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最終章-4 図書館のカミサマに探しものを頼まれた件?

 魔法陣の光が収まり、二つの人姿が露わになる。

 現れたのは……一組の男女。

 年の頃は、十代後半か。服装からすると……どうやら俺と同じ地球人らしい。新たなる転移者、なのか?

 ……ン? “男女”とは言ったが……どうやら逆っぽい?

 小柄で華奢な少年と、長身でボーイッシュな少女か。

 よく似ているところからして、おそらくは兄妹……あるいは姉弟か。歳も近い様だし、双子かもしれん。

 う……む。

 どちらも見覚えはある気はするんだがな。

 誰だっけ? 確か、確、か……


「ユーキ兄さん⁉︎」


 わずかに非難の色を帯びた、少女の声。

 ん? 俺の名前を呼んだ⁉︎ やはり、知り合いなのか……。

 だとすると、この状況は少々マズいな。

 慌ててフィレイとソフィア二人から身を離す。


「知り合いか?」

「ああ、多分……」


 フィレイの問いにそう答え……

 同時にあの二人は硬直した。

 ま、まぁ……やや高めとはいえ明らかに少年の声だしな。そのせいで、とてつもない誤解を与えた気がする。

 ……いや、誤解じゃないというのが、またね。

 と、とりあえず、だ。気を取り直して……、と。

 何とか動揺を抑えつつ、俺は二人に近づく。


「君たちは、何者だ? おそらくは地球、それも日本から来た様だけど。俺は、山田勇気。君たちよりも少しばかり早くこの地に召喚された者だ」

「……」


 俺の言葉に、二人は戸惑ったように顔を見合わせる。

 ……どうやら少女はやや失望した様な顔だな。う……む。やはり、知り合いだったか? でもこんな兄妹、いたっけかな……?


「私、リナです。昔、よく遊んでもらった……」


 と、少女が少し怒った様な表情で答える。

 リナ……か。ああ、あの子か!

 その名には、覚えがある。親戚の子だったな。しかし、もう何年も会ってない。小さい頃から可愛い子だったけど、こう成長するとは思わなかった。

 どっちかというと、隣の少年の方が、そうなる姿だと思うんだがな……。

 ところで、この少年は……


「オレは、セナ。リナの双子の兄です」

「え? ちょっ……」

「……⁉︎」


 セナと名乗った少年の台詞に、リナは少し焦った様な声を上げた。

 一体なんなんだ?

 いや……それよりも、だ。

 リナが、双子⁉︎

 いや、確かに……そうではあった、が。しかし……


「覚えてないんですか?」


 セナが少し困った様な顔で問う。

 う……む。どう答えたものか。


「ユーキ兄さん? 私たち、行方不明になったユーキ兄さんに会えると思って喜んでたのに……」


 リナも当惑し、落胆しているようだ。

 仕方ない、か。


「無論、リナちゃんのことは覚えてるよ。最後に会ったのは何年も前だったから、すぐには結びつかなかっただけさ。けど、ごめん。セナ君は……」

「どういう事です?」

「俺の中には、リナちゃんに双子の兄がいたなんて記憶がないんだ。本当にすまない。もしかして、召喚の際のなんらかのアクシデントで、俺の記憶が欠落しているのかもしれんが……」


 う〜む。我ながら、苦しい説明だ。

 確か、彼女が生まれる前は、双子だとかいう話は聞いたことがある。が、いつの間にかその片割れが消えてしまっていたとか。双子の片方の成長が止まってしまうのはたまにある話らしいがな。

 にしても、このセナという少年は、一体何者なのか。

 “(生命エネルギー)”の気配は確かに感じるので、幽霊の類ではなさそうなんだがな。

 ……ふ〜む。


「ってコトは、違う世界線(パラレルワールド)、か」


 セナがぽつりと口にした。

 ふ……む、なるほど。それならばこの状況に説明がつくか。

 つまりは双子として無事生まれて来た世界の彼ら、ということになるのか。


「シンシアとかライナスのおっさんとかさ。他にも何人かいただろ? “地球”から異世界に転移あるいは転生してきたって人たち。それと同じ……というか、もっと近い世界から転移してきた、“オレたちの世界のユーキ兄ちゃん”とは違う“ユーキ兄ちゃん”なんじゃね?」


