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初夜




そうして、屍人骸の祝儀の場で売り言葉に買い言葉の結果、自らの身を捧げる事になった龍艶媚。


(全く、何故こんな事に……いや、そんな事を考えるな、一先ず準備をせねば)


屍人骸に対する褒美、それを与える場は龍艶媚の屋敷で実施される事となった。


基本的に龍憂媚の屋敷と龍艶媚の屋敷は別々になっている。

なので彼女の自宅は歴史のある龍憂媚の木造建築の武家屋敷よりも、近代的な屋敷の造りとなっていた。


多くの女中が忙しなく屋敷の中を駆け巡る。

食事を作り掃除を行い、出迎える準備を早々に行う。

入浴時、異界の薬品調合に寄る白濁とした乳頭湯に浸かる。

血管を広げ血色を良くし、肌に浸透し霑(うるお)いと張りを齎す。

肉体の老廃物を排出し性感を敏感にさせる媚薬の湯。

一時間程の入浴後、女中が身体を丹念に拭う。


「どうぞ、こちらへ」

「ん、」


別室へ移動し入念な按摩が行われる。

豊胸効果のある秘伝の油を使い全身の筋肉を解す。

あらゆる体位にも適応出来る様に関節の柔軟も徹底的に。

油により全身が茹卵の白身の如く照る体で寝室の隣へ移動。

衣服を着用の為『天羽衣』を渡され、それを着込む。

名の通り羽の様に軽い襦袢である。

最早透明に近しい程に透けた襦袢は帯が細く、殿方が簡単に解ける様に蝶々結びで縛られる。

その場で鎮座をする龍艶媚は女中が龍家秘伝の媚薬を二つ取り出した。


「これが……」


生唾を呑む。

女中が布巾を口元に当てる。


「龍家の特製、秘伝の薬にございます」


『龍口涎(りゅうこうえん)』と『柑橘汗(かんきつせん)』である。

その内の一つである『柑橘汗(かんきつせん)』を薬箱から匙を使い取り出すと、龍艶媚は口を開き、舌の裏側へと二匙落とされる。


「御食味を、じんわりと唾液と共に喉の奥に流し込みくださいませ」


口を閉ざすと共に唾液が分泌し、淑やかに薬が混ざる唾液が喉奥へと流れ込む。

『柑橘汗(かんきつせん)』は体液に香りと甘味を生み出す媚薬である。

唾液は甘酸っぱく、滴る汗は塩味の効いた柑橘類の果汁と化す。

舐めれば舐める程に媚薬として肉体を盛り上がらせる効能を持つ。

その後、化粧を施される龍艶媚は唇に薄く紅を敷く。

首元には男の猛りを荒げる『龍口涎(りゅうこうえん)』の媚薬の粉が筆で塗られる。

空中に散る媚薬の粉末を吸引するだけでも発情する為、女中は慎重に扱う。

二重にした三角布で口元を覆い、指を震わさぬ様に手首を片手で固定しながら実施する。


「ん、ふッ…………ぅんッ」


当然、龍艶媚は息を繰り返す度に粉が首筋から散り舞う為、鼻腔に媚薬の粉塵が吸着する為、顔をほんのりと赤くしながら荒い呼吸を繰り返し発情をしていた。

化粧を終えると寝室へと移動するが、その際に龍艶媚は手を後ろ側に回され、手首を紐で結ばれる。

こうでもしなければ、自慰衝動が抑えられず、手淫に耽る為である。

その防止の為に手首を拘束されるのだ。

肉体が火照り出した龍艶媚は女中の介護ありきで移動を行う。


数歩離れた場所で、女中が廊下に垂れる湿りを拭いながら寝室前までついて来た。

そうして、寝室を開けると共に淫靡な空気が流れ込む。

媚薬成分が十分に溢れ返る木香を焚いた部屋の中。

呼吸をする度に興奮が我が身を襲う、一度入れば欲を満たすまで出る事の出来ない密室と化す。

入室すると共に、早々に扉を閉められる。

簡単に出る事が出来ぬ様に、扉には閂が施され、懇願しようと外へ出る事は不可能な状態と化した。


「ふ……ぐ、ぅ……っん」


声を殺しながら布団の中で悶える龍艶媚は、これから屍人骸が来るまで生殺しの状態で待機をしなければならない。


「ど~も~、屍人骸でぇす」


軽薄を張り付けた様な薄ら笑いと共に屍人骸が到着する。

