよねぇ」
「いや、そう云う事じゃなくて……お前を無事に帰せて、良かったなぁ、って……」
「え、なに、聴こえない」
おら口ごもるなよ。
さっきみたいにお前を守るよくらいはっきり言えよ。
そんなんだから無駄にハーレム造ってるんやぞお前わかっとるんか。
ハーレム主人公系の幼馴染に対して容赦する、という選択肢は無い。
ガン見するボクから顔を逸らし続けるカナちゃんは赤面しつつあるのだが、そんな中でパンパンと音が聴こえた。
「はいはーい、話は終わってないですからねー、みなさん最後まできいてくださーい」
手を叩いたらしい烏丸くんが、そんな呼びかけ。
叩いたのは手だよ。
変な想像しないように。
「帰れはしますが、まだ帰る気はありません」
「なんでよぅ!?」
「最後まで聴こーや。ちゅーか、帰れるんならなおさらさっきのお姉さまとの遣り取り要らんやろ?」
ナニヤラ迸るドエム戦隊ビッチピンク、やっぱ長いな止めよう、桃園さんを羽交い絞めにして抑えつけているカイチョーが、至極尤もな返事をしていた。
まあねぇ、帰れたのならそもそもとっくの昔に帰っているだろうし、根本的にボクたちを連れて帰る必要も実は彼には無いし。
「あ、皆さんを連れて帰らない、っていう選択肢は無いです。これも安心させるために言うのですけど」
「その配慮、メッサ遅いで」
「ほんとだよ」
カイチョーのツッコミにボクの声も被さる。
キミがもう少し配慮出来てたら、此処までの色んな事件むしろ事案がすっぱりと片付いていたんじゃないのかな!?
と、内心ではちょびっとだけアラブっていたりします。
「ついでに言うと、先に一回帰っている、っていうわけでもないです。 それすると、もう一回こっちに来るときにどんなタイムロスが生まれるかわかったものでもない、っていう問題がありますから。 だから皆さんを連れては“まだ”帰れません」
そう続ける彼に、ハテナ、とちょっとした疑問が浮かぶ。
「帰ったのならもう一回くる必要性ってあるの? キミのことだからこの世界の問題が片付かないと落ち着かない、とかそういう理由じゃないとは思うけど」
「キンジョーちゃん先輩の中の俺、血も涙も無いっすね」
「見たままだよ」
辛辣な返しが出てしまうが、それもモハヤイタシカタナシ。
おおぅ、とちょっとだけ涙ぐむ烏丸くんが居た。
後輩を泣かせてしまったが、イタシカタナシ。
「ぐすん、それも理由と言うには確かに大きくは無いですけども、また呼び出されたら、俺とは別に呼ばれたら、っていう点だってあるじゃないですか。その辺りの解消も少しは考えているのですよ……?」
「ウソ泣きはいいから、本題言おうよ」
「この先輩マジで辛辣だ!?」
うわぁーんカナエせんぱぁーい! と幼馴染に抱き着いてゆく烏丸くん。
え、避けないの?
このままズベッシャァ、と床へダイブする様すら幻視してたのに。
男子高校生に泣きつく男子高校生(後輩)という誰得なプレビューに、多分どうしたらいいのかわかってないカナちゃんが狼狽えている。
うーむ、何気に一番彼に甘いのはカナちゃんだっていうのをわかっててやってる気がする。
さておいて、本題がこのまま行方不明では問題しかないので。
「茶番はもう良いかな? キミが何を言いたくなくて其処までふざけているのか、いい加減に本題に移ろうか?」
「チクショウめ……! 高町教導官式交渉術に似た雰囲気を無意味に醸し出す先輩め……!」
OHANASHIと言いたいのか。
伝わりづらいから辞めなさい。
「スマン、助かった」
「いや、彼のキャラがなんとなくつかめてきたから」
べ、べつにたすけたつもりもないんだからねっ!
「あー……、まあキンジョーちゃん先輩の言う通り、あんまり言いたくなかったことでもありましたけどもね。 とりあえず本題に移る前に、皆さんに聞いておきたいことがあるんですが」
カナちゃんとツンデレ幼馴染っぽい遣り取りをしつつも、未だに本題へ踏み出す踏ん切りがつかないのか、と呆れにも似た目で彼を見る。
「召喚される前、って皆さん、何処にいましたか?」
「え?」
「えーっと、ちょっと待て、1週間前だよな……」
カナちゃんの言う通り、そこまで前の話に戻されると、ちょっとよく思い出せない。
待って、今投稿画面遡るから。
「ピンクがうちのハーレム主人公にべたべたしてたのは覚えてる」
「いい加減色で呼ぶの辞めなさいよねイエロー……!」
「キミに言われたくはない。あとこれ一応ゴールデンだから」
「はっ(嘲笑」
「アァン?」
金髪馬鹿にしてんのかワリャァ? みたいな目でメンチを切る。
鼻で笑われたら誰だってブチ切れるよね?