 と、セナが続ける。

 なるほど。“シンシア”やら“ライナスのおっさん”やらはよく分からんけど、どうやら彼らはなんらかの手段でここ以外の異世界を旅していたらしいな。そして今回、この世界にたどり着いた、と。

 もしかしたら、彼らの世界の“俺”も、こことそっくりな異世界にいたりするんだろうか?

 なにより……彼らの用いた手段がわかれば、俺も日本に帰ることができる……のだろうか?


「……そっか」


 そんな俺の思いをよそに、安堵の色を顔に浮かべたリナがうなずいた。

 う……む。

 なんかフクザツだ。

 が、仕方ないと割り切るしかなかろう。なにせ、この世界と日本じゃ常識が違いすぎるからな。これまでの反応を見る限り、リナはその辺が潔癖そうだしな……


「旦那様、その二人とは知り合いなのか?」


 横からの、エミーネの問い。


「“旦那”、様?」


 リナが、冷ややかな声でつぶやく。

 う……む。

 誤解が積み上がっていく……

 いや、誤解ではないか?

 彼女たちと、その……うん、アレな関係になっているのは確かだしな。

 あ……“彼女”じゃないのも一人いたケド。それは考えないことにしよう……。


「ン? どーしたよ、ユーキ?」

「あ……いや、別に」


 なんでもない。なんでもないんだ。

 にしても、勘が鋭すぎねぇか? アイツ(フィレイ)……



 とりあえず、だ。一通りの自己紹介と、これまでの経緯を説明する。

 二人は戸惑っているようだが、俺たちの置かれた現状を理解してくれたようだ。どういう訳か、俺の今までの経緯を知ってるらしいしね。

 ……リナの視線は少々冷たいままだった気がするが。

 そして、双子の方だ。

 どうやら彼らは、学校の図書館に現れた“本のカミサマ”とやらに頼まれて“負のアイテム”集めをしているようだ。

 彼らの話を信じるならば、今俺がいるここは、本の中の世界ということらしい。そして、48時間以内にアイテムを回収して現実世界に戻る、とのことだ。

 本のカミサマ、それに負のアイテムね。にわかには信じ難い話ではあるが……こうして異世界に来ちまった身としては信じざるを得まい。

 そして、“カミサマ”とやらに与えられたというノートとダイスだ。

 ノートはアイテムを回収するためのもの。そしてダイスはこの二人にランダムで何らかの“力”を与えることができるモノらしい。

 “呪いのアイテム”、か。それにこの状況。そして48時間というリミットタイムからして、恐らくは魔王が持っている“何か”なんだろう。

 そして、ダイス。

 何らかの“力”、か。それも、ランダムに。

 ランダムは少々無責任じゃね? や、カミサマ(傍観者)だからそんなモンか? ……もしかして、一見ランダムな風に見せかけだけかもしれんがな。

 にしても、その“力”。

 『対象の物体から水を抜き出し、ゼラチン状にすることが出来る』やら、『JDAMによる近接航空支援を3度要請できる』やら『霊体を憑依させ、その“力”を行使できる』やら……

 う〜む。あまりに統一感がないな。

 まぁ、それはアイテムの方も同じだ。

『草薙剣』とか『殺生石の欠片』、『シンシア・マクミランの著書』うむぅ……何の目的で集めてるんだか皆目見当がつかん。

 おっと、そういえば。シンシアって、さっき言ってた転移者か転生者なのかな?

 ……ん? 『転移装置』? これは、まさか……

 時空を超えることができる装置。もしかしたら、これを使えば俺も地球に……日本に帰れるのか⁉︎

 いや……それは今、置いておく。魔王討伐が先決だからな。ここまで来ておいて、はいさよならって訳にはいかんだろう。

 とりあえず、だ。第三者の意見が欲しいところだな。

 フィレイとソフィアはその辺の事情を知ってるだろうしね。あとは、魔道師のミルク。そしてエミーネと……シーリーンはあんまりよく知らん気がする。

 ……ん? シーリーン?

 …………。

 ……ああっ! 色々ありすぎて、すっかり彼女(アイツ)のこと忘れてた!


「そういえば……シーリーン! シーリーンは無事か⁉︎」


 慌てて周囲を見回し……


「こーこーよー。おーろーしーて〜〜!」


 微かな声が、どこからか聞こえてくる。

 無事だったか……。にしても、どこだ?

 あ……いた。

 見ると、崖から突き出た枯れ木の枝に、彼女は引っかかってやがった。

 髪はチリチリ、服はボロボロ。しかし無駄に頑丈なだけあって怪我とかはしていないようだ。

 まぁ、色々見えてしまったりとかしてるがなー。

 そしてガン見してリナにしばかれるセナ。

 うむ……それくらいカンベンしてやってくれやー。男だから仕方ないんやで。

 多分、転移直後までの俺だったら、同じような反応してただろうな。

 今は……うん。


「某が助けに行って参ります」

「ああ、すまんね」


 そしてマツヤがシーリーン救出のために、駆け出した。

 おー、一足飛びであの高さまで飛びよった。まるでニンジャである。とはいえ、彼女にとってはあれくらい朝飯前か。

 そして、枝に絡んだ彼女のスカートを……って、あ。


「むぅ……不覚!」

「わひゃあ〜〜!」


 落としよった。

 そういや彼女は案外不器用だったな。

 や、戦闘に関しては豪胆かつ繊細ではあるんだが……それ以外はお察しください。


「仕方ないですわね」


 おっと、パルメが動いたか。

 マツヤに次ぐ身体能力の持ち主だ。大雑把ではあるが任せておけば問題ないだろう。……多分。そう、多分……。



 ……さて、と。

 とりあえず、フィレイたちに意見を聞いてみるか。


「い゛だあ゛〜〜ッ、腰打った!」

「これくらい我慢なさい!」


 ……またシーリーンの悲鳴が聞こえた。が、とりあえず今はスルーで。


「なるほどね。本の神様、か。本がらみで何か聞いたことがある気がするけど、何だっけか? 確か、アレは……伝承? う〜ん……」


 フィレイには、何やら思い当たる節がありそうだ。


「私も聞いたことがあるな。確か……伝承族、という名であったと思うのだが」


 エミーネが応じた。


「ああ、ソレだ!」


 フィレイが応じる。

 おお……なにやらこっちでもそういう伝説の類はあったのか。


「伝承族か……。何者なんだ?」

「おぼろげな伝承だが……、かつて現れた“邪悪なるもの”を封じた一族が存在したそうだ。そして、それはとある書物に封印されたという話は聞いたことがある」

「アタシも師匠から似たような話を聞かされたことがあるわ。伝えるものたち、またの名を……“読み人”、と」


 ミルクも聞いたことがあるのか。


「それって……」

「それが、あの“本の神様”と同じかはわかりません。けれど……それが封じられた“本”とともに彼らは忽然と歴史から姿を消してしまったそうです」

「ふ〜む……」


 ソフィアの言。

 彼らが集めたアイテムの中には転移装置があったな。もしかしたら異界に逃れた“邪悪なるもの”が、この世界に戻ってくるために彼らを利用している? いや、考えすぎか……。

 なんとも言えんな。

どうやらセナとリナは俺たちに同行するつもりらしいし、その過程で明らかになるのかもしれんか。

 ……俺がこの世界に召喚された理由を含めてな。

 とはいえ、たとえ並行世界から来たものだとしても、親戚の子らを危険にさらすわけにはいかない。

 だからこそ……決着は俺たちの手でつけなければならないだろう。

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