№001 プロローグ 【初回11連サービスガチャ開催中】
水色の髪が特徴的な好青年、傍目に見てもイケメンの分類に属せられる男子高校生・卜部鼎は盛大に項垂れていた。
理由は、――初回ガチャで爆死したことに当たる。
「えーと頭から、缶コーヒー(×10)・傷薬(×3)・防災カバン・断熱シート・10秒チャージのアレ(×10)・はがねのつるぎ・安全メット・ゲー●ボーイ(カセット無し)・携帯コンロ(燃料ボンベ3本付き)・男性用トランクス(×3)・ミスター味っ●(コミックス7巻)の以上11点ですね」
「あ゛あ゛あ゛ああああああああ!!!!」
宝石を溶かしたことに端を発する悲鳴が、盛大に轟き響き渡る。
いやほぼ無料配布の初回特典なのだけども、高校生に宝石50個は金銭感覚可笑しくなるって。
やはりガチャは忌むべき悪習。はっきりわかんだね。
そんなカナちゃんに、褐色肌白髪という特徴だけ聞いたらお前何処の赤い弓兵だよと言いたくなる外見の、烏丸イソラという学生服の似合わない後輩が出揃ったラインナップを読み上げ容赦のない追撃を掛けるわけで!
『ボク』の幼馴染でもある彼の、部屋中に木霊した絶望の慟哭が、些か悲哀染みるのも無理もない話である。
「ランクはC・C・C・C・C・R・C・R・C・C・SR、言うまでもないですけどガチャ運酷いっすね」
「わかってるなら言うなよ! 知ってるよそんなこと! というか異世界でこんなモノを当てて誰が得するんだよ!?」
「オクに出せばそこそこ良い値がつくんじゃないっすか? 状態も良いみたいですし」
「せめて異世界で役立てそうなモノを当てさせてくれよ……っ!」
「サバイバルには役立てそうですがね、他の奴は。ともあれ、初回ガチャは以上です。またの10連ガチャをお待ちしておりまーす」
「……っ、鬼! 悪魔! 千川ぁ!」
「千川さんに失礼だろーが」
「誰や、千川さんて」
黄緑の守銭奴。
打てば響く様式美のような、カナちゃんとの遣り取りはまるで熟年の漫才を見ているようにテンポが良かった。仲イーね、キミら。
そんな遣り取りに疑問符をぽつりと漏らした、生徒会長の嶽本小夜さんに内心で答えを吐くが、きっと届いてはいないだろう。
というか、カナちゃんは件のソシャゲを知っているのか。
普段から女子侍らせてリア充真っ盛りな我が校随一の主人公キャラな癖して、何故二次元に傾倒しようというのだろうか。
さて、聞くところによればガチャで排出されるランクはC・R・SR・SSRの4段階。
宝石50個消費の1回分おまけつき合計11連ガチャはそうそう爆死しない、と先に宣っていたのはいったい誰だったのか。
この分だとボクらに充てられた此れも、中々回し難い抵抗感が止め処ない。
「あー……、タっくん、回さへんの……?」
「……そういう会長こそ」
「いや……、やらんことには始まらんのやろうけど、カナエくんのアレ見てまうと、なぁ……?」
「わかります」
「せい」
そんなボクらの横で、何をトチ狂ったのか桃園由良さんがぽちっとな、と回していた。
さ、さすが学園のアイドルぅ! 男気溢れるぅ!
「なんでdisってんのよアンタは」
「いやいや、そーいうわけじゃ。というか桃園さん、容赦なく逝くね? カナちゃんの被害、見てなかったわけじゃないよね?」
「宝石が足りなくなれば、後で融通してもらえば良いじゃない?」「被害て」
こちらの心の声が届いたのか、ジト目で演出待ちの桃園さんに声をかけられる始末。
はわわと思わず狼狽えるボクとは裏腹に、笑顔でマリー何とかネットさんのような言葉を平然とニッコリ笑顔で吐くパッションピンク。あとついでに後ろの方でカイチョーのツッコミがぼそりと響いたけど聴いてる人はボク以外いないと思われる。
うーん、でも余分にあるかなー。
ボクらに充てられた宝石はそれぞれ違くて、聞けば誕生石あたりを参考にしていると烏丸くんは言う。
3月生まれのカナちゃんはアクアマリンで、10月生まれのボクはトルマリン。
桃園さんは見た感じルビーっぽくて、嶽本会長はエメラルドのご様子。
進言すれば用意してもらえる可能性も微粒子レベルで存在していそうだけれども、課金というシステムに得てして納得してくれるだけの度量は果たしてこの世界にあるだろうか。
そんな胡乱で迂遠な思考を他所に、ぎゅいんぎゅいんガガガと回転を見せるのは彼女の左手の中に浮かぶ幾何学模様の魔法陣。
無駄に凝った演出は11個の光をポンポン飛ばし、再び彼女の手の中へと納まると排出された情報をずらりと並ばせたのだろう。
「えーと、C・C・R・SR・R・SSR・SR・SR・R・C・SR、これって当たってるって言っていいのかしら」
あの……、前世でどんな徳を積んだんですか……?