「ヒトのこと言えん茶番はやめーや。って、ああ。確か生徒会室に居ったよね。みんないっしょやったわ」
「全員いっしょですか」
「うん。いきなり窓の外からピカー!って」
とってもなかよし(荒廃)なボクたちを他所に、カイチョーと烏丸くんが話を詰める。
ん? と此処で疑問を思い出した。
「そういえば、そのとき烏丸くんも部屋に居たんだっけ? 見憶えなかったキガスル」
「いえ、俺はその場にいませんよ。ていうか、窓の外からの光自体は覚えてるので、位置的には多分その部屋の真下です」
「ああ、巻き込まれ型勇者召喚ってやつやね。ガチャ運無いなぁ、あの王様……」
いつかボクが思っていたようなことをカイチョーがしみじみと言う。
いや、逆に考えるんだ。
これだけのチート主人公系を引き当てられたのだから、むしろ良い方では?
しかし、この話が本題の前にどう繋がるんだ?
「……ん? ひょっとして烏丸くん? そのとき、他にも誰かおったん?」
――あ。それか!?
天啓にも似た確信で、思わず彼へと顔を向けるボクたちに、
「………………お察しの通りです」
すっごく嫌そうな顔で苦々しく応える後輩が居た。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
処変わって。
金城や烏丸が召喚された【属州・封地イグノディア】から、遠く離れて三千里足らず。
大体南東の方角に直線距離にして1万キロほど、例えるならば日本(東京)からフランス(マルセイユ)またはシチリア島くらいの場所に【千年王国ティシトリア】と呼ばれる国がある。
あるのである。
イグノディアの人間はそんなことも知らないし、そもそも他国があるとも理解できていないのだが、300年江戸時代より酷い鎖国状態だったのだから仕方がない。
ちなみに件の母を訪ねた少年は実はタイトルに反して4千里旅したのだとか。へぇ。へぇ。
話を戻すが、それだけ離れた土地の風土は当然ながらイグノディア国内とは似ても似つかない。
『国内』では当然無いのだが、周辺地域には国家がまとめるほどの活力と生存地質が極めて低い。
一言で云えば荒野になっている。
岩と砂と赤茶けた大地が延々と続き、生きるモノを拒むかのような死の大地。
熱中症になる前に日射病に懸かる心配をしてしまう、それほどに照り付ける太陽がひょっとすれば地表に近すぎるんじゃね?と懸念しそうになる地獄のような天日。
人間が足を踏み入れる、それだけで命を奪われるのでは、と思わせるような世界。
――そんな世界を、女子高校生が全力疾走していた。
「ちょまああああああああああ!?」
「おじょー、うるさい」
スプリンター走りで絶叫するのは、髪が白と黒のコントラストで斑になっている少女だ。
隣で平気そうに並走している赤毛の少女には『いいんちょうもどき』と呼ばれているらしい。
「なんですのなんですのなんなんですのよあれはあああああああああ!?」
「だからうるさい。さけぶくらいなら、はよにげる」
こんな世界で体力消耗するとか馬鹿の極み、と指差して笑われても可笑しくない。
だが、そうせざるを得ない事情が彼女らにはあった。
ちなみに、そのふたりに並んで薄い藍色の髪のモデルみたいな長身の目元が隠れた巨乳の女性が、褐色の掛かった淡い灰の髪色を備えた幼女を背に負ぶって無言で駆けている。
慌てているのはひとりくらいな辺り、けっこう余裕のある集団かもしれない。
「妙な世界に放り出されて1週間……! これがまともな女子高生ならフツー死にますわ!? その極めつけがこれですの!? 世界よ私に死ねと!?」
「おじょー。いがいとよゆーだよね」
訂正、なんだか慌てる理由の方も斜め上だった。
無口系、というか無垢系と呼んでも構わなそうな、火のような髪色に反して性格落ち着きすぎな少女は、実はこの中で一番生き汚かったのが誰なのかを知っている。
もう隠す必要も無いのだから言ってしまうが、彼女がジト目で横目で睥睨する、件のお嬢様キャラがめがっさ役に立っていた。
炉端の頑丈そうな石を割って石器を作り、サボテンに似た植物を探し出して水を確保し、小動物を探し出して肉を確保していた。
そのうえで恰好は学校から離れた時とほぼ変わらない、汚れが然程も目立たないブレザータイプの制服で、身嗜みにも気を遣っている。
こいつ本当に人間か?
