お家騒動
本日をもって美濃は自分の国になる。
そんなことを考えているのは次男の孫四郎である。
自分こそが当主の座に相応しいはずだ!
父上の血も引き継いでいる。
さらに父上が自分に兄である義龍を倒し美濃を取れと仰られた。
ならば美濃を自分のものにしても良いはずだ!
「喜平次、準備はできたか?」
百ほどの手勢を引き連れて稲葉山城へと向かう。
大した距離はないが……
「準備は整っておりますぞ兄上」
喜平次は張り切っていた。
成功すれば美濃の実権は我々兄弟のものになるのだから無理もないが……
「喜平次よ、浮かれるでないぞ!悟られてはならないからな」
内通者がいるとはいえ敵の居城に僅かの兵数で入城するのだ。
疑われてしまえばそこでお終いだからな……
「皆の者、進め!」
今、自分達は稲葉山城へ向けて行軍を始めた。
「よく来たな、弟達よ……」
二mを超える巨体が横たわっている。
さらにその声には余り生気が感じられない。
その男こそが病気で寝込んでいる義龍である。
「大丈夫でございますか、兄上」
微塵も心配などはしておらぬがな。
今すぐにでも病気の苦しみなど忘れられるようにしてやりたいが……
「体調はどうですか?」
と喜平次は聞いた。
「快復の傾向にはあるが、まだ苦しいな」
顔を歪めながら義龍はいった。
「だが今は病気のことよりも困ったことがあるのだ……」
急に義龍の様子が変わった。
一体何が言いたいのだ?
「どうかなさいましたか?」
「儂が当主の座を継いだのは良いがそれを良く思っていないものがおる……」
それはそうだろう。
自分の父である道三の血を引いてはおらず、敵対していた土岐頼芸の息子ときた。
気にいらないものがいても当然のことだ。
「だが何度内乱が起こってもなかなか美濃は統治されない。このように国が平定されないのではいつかこの国は他国に奪われるだろう」
特に今は当主が入れ替わって間もない。
さらにその当主が病気なのだ。
いつ内乱が起こってもおかしくはない。
まぁ自分達が内乱を主体になって引き起こそうとしているのだが……
「なればお前達にも分かるだろう?この国を素早く平定し、他国と争い、負けないようにする方法が……」
「うっ……」
隣の喜平次が刀で胸を貫かれ、鮮血が辺りに飛び散った。
「喜平次!」
見てみるとその刀を持っていたのは日根野弘就だった。
「裏切ったのか!弘就……」
「悪いな孫四郎……病気になったというのはお前たちを引っ張りだす罠だ。」
と義龍は立ち上がりながら言った。
「国の為を思えばだ。反乱分子であるお前達、道三側の人間は速やかに排除しなければならない」
謀られていたのは自分達の方だったか……
だがせめて死ぬ前に少しでも多くの敵を……
「お前達、自分達は死ぬであろう……だが最後に一矢報いようぞ!」
だがそれに呼応する人間は一人もいなかった。
全員がやられてしまったという訳ではない。
誰一人傷は負っていない。ようするに……
「残念だったな孫四郎。その者らは既にお前の部下にあらず。お前達に与する者などほとんどおらぬ」
と義龍は少し悲しい表情を浮かべて言った。
「国の未来のためだ、恨むなよ……」
義龍の手によって孫四郎の首は斬り落とされた。
美濃の全土を巻き込む戦が始まってしまったのであった……




