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我はツチノコ  作者: あいうわをん
断章 ツチノコのいないところで
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誤字脱字報告ありがとうございます。適宜修正しました。


今回も会話多め><


 アプフェル王国宮殿、謁見の間。グラニーラムゼースミスの里の救援要請を受け、見事里に蔓延る魔植を討伐した近衛軍小隊を率いたミア・ボルドウィン隊長は、予定通りエッセン連邦州都フランクフォートから2日掛かりで王国の首里までたどり着き、一旦官舎で部下達を待機、自身は礼服に着替えた後、軍務省にて帰還報告を行った。しばらくの待ち時間の後、謁見の準備が整ったので、儀礼官に従って謁見の間に入った。そこには国王が一段高いところにある玉座に座り、その左右には王国の業務を機能毎に担当する諸卿が並んでいた。ミア・ボルドウィンは片膝をつき頭を垂れる。




「アプフェル王国軍務省近衛軍筆頭剣士、ミア・ボルドウィン。陛下からグラニーラムゼースミス里を害する魔植の討伐の任を受け、討伐達成完了したことを報告申し上げます」




「うむ。面を上げよ。よくやってくれた。寡兵で資金物資も僅かであったが、期待通りの成果だったな。討伐終了報告から間がないが、体の方は疲れていないか? 」




「大丈夫でございます。討伐よりその後の後始末に時間がかかっていました故。完全に討伐できたかどうかの確認を行いましたところ、問題なしとの裁定がおりました」




「裁定を行ったのは何処の誰か? 」




「グラニーラムゼースミスの里の里長ポッポ・ハート殿と、エッセン連邦フランクフォート冒険者ギルドマスターのドラウセン・シュッツ殿です」




「なるほど、里の里長と冒険者ギルド長が裁定したのなら、それは本当のことだろう。いや、疑ったわけではないぞ? 他の者を納得させるためには必要な照合だからな」




「は。心得ております」




「それでは、堅苦しい謁見はこれくらいにして、詳しい話をしてもらおうではないか。なあ軍務卿」




「それでは、宮内卿殿。手続きをお願いする」








 謁見式は簡素に終わったが、それは次の会議室での査問の始まりであった。国王と諸卿が謁見式を出てしばらく間を開けると、ボルドウィンも儀礼官に従って控えの間で小休止をとった後に会議室へと赴いた。儀礼官が入室しボルドウィンを案内していく。指し示された場所は、円卓の一席、国王の正面に当たる位置であった。国王は目視してボルドウィンに着席を促し、彼女はそれに従った。着席した場所にはグラスが置いてあり、そこに給仕達が液体を注いでいく。国王と諸卿が杯を手に取り喉を潤すのを確認してからボルドウィンもグラスを手に取り一口啜る。




「さて、そろそろよろしいかな? 謁見式は別になくてもよいのだが、形式上仕方なく、な。こちらの方が聞き取りやすいのでそうさせてもらう。私だけでなく諸卿からもいろいろ問いがあるから虚偽なく答えるように」




「御意のままに」








 こうして、アプフェル王国上層部は今回の魔植討伐の顛末をボルドウィンから直に聞かされた。魔植討伐の任を受け、すぐに任地に赴いたものの、魔植が思った以上に手強く、かつ支度金のほどんどを里の救援物資のために放出したこと、それでいて成果がでなかったため、フランクフォートまで一時撤退したこと。次の策も思い浮かばず、フランクフォート冒険者ギルドマスターの同胞を頼ったこと。そして………… 光の世界樹の存在の可能性にかけノルトオステン王国の北東部辺境のその先にある黒色土の森の先を抜け、迷い惑わしの森をひたすら彷徨ったこと。そこで件の蛇の魔物(ここではボルドウィンはあえて魔物とツチノコを評した)と出会い、光の世界樹のもとまで導いてもらったこと。しかしすでに光の世界樹は枯れていたこと(ここでも次代の世界樹があったことはボルドウィンは話さなかった)。ツチノコなる魔物は多彩な魔法を使い、風の谷の里に蔓延る魔植にも対抗できると考え、魔植討伐の手助けを依頼したこと。そしてその考え通りに討伐ができたこと。王里まで同行を願ったが、もとの住処に戻ると断られたこと。








「それでは、その討伐はその”スネーク”とやらの魔物がただ一匹でやったようなモノではないか! そなたの功績と言うほどもないな! 」




「宮内卿、それは言葉が過ぎるのではないですか? 第一、彼女がその従魔を見つけて討伐に参加させてこなければ、いまだに魔植は討伐できておらず、もしかしたら風の谷の里も滅んでいたやもしれんではないか! それよりもだ、なぜ、その従魔を王里まで連れてこなかったのだ! 」




「左様左様、そやつがおれば、他の精霊顕現化待ちのマルス・プミラさまも風の谷の里同様にできたものを! 」




ボルドウィンは諸卿の言い分を聞き、答えられる質問には答える。




「まず、スネークがいなければ、今回の討伐はならなかった、私もそう考えております。力不足で申し訳ありません。そして、王里に来るように勧誘したのですが、素気なく断られてしまいました」




「それはなぜか? 」




「魔植の討伐までと言う約束もありました。しかし、それ以上に世界樹にエルフ族が関わることを好んでない様子でした」




「なぜ、そう思う? 」 




「光の世界樹が、彼の世話になった世界樹ただ一柱だけだという話をしまして、それはなぜかと問われました」




「一万年前のことを話したのか」




「そうです。それ以降、我らエルフ族は光魔法を使えなかったのですが、百年前に賢者がその世界樹を見つけ光魔法を欲しがっている、そのような経緯を彼は知ってしまいました。我らエルフ族が再び光魔法を使うようになれば、再び一万年前の出来事が起きるかもしれない、彼はそう考えたそうです。ですので、光の世界樹の管理を我らに任せられない、と」




「先ほどから魔物のことを彼、彼、と呼んでいるがそれはどうしてだ?」




「はい、彼は見かけこそ魔物ですが、人と同じ思考と嗜好をしております。付き合うに従ってどうしても私には彼のことが魔物とは思えなくなってしまいました」




「どうやって意思疎通をしたのか? 」




「出会った当初はこちらの言うことは伝わっているようでしたが、自身の意思を伝えることはできておりませんでした。それでフランクフォート冒険者ギルド長シュッツ殿から遠距離連絡用の魔道具を借り受けており、それを使いましたところ、念話での意思疎通ができるようになりました」




「ふむ。実に興味深いことですな。こちらからいろいろ聞きたいものです」




「念のため、彼のステータス情報を記録しておりますのでそちらをご覧下さい」




書記官にあらかじめ渡されていた一枚の紙が国王の前に提出された。








=============================




種;魔法生物(ミア・ボルドウィンにより改竄かいざん




属:ツチノコLv.9800、




名;スネーク、




性別;♂、




年齢;59日、 




HP;49,732/50,000、




MP;3,406,754/3,500,000、




=============================








「この記録は7の月、18日の日に記録したものです。ステータス魔法はフランクフォートにあるポーション屋マーメイド族の店主が行ったものです」




「な…… このMPは一体…… 伝説の賢者クラスではないか! 」




「生まれてたった2ヶ月で、このように成長するのか! 」




「この、”ツチノコ”と言う種の特徴かどうかは分かりませんが、彼は道中、何度も魔力枯渇するほどの魔法を使って最大MPを増やしております。この後も何度も魔力枯渇を繰り返しておりますので、現状ではもっと大きくなっているものと推察されます。彼の魔法によりグラニーラムゼースミスの里での魔植討伐は成功