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魔王が紡いだ御伽噺(フェアリーテイル) ~tutelary編~  作者: シオン
~tutelary編~ 第二章「転生と信託」
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~Aynu rakkur~

 大地に咲く花のよう、その美貌は月が霞む。

 神は神かと疑い、創造の手は止む。

 雷鳴降り注がん大地に、その春楡(チキサニ)は咲き他は絶える。

 地を蔓延(はびこ)る魔を焼き、爆ぜる炎は新たな命を紡ぎ人に似て非なる神を生む。

 焼けた大地は神の子と引き換えに六の時を経て消え、尚絶やされぬ炎は命を焼き、命を繋ぐ。

 誰に教えられでもなく、いつの間にか私の記憶に焼きついていた詩。

 他人の記憶かもしれない、過去の出来事。

 私は幼い頃、炎に包まれた大地にいた。

 肌を焦がすような熱気の中、私は大きな龍の手のひらの上で、自分と同じほどの大きさをした剣と横たわっていた。


「白夜さん、朝です。起きてください」


「ん……ぁ……あと五分……」


 私の朝はキッチンに立つ所から始まる。

 平日は学校があるので、白夜さんが起きるまでの時間を計算して、私が起床するのは六時だ。

 

「もう、中学生じゃないんですから、早く起きてください。チームリーダーとして示しがつきませんよ」


「どうせなら愛梨ちゃんが〈tutelary〉のリーダーをやればいいのに……」


「ダメですよ私なんかじゃ、まだまだ力不足です。ほら、シーツを洗いますから、起きてください。じゃないと……また雷貫の刑ですよ?」


「いッ……!? お、起きる、起きるよ。だ、だからあれだけはやめて……」


 皆さんが集まる時間は平均で八時。

 ベッドのシーツを剥ぎ取り、部屋の換気をする。

 この時すでに、六人分の朝食を作り終えていなければならない。

 新しく覚えた料理を試す時以外は、週の献立はほとんど決まっている。

 今日の朝食は簡単なサラダとオムレツ、そしてトーストだ。


「今日もすっごく美味しそ! 流石は料理長!」


「コロナ、料理してくれるの元から愛梨さんしかいない……」


 私達六人には家族が存在しない為、基本的には自由だが、皆私の時間にあわせてくれる。

 お皿の片付けも優ちゃんがやってくれるから、後は転移魔方陣を潜って学校に行くだけだ。


「それじゃあ行ってきますね」


「じゃあ僕も行こうかな」


「行ってらっしゃい、二人とも!」


 白夜さんは私の通っている学校の高等部二年、私は中等部三年の教室に向かう。

 来年からは私も高校生になり、白夜さんと同じ高等部に行くことになるけど、白夜さんはその時三年生。

 一年しか同じ高校にいられないと言うことだ。


「なーんて、毎日一緒にいるんですけどね」


「どうしたの? 深影君のことかい?」


「ふぇっ、な、にゃ、にゃんで深影さんがっ」


「うわー、分かりやす……」


「ほ、ほんとに違うんです! 何だか、人として当たり前の生活を送れてることが不思議で……」


 本当なら毎日が死と隣り合わせの世界なのに、仲間と一緒に毎朝ご飯を食べて、お喋りしたり、笑ったり。

 そんな極々当たり前のことが、とても幸せに感じる。


「私、契約者として生まれてきましたけど、契約者でよかったです。だって契約者じゃなかったら、皆さんに出会えなかったから」


「そうだね、僕も契約者になってよかったよ。こんな殺伐とした世界でも、仲間と笑い合えるからね」


 ……今、おかしい所を見逃した気がする。

 白夜はその違和感が何なのかは分からなかった。

 中等部と高等部を分ける坂道で二人は離れ、愛梨の姿が見えなくなった所で白夜は顎に指を添えた。


「何だったんだ、さっきの違和感は……」


『白夜……前見て歩いて……』


「ああ、ごめん。遅刻しちゃうね、早く行こう」


 白馬の王子様と言うものが実際に存在しているならば、それは白夜のような青年のことを言うのだろう。

 誰にでも分け隔てない優しさを振り撒く好青年。

 成績はトップ、おまけに運動神経抜群、だめ押しとばかりに生徒会長と来た。


「おはようございます、紅嶺会長!」


「うん、おはよう」


 ほんの少し目があっただけで、倒れる女子生徒が続出。

 まさに絵に描いたような王子様っぷりである。


『愛梨、最近疲れているように見える』


「そうかな? でも大丈夫、疲れるくらい毎日が楽しいの」


『それならばいい。あまり気負うなよ』


「ありがとう、カンナ」


 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言うことわざがあるが、それはまさに愛梨の為にあるようなことわざだ。

 男女ともに人気もあり、信頼が厚く、正義感も強い。

 清楚で頼まれると断れず、皆を引っ張る先導力もある。

 高等部の貴公子と中等部の花は、この学校の関係者ならば誰もが知っている。


「おはよう、愛梨」


「あいりんは今日も美人さんだね~♪」


「おはようございます茅野さん。浅倉さんセクハラですよ」


 いつも友達に囲まれていて、少しでも微笑むものなら男子は卒倒。

 それほどまでに愛梨の人気は高かった。


「では今日も一日を始めましょう」


 雷のように慌ただしく過ぎていく一日を、私は生きる。

 〈tutelary〉のドラゴンとして、橙色の神龍の異名を背負う者として、そして一人の少女として。

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