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拳にモノを言わせますけど、よろしくて?  作者: 山田あとり
可愛い子には継母が必要

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1 隣国に嫁いだら婚約破棄されました

息抜きに書きました。

敵をぶん殴って、可愛い子どもにデレデレして、大人な男性に愛されたい。

それだけなんです。ごめんなさい!


10万6千字ほどでちゃんと完結します……


 この日、リュティシアは初めて隣国の王宮へ足を踏み入れた。

 その訪問の目的は――結婚。


「ガルディア王国リュティシア王女殿下ならびに随伴の皆さま方、ご来臨――!」


 高らかに告げる声に迎えられ、リュティシアは広間の中央へ進み出る。

 そこに居並ぶのはアルヴェイン王国の王族、そして高位貴族たちだった。向けられた視線に臆することもなく十九歳のリュティシアは悠然と微笑む。

 美しい所作でお辞儀をしたリュティシアへ、国王はねぎらいの言葉をかけた。


「我がアルヴェインへようこそ、リュティシア王女。遠路ご苦労だった」

「陛下にお目通りかないましてこれ以上の喜びはございません。間に山こそありますが祖国ガルディアとアルヴェインとは親しい隣国。私が友好の架け橋になれればと願っています」


 リュティシアは流れるように返答した。

 いつものリュティシアはわりと活発な(たち)なのだが、外交の場での振る舞いぐらい心得ている。やわらかに笑む、姫君らしい仕草に魅せられて広間に称賛の空気がただよった。


(うん、いい雰囲気だわ)


 隣国に対してソトヅラをキープしたいリュティシアの思惑通りだ。


 若草色のドレスに包まれるしなやかな体。

 結い上げた蜂蜜色の髪は顔の横だけ垂らしてあり、薔薇色の頬をつややかにふちどる。

 キラキラ輝く(はしばみ)色の瞳には希望が満ちていて、列席者の目を引いた。


 実際リュティシアは国を出ることにワクワクしていた。生まれ育ったガルディアは峻険な山に守られる小国だから。

 末姫として可愛がられてきたリュティシアだけど、そろそろ広い世界を見てみたい。


 アルヴェインはさほど大きくも強くもない国――だが、国民は穏やかで堅実だと評されている。なのでガルディア側としても愛する末姫を託すにふさわしいと考えたのだ。

 こうして会ってみれば、舅のアルヴェイン国王や王族たちにも派手なところはない。

 国王の隣には王妃が立っていた。その右手にいるのは王太子夫妻、さらに結婚相手となる第二王子らしき人が並ぶ。

 そして反対側の左には、ニコニコ愛らしい男の子がいた。横には落ち着いた雰囲気の男性の姿もあって、リュティシアの目を引いた。


(可愛い子! ここにいるのなら王族なのよね?)


 リュティシアから自然な笑みがこぼれる。子どもは好きだ。

 ふわふわした黒い髪と、緑がかった目の男の子。隣の男性も黒髪だが瞳は青灰色。この二人は誰だろう。


「セミオン、前へ――」


 王にうながされて一歩進み出たのは婚約者の第二王子だった。

 二十歳のセミオンはなかなかの好男子で、栗色のサラサラした髪はまさに王子さま。ややはにかみながらニコリと会釈してくる。


(――甘やかされた次男坊ってやつかしら)


 リュティシアの抱いた第一印象はそれだった。

 初めて会う婚約者に対して辛らつな評かもしれない。でも否定的な気持ちで見ているわけではなかった。

 王族に嫁ぐとはいえ第二王子なら、妃の責は重くない。その点セミオンはとてもありがたい相手――だって、リュティシアはゆるく生きたい!


「お会いできて嬉しく思います。リュティシアでございます」

「セミオンだ。こんなに美しい人を迎えるとは、照れてしまうな」


 二人は近く歩み寄り遠慮がちにまなざしを交わす。国同士が決めた婚約なので、もちろん今日が初対面だ。


 これから半月ほど、リュティシアは王宮に客人として滞在しながら結婚式の準備をする。その間に二人は理解し合い、仲を深めなくてはならなかった。

 リュティシアの役目はそれだけではない。アルヴェインの王族・主要貴族の勢力図や人柄を頭に叩き込み、宮廷で立ち回れるようになるのが急務だった。

 そのあたりリュティシアは苦手なのだ。だって何か問題があれば――腕力で解決したくなるのがリュティシアだから。



 加護・剛力(ごうりき)

 それがリュティシアの授かった祝福だ。



 ガルディアは国土の厳しい自然のおかげか、天の祝福たる加護を持つ者が多く生まれる。神秘の山岳国家と称されるゆえんだった。

 中でもリュティシアは珍しい多重の加護持ち――なのだが、〈剛力〉という加護は姫として微妙過ぎる。なので対外的にその加護は秘密とされていた。アルヴェインへ示されたリュティシアの加護は、もうひとつ持っている〈育成〉のみ。〈育成〉を持つ者は子どもや弟子を育てるに巧みだとされている。


「ガルディアの宝石と名高いリュティシア姫、これからは私とともにアルヴェインの国を育てていってほしい!」


 セミオンがそう言ったのは、あらかじめ伝えられた情報にのっとった社交辞令。リュティシアはしとやかにカーテシーを決めた。


「力及ぶ限りつとめさせていただき――」


 キ――ンッ!


 リュティシアを不思議な耳鳴りが包んだ。これは加護が働く前兆。ハッとして天井を見上げる。

 ガチンッ!

 何かが壊れる不穏な音。


「危ない――!」


 ダンッ!!

 床を蹴ってリュティシアは飛び出した。剛力が発動する。目の前に立つセミオンに肩が当たったが仕方ない。

 天井の燭台(しょくだい)が斜めになり、降ってきた。その下にいるのは王太子夫妻。

 リュティシアは体当たりして二人を突き飛ばした。倒れ込む三人の後ろで燭台が床に落ち、けたたましい音をたてる。


 ――――。


 広間が静まり返った。いったい何が起こったのか。


「か……かっこいい!」


 静寂を破ったのは男の子の声だった。国王の横に並んでいた、あの子。興奮しきりで横の男性を見上げる。


「すごいね、お父さま! おひめさま、あしがはやいよ!」

「しいっ、エディ。お式の間はしゃべらないと約束したろう」


 リュティシアは体を起こし、その様子に目を丸くした。彼らは父子だったのか。

 父親らしき人はとっさに息子を腕にかばい、燭台に背を向けていた。周囲に配る視線は厳しいが、「エディ」と呼びかけた声はやわらかい。息子を怯えさせない配慮だろう。


 でもとにかくリュティシアはすぐ横に倒れている王太子妃を助け起こした。自力でヨロヨロ起き上がった王太子パルミロも含めリュティシアがなぎ倒した形なので、いちおう申し訳ない。


「お怪我は?」

「……いえ。危ないところをありがとう」


 王太子妃フロリアーナは、青ざめながら礼を言った。リュティシアがいなければ燭台に潰されかねなかったのはわかる。


 振り返れば床には豪奢な灯火の台座と、何かの欠片が砕けて散乱していた。だがそれは一般的なろうそくではなかった。何故か赤黒い。


「これは……何? ガラスではないけれど」

「お手を触れませんように!」


 遠くから鋭い声が飛んだ。その主は壁際にひっそりと立つ、暗緑色のローブをまとった壮年の男だ。


「それは晶化術(しょうかじゅつ)の結晶を使った結晶灯火(けっしょうとうか)です。障りがあってはいけませんので、始末は我ら晶術師(しょうじゅつし)が」


 障り。晶術師。

 そう聞いてリュティシアは納得した。微笑んで一歩下がってみせる。

 晶化術とは、アルヴェインで発達している魔法のこと。この結晶は――人々の苦しみを治療した末の副産物だと学んだことがある。


 晶術師たちが片付けのために動き出したことで広間にざわめきが戻った。

 めでたい顔合わせの席で事故が起こり、主役である姫君が王太子の怪我を防いだとなると大変な事態だ。


 ――だがその姫の動きに巻き込まれ跳ね飛ばされ、吹っ飛んでコケた王子がそこにヘタり込んでいるわけで。

 列席の人々の目はセミオンの醜態を見ないように泳いだが、口は止まらなかった。


「……セミオンさまは武道など何もたしなまれなかったのか?」

「女性がちょっと当たったぐらいであんな風に転ぶとは……」


 ささやきが起こるが、〈剛力〉を発動したリュティシアの肩ならば「ちょっと当たった」では済まない。この言われようはセミオンが可哀想だ。

 だがそんなこと、アルヴェイン側は誰も知るはずもなく――。


「――き、貴様っ!」


 叫んだのはセミオン王子。床から立ち上がると、ワナワナと震えつつリュティシアをにらむ。


「私を突き倒して走るとは、どういうことだ!?」

「申し訳ありませんわ、セミオンさま。そうでもしないと間に合わなくて」

「うるさいっ……こ、婚約破棄だ! おまえのように乱暴な馬鹿力女と夫婦になどなれるものか!!」


 わめき散らす婚約者の姿を見つめ、リュティシアは息を飲んだ。


「こん……婚約、破棄?」

「そうだ!」


 青ざめるリュティシアの前までカツカツと靴を鳴らし歩いてきたセミオンは、隣国から遠路到着した婚約者に人差し指を突きつける。


「夫となる男を跳ね飛ばすような女、願い下げだからな!」


 それは王太子夫妻の緊急事態につき、大目に見てほしいところ。だがセミオンは自分の失態をごまかすことにしか意識が向いていない。


「そん、な……」


 あんまりな言葉を聞いて目まいがした――と見せかけて、リュティシアは手を額に当てた。そしてクラクラよろめいたフリをしてセミオンの方へ倒れかかる――。


「ぶへっ」


 セミオンはふたたび床に沈んだ。彼の鼻へ盛大に裏拳を叩き込みつつ、リュティシアが倒れ伏したからだ。

 ――もちろん、演技で。



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