鷲山城への撤退
「弟である二人を斬ってしまいましたが今からどうなさるおつもりなのですか?」
首を傾げながら問いかけてきたのは弘就である。
「勿論のことだが最終的な目的は道三の首ただ一つだ」
少々疲弊した様子で答えたのは義龍であった。
「道三は千人程の兵を連れて、城下にて布陣されているようですがいかがなさいますか?」
こう聞いてきたのは美濃三人集の一人、稲葉一鉄である。
それは早急に首級をあげたいのは山々ではあるのだが……
「誰かこの場で起こった事の顛末を城下にいる道三に伝えてこい」
これも美濃平定への布石の一つである。
「しかし義龍様、相手方は今、完全に油断しています!奇襲を仕掛けて討ち取ったほうが良いのでは?」
この意見は弘就のものである。
「確かにその通りですな。兵の数もこちらの方が上ですし……」
という意見は一鉄である。
普通に考えればそう思うであろう。
速やかに平定することにより外敵からの攻勢にも備えることができよう。
しかし美濃を完全に平定するためにはそれでは駄目なのだ。
「その考えも一理ある。しかし美濃のこれから、儂らの事を考えればどうだ?」
皆は顔を見合わせ、よく分かっていない様子である。
「この世の中をよく考えてみろ。道三を含め下克上で成り上がった者も少なくない。」
自分にとっては信頼している仲間に裏切られるのが一番怖いのだ。
「美濃を完全に平定するためにも、道三側の人間を徹底的に根絶やしにしてやろうではないか!」
「ようするに一回逃がして道三に味方した者たちを一気に叩くということですね」
一鉄はそう言って自分の言葉に付け足した。
「そういうことだ!これからは雪が積もったり寒さが厳しくなり行軍は難しくなる。春が訪れるまでの長い期間をどちらにつくか、じっくり考えて貰おうかの……」
「何だと!」
道三は驚きの様子が隠しきれなかった。
「孫四郎と喜平次が殺されただと……」
何故こうなってしまったのだ。
儂が義龍ごときに謀られるとは……
頭が真っ白になり、気付いた時には義龍からの使者を斬り殺していた。
「こうしてはおれん。早く退却しなければ……」
ここでもたついていては、いつ奇襲されるか分からん!
「おのれ、義龍め!」
無意識の内にうめき声が洩れていた。
「町に火を放て!混乱に乗じて撤退する!」
「ですが美濃の町に火を放つなど……」
兵達は困惑した様子でこちらを見ていた。
自分たちの国であるからそんな事をしたくないのはよく分かるが……
「命が惜しくないのか!しっかりと役割を果たせ!」
兵を集めて必ず首を取りに行くからな!義龍!
「道三め……町に火を放ちおって……」
確かに逃がすとはいえ少し兵を使って攻撃はさせたが……
まさか火を放ってまで必死に逃げるとは……
「義龍様、落ち着きなされ。どのみち春を迎えるまでは戦は出来ませぬ。その間に復興致せば良いでしょう」
と一鉄は言ったがその声にも怒りがこもっていた。
「その通りだな」
一鉄の言った通りである。
冬を越すまでの辛抱だ。
春になればすぐに引導を渡してやる!