そうした非人間的女子高生らが、それでも馬鹿みたいに全力疾走するには理由がある。
背後を追ってきているのが、ちょっと理解が追い付かない存在だった所為だ。
『ruoooooooooooooo!!!!』
言語にならない咆哮を上げて、腕のような触手のような、ずるりと蠢くそれらを器用に交互に伸ばして大地を滑る。
何か、と形容するには何とも言い切れず、強いて挙げるなら動き方そのものはアシ●カを追いかけたタタリ●ミに近いのかもしれない。
しかし、その形状はもっと語り難く、メタリックな銀の外殻が全身を覆い、獣のように尖った口先が蠢く触手から突き出されて叫んでいる。
喩えるならばモンジ●ラとか、ビオ●ンテとか。
あと体長がなんだか下手な高層ビルくらいある。
「デカすぎですわ!?」
「しってる」
ガチで怪獣とバトる事態には、流石の非人間的女子高生らにも許容し切れないらしい。
―でも、どうする、の……?
「このままじゃ追い付かれちゃうよ……!」
なんだか直接脳内に聴こえるような話し方をする女性と、自分の脚では逃げ切れないので不本意ながらも背負われている幼女が問いてくる。
赤毛の少女、火坑 こだまは覚悟を決めた。
「おじょー、きれる?」
「んぇい!? こだまちゃん何言うの!? 此処まで抑えてたのを解き放っちゃうの!?」
……なんだか口調がおかしいのだが、ひょっとすればこちらが地なのかも知れない。
白黒コントラストのお嬢様系(?)少女、半鵲 こはくは慄いて聞き返していた。
何やらちょっとした制限を交わしていたらしい。
「しぬよりはまし。あとでおこられるけど、いっしょにおこられてあげる」
「それ私を主犯にしてますわよね!? ていうか、そもそもアレに利くとは思えないのですけれど!?」
己を取り戻したのか、口調が元に戻った。
何気に一瞬狼狽えた残るふたりも、ほっとひといきついているが画面の端である。
画面ってなんだ。
「きかせる。わたしがてつだう」
「~~っ、後でいっしょに怒られますわよっ!? 絶対に!」
「ん。たいみんぐはまかせる」
腕を振るい、急停止をするこはくに、こだまは僅かに遅れて後ろに備わる。
今にも追い付かんとする一瞬に、『それ』を睨みつけるこはく。
刹那、
『ヂン』
と、金物を鳴らしたような音が聴こえる。
それをより詳細に喩えるならば、まるで刀の鯉口を鳴らしたような――、
ギャキリリリリリィィィィィッッッ!!! とそれこそ金物を切断する異音が激しく鳴り響いた。
板金工場で耳にできそうな、鼓膜を喰い破らんとするほどの大音量だ。
その音の主は、彼女らに今にも迫りそうであった『それ』の身体から聴こえていた。
「【りょういき・むのうしょうみょうおう】。ぶい」
「決め顔で言ってますけど、私の【残滓・横一文字】のこともお忘れなく」
その瞬間には、メタリックな触手の怪獣は真横に両断されていた。
衝撃による一瞬の浮遊を顕わにした後は、それの自重でぐしゃぐしゃと崩れ落ちて逝く怪獣。
一方で、あの全力疾走と葛藤なんだったんだよ、と言わんばかりにドヤ顔を見せるこだまに、嘆息してひと息着くこはく。
触手怪獣の生命力がどうかは知らないが、この女子高生らの生存力と戦闘力はこの異常な世界においても過剰と言えた。
~ドエム戦隊ビッチピンク
そんな日曜あってたまるか
~ジュニドル経験者キンジョーちゃん
感想欄で働かないクズニートと言われたけど先立って働いてるのだからねっ
なお、胸囲面は成長が行き届いていない感じ
ステータス? それは憐れみの言葉だ…っ
~難聴系主人公キンジョーちゃん
流行りの主人公カテゴライズに乗っかってみた
こうですか? わかりません
~男子高校生に泣きつく男子略
ニホンホモクレヒトモドキさんはお呼びではないのでお帰り下さい
~高町教導官式交渉術
もはや懐かしき「ちょっと頭冷やそっか…」というやつ
なろうでもかつてはお馴染みなくらいテンプレだった
~ゴールデン(笑
言葉にすると何故かグラサンが連想されてしまう
何故かね?(すっとぼけ
~改めてガチャ運無いなぁ、あの王様…
装填されるラインナップを削るくらいの配慮をくださいよ…!
泣いてる廃人だっているんですよ…!?(ガチャガチャ
~三千里
大体1万2000キロほど
~イグノディア
勝手に名付けられている模様
自分たち以外を知らずに外からは知られているから妥当
…もう国家の未来が既に暗い…!
~白黒コントラストのいいんちょう
手元に参考資料が何故か無いのだけど名前は何と言ったかな…
…堀江由衣だっけ?
~火坑こだま
烏丸ソラの幼馴染
【領域・無能勝明王】というスゲェ名前の術を使う
参考までに軽くステータスを表示しておくと158、88、62、82。けっこうむっちり
~半鵲こはく
お嬢様っぽいいいんちょうもどき
高層ビルくらいある怪獣を真横に一閃した
ステータスは164、74、55、84。すれんだー
ようやく此処までこれました…
書き貯め分は次回で一旦お仕舞いです。また明日お会いしましょう