すると出迎えるのは女中達であり、彼女達が手塩に掛けた料理を貪り続ける。


「うんまッ、なんすかコレ」

「ブフ・ブルギニヨンです」

「和風じゃないんすねぇ~」


名前から察するにフランス料理だろう。

赤ワインの牛肉煮込みを口の中に頬張りながら屍人骸は豪勢な料理に舌鼓を打った。


「お食事が済めば、次はお清めとなります」

「んあ?お清め?」


食事が終わると女中が風呂場へと案内するので、屍人骸は彼女と共に付いて行き体を浄める事となるのだが、屍人骸の肉体を洗う作業は全て女中が行っていた。


「うっわ、そんな所まで洗うんすか?ちょ、其処は入れ過ぎってがぁああ!!?」


穴と言う穴を洗われた屍人骸は謎の喪失感を覚えながら風呂場から上がる。

温泉旅館で風呂上りに着込む様な浴衣を着用した屍人骸は、女中と共に廊下を歩き続ける。


「まさに至りつくせりって奴っすねぇ~、もうこれで十分なんで後は寝床だけ用意してくれりゃ十分なんすけど……」


本日の本命となる龍艶媚との夜伽は無しでも良いと言い掛けた屍人骸に対して、これまで準備を進めて来た女中は今更止めると言う選択肢は無かった。


「馬鹿も休み休み言って下さい」

「え?バカ?今馬鹿ッて言ったんすか?」


これでも褒美を貰う側だと言うのに、馬鹿と罵倒されるとは思わなかった屍人骸。

そうして、女中が案内を終えた先に、閂を施された部屋があった。

通常の引き戸では無く、木製の観音開きの扉であり、其処から先にくぐもった女性の声が漏れるのが分かった。


「此処から先は、お嬢様がいらっしゃいます、褒美の準備は既に終えておりますので……今夜が終わるまで、決して出る事の無いように」


女中は深々と頭を下げて屍人骸に釘を打った。

此処から先には、龍艶媚が待ち侘びている、そう言われた以上は出ないワケには行かなかった。


「はぁ……しゃあねえ、艶媚ちゃんと大人の関係になるとするかねぇ、と」


女中が閂を開ける、扉が開かれると鼻腔の遥か奥を突く、メスの色を帯びるニオイが屍人骸を襲った。


「ふ、ッ……ん、はぁっ……ァん……」


今か今かと待ち侘びている龍艶媚は、霞んだ瞳の先に佇む屍人骸の姿を認識すると共に涎を垂らしながら龍艶媚は屍人骸に体を擦りながら近付く。


「か、ばね……じん、がッ……んっ」


彼女の顔は紅潮としており、厳格な雰囲気を醸す彼女の姿は何処にも無かった。

屍人骸は彼女の元に近付くと、宝玉の如く磨き抜かれた彼女の美貌に圧倒される。


「っ……はや、く……早く、抱けッ、そうしろうッ」


目尻に涙目を浮かばせながら太腿を擦り合わせて悶え苦しむ龍艶媚に、屍人骸は彼女の体に手を向ける、が。


「ッ……人骸、これは、今夜限り、だからな……っ、一夜限りの、身体の関係、理解しろ、良い、な?」


媚薬漬けにされても尚、龍艶媚は理性を以て屍人骸にそう告げた。

極限の状態の中でも、自分を貫く彼女の姿勢は、屍人骸の中でも中々の好感触であった。


「ああ……一夜だけで良い、その一瞬を、この一生に刻み付けるさ」


普段のおちゃらけた屍人骸の姿は何処にも無く。

龍艶媚を抱く為だけに、彼は本心を以て彼女の身を貫いた。









―――っ、はぁっ、はっ……んちゅっ、じゅるっ、~~じゅるりゅっ


ぷはっ……はっ……んぁっ、な、みぇ、めるなっ、そんにゃ、とこっッ


……んっ、っ   んあッ!! っっ??!! ん、んんっ


ふっ、 ッ~~~ぇ、ぁ? な、う、うごく、なぁっ!!


ん、ぁっ~~~~っぐ、ぅぅうッ、ふーッ、ふーッ……っ   ?


なっ、んんぁっ、そん、ひぃんっ!


っ  ッ、い、うな……そんな、ことっ、わたひんぃっ!!


か、……


     かわいい、なんて……言うなぁ……っ





そうして、二人きりの夜を明ける。





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