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桔梗紋  作者: 翠泉
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与するべきは?

 「一大事じゃ!」

 そう言いながら叔父である光安は自分の部屋に飛び込んできた。

 「一体どうなされたのですか?叔父上」

 叔父は物凄い形相をしており、手に持った書状は力を入れすぎてグシャグシャになっていた。


 「とんでもないことになってしもうた……」

 とんでもないことって……まさか義龍様の容体が悪くなって亡くなられたのか!

 「義龍様によって弟である孫四郎様と喜平次様が殺された!」

 「えっ?まさか……」

 自分は急いで叔父の持っていた書状を奪った。

 その字は道三様のものであった。

 

 義龍によって我が息子である孫四郎と喜平次の首が取られた。

 義龍は謀反を起こし、美濃をまた戦火につつもうとしておる。

 美濃の武士たちよ!悪である義龍を討ち取り美濃に安寧を取り戻そうぞ!


 大方そのような内容の文であった。

 「一体どうしたら良いのじゃ……」

 叔父は頭を抱えた。

 「この内容通りなら悪は義龍様です。なれば味方すべきは……」


 その時にまた急いで自分の部屋に入ってきた者がいた。

 「左馬助、どうしたのだ?」

 よく見ると左馬助の手にも書状が握られていた。

 「父上、十兵衛様、義龍様からでございます!」


 「何だと?」

 義龍様からも書状が届くだと?

 自分はすぐに書状の封を解いた。


 父親である道三は弟の孫四郎と喜平次を使い、暗殺のためにけしかけてきた。

 道三は裏切り者である。

 真に美濃を思うものであれば我とともに挙兵し、道三の首を討ち取ろうぞ。


 「どちらが本当の事を言っているのだ?」

 叔父は困惑した様子で言った。

 「多分でございますが義龍様の方が正しいでしょう……」

 前に道三様と面会した時に漏らした言葉……

 まさか本当に実行に移すとは……

 

 「叔父上、ここは義龍様に味方しましょう!この件に関していえば悪は道三様です。情報では、義龍様に与する者の方が多いようですし……」

 余所者である道三様は始めからあまり良く思われていない。

 だが義龍様は、美濃の国主であった頼芸の息子である。

 それだけでもこちらの味方は少なくなるだろう。

 暗殺をけしかけたという事実が信憑性の高いものになればどうだ?

 中立派のものでも義龍様の側へ流れるだろう……


 「十兵衛、義龍様の方が軍勢が多くなるのは分かっておる。道三様に味方すれば、こちら側は負けるであろう」

 確かにその通りだ。

 明智家や明智に味方する諸将のためにも義龍様につくべきだ。

 

 「だがな、儂ら明智家には道三様への恩がある。道三様がいなければ、我らは今生きていないかもしれぬ。この城も道三様がいなければ手に入っておらぬ……」


 そのことはよく分かる。それでも

「叔父上、確かに道三様のお陰で今、命があるかもしれませぬ。ですが、その道三様のせいで兵の命をいたずらに失っても良いのですか?」

 悪に味方して命を散らせるなどあってはならない!


 「十兵衛よ、だが恩を忘れてはならぬ……恩には報いなければならぬのじゃよ」

 「しかし……」

 たが、正義に与するべきだ!

 「十兵衛!今の当主は儂じゃ……」

 「はい……」

 平和が訪れていた美濃にまた暗雲が立ち込め、戦火の香りはすぐそこまで近付いていた。

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