排出されるそれらはカナちゃんが確認し烏丸くんが覗いたように、左手に刻印されたサポート術式にある【Storage】と類別される一覧表内に表される。
その術式が主軸となって確認することができるようになる『システムウインドウ』は、スマホみたいにタップしたりスライドすることで【Storage】以外にも【Status】【System】を選択できて、『ガチャ』は【System】の中にあるひとつの補助だ。
そんなことはさておき、先ほどのカナちゃんの排出爆死から察するに、一般人にとってはむしろRよりCが期待が持てる。
実際烏丸くんも言った通り、カセットボンベや断熱シートはサバイバル時には重宝するハズだし、ね。
桃園さんに訊ける分だけでも聞いてみたところ、Cの方は化粧水や洗面用具や液体石鹸などが入っていたと嬉しそうに言ってくれた。
「やるなぁユラちん。ほな、私のも押してもらえんかな。桃園大権現さまのご利益をば」
「いいけど、外れても文句言わないでねカイチョー」
「あ、ボクもお願いパッションピンク」
「お願いするんなら言い方があるでしょうがドドメイエロー」
「モスグリーンの娘も、忘れんでほしいなぁ……」
ドドメ扱いは止めてくれませんかねぇ?(威圧。
学園のアイドル(笑)と『あ?』『やんのかオラ?』とお互いこめかみにビキビキと井形を滲ませ微笑ましくperfectなcommunicationを取っていたところ、先に声を掛けたのに早くも話から外されたカイチョーが寂し気に黄昏ていた。
モスグリーンを自称してるけど、彼女の髪色は実際のところ純大和撫子っぽい黒緑。
超高校級のナイスバディと相俟って、黙っていれば下手な芸能人も裸足で逃げ出すほどのポテンシャルを備えていたりする美女が彼女である。
そんな彼女が副会長に当たるカナちゃんと付き合っているという噂が、ボクらの通う『穂織野宮高等学園』では実しやかに囁かれていたりするわけだが……此処3日で彼女を覆っていたフィルターは結構な紙であったことが判明している。
基本的に目立ちたがり屋だから生徒会長という役職に就いた経緯があるようだし、無駄に多いボディタッチや普段使いの似非関西弁は距離を詰めたがる会長特有の癖だ。
大方、そんな美女の距離感の可笑しい付き合い方にやっかみを覚えた、生徒会の他の男子がカナちゃんに妬んで囁き出した噂なのだろう。真実の卦も隠れている気がしないでもないけど。
別に幼馴染が誰とどう付き合おうと構いやしないのだが、その余波がボクに回ってくるのは少々戴けない。
お陰様で、カナちゃんに秋波を寄せる桃園さんとは普段からメンチを切り合う仲。
アレだね、彼女の下心が透けて見えるから塩対応していたのだけど、それでかっちり敵認定されてしまっているようだ。
煽るボクも悪いかもしれないけど、正直『学園のアイドル』とかいう特大の地雷との距離感なんてこんなもんでいいのではないかとも思えてくるから不思議。
一方で、他にも周囲に選り取り見取り美少女とのフラグが乱立している卜部Pはというと、桃園さんの排出率に絶望していた。
「……なぁ、リセマラとかできないのか?」
「リセットボタンなら其処にありますよ?」
「それ人生ごとリセットするボタンだろうが……ッ!」
【System】にはこの世界から脱出するためと『思わせ兼ねない』、【Escape】なる表記もある。
選択してみたら『人生から逃げますか?』という質問が出てきて、慌ててNOを選択したのは言うまでもない。
命か尊厳かを選択するような極限下に陥った場合に己の責任と裁量でツケを取るための措置だ、と術式を刻んだご本人は言っていたけど、正直罠としか思えない。
なんというアグレッシブ腹切り。味方を罠に嵌めてどうする気だこの子は……。
なお、男子相手なら多少雑に扱っても死にゃーしませんよ、というご本人様からの有り難いお言葉がアルカイックスマイル付きで添えられたのは数日後の話。
酷い男女差別を垣間見た。
さて。
いい加減に物語から置いてきぼりであろう読み手の方々へと、状況説明を果たすことが必要かと思われる。
話の始めはボクたちがこの異世界へ勇者として召喚されたテンプレートなものなのだが、此処に至るまでには紆余曲折あったものだ。
そのうえで語るべきことの最初を、少々感慨深く思い起こす。
やはり此処までの経緯を語る上で、あの出来事は外すことはできない。
勇者召喚されたその日に、――国家に対して脅迫を成功させた、烏丸イソラの暴挙に関しては。
~作中についての軽度な注釈~
・千川さん
せ、千川さんは女神で天使ですヨ…?(ガチャガチャ
・ミスター味っ●
復刻版ではない新品。まとめ売りじゃないので大した値段は張られない模様
・卜部P
同時に、召喚士で提督で奏者でラブライバーでもある
煮詰めて吹き零れたような二次創作っぽいオリジナルです
のんびりと続きます