長良川の戦い 終結
「道鎮は死んだか……」
少々甘く見ていたようだな。
年老いても流石は蝮と言ったところか。
「義龍自ら指揮をとる!全軍、川を渡るぞ!」
自分の手で引導を渡してやろう。
「人数の割りには互角に渡り合えておるの」
義龍の本陣がとうとう動きだしたから、ここから先は上手くいかないであろうが……
せいぜい足掻いてみせよう!
「我は義龍勢の長屋甚右衛門と申す!腕におぼえがある者は我と一騎打ちを願いたい!」
義龍が渡り終えるまでの時間稼ぎのつもりか?
早急に討ち取るべきか。
「私に任せてもらえますか?」
そう言ってきたのは柴田角内であった。
「わかった、お前に任せよう!すぐに片付けるのじゃ!」
あの大軍勢に渡りきられては総崩れじゃからの……
「我の名は柴田角内と申す!手合わせ願いたい」
甚右衛門は待っていたと言わんばかりに、口の両端を吊り上げて、笑みを浮かべた。
両方、馬に跨がり、刀を構えた。
両陣営が見守る中、一騎打ちは始まった。
最初に切りかかったのは甚右衛門であった。
横への一閃を角内は受け流す。
勝負はすぐについた。
角内の一撃を避けようと無理をした甚右衛門が落馬したのである。
そのまま、為すすべもなく首を取った。
「甚右衛門を討ち取ったぞ!」
みるみるうちに士気が上がる。
「この流れを維持するのだ!全軍突撃!」
精神的に有利になった今を逃すわけにはいかぬ。
道三はすかさずに命じるのであった。
「義龍が渡河を終えてから、どれほどの時間がたった?」
次第に、義龍の部下の者が本陣に見られるようになった。
「半刻程でございます!」
そうか……もうそろそろ終幕かの……
「道三見つけたぞ!」
そこには、かつての部下である長井道勝の姿があった。
このままではまずいな……
「道三様、お逃げ下さい!」
「儂もここで果てるつもりだ!逃げはせぬ!」
どのみち、歳も歳だ……
先は長くないしな。
道三様を殺したくはない……
義龍様に仕える身であるため、道三と敬称を付けなんだが、尊敬はしている。
義龍様にも生け捕りにして戻ると言った。
だから、必ず生け捕りにして、儂が説得してやる!
道勝は道三に組み付いた。
「降参して下さいませ!負けは目に見えているでしょう!」
道勝の言う通り、負けるであろう。
身内同士の争いも馬鹿馬鹿しいものかもしれぬ……
「儂は義龍の器量を見誤っておったようだ……向こう十年は安泰であろう」
この戦をして分かった。
奴には儂にはない人望もあるし、将としても才能がある。
この先の美濃は、儂ではなく義龍が収めるべきであろう。
この先の未来に儂は不要、死ぬべきなのだ!
途端に両脛を斬られた。
「くっ……」
脛に激痛が走り、鮮血が飛び散る。
斬りつけたのは、小牧源太であった。
とうとう死ぬのか、いざ死を目の当たりにすると恐怖を感じるものだな……
美濃もこの先、安泰であろうし、心置きなく逝けるというものだ……
享年63歳、美濃の蝮と恐れられた男は首を取られて絶命した。
「何故殺した!」
生け捕りにしようとしていた道勝は激怒した。
「何で怒っているのですか?敵の大将ですよ」
良くわからないといった様子で源太は尋ねた。
「生け捕りに出来なかった、せめてもの詫びをせねばな……」
そう言いながら道勝は道三の鼻を削いだ。
そうして道三の首は取られ、長良川の戦いは終戦したのである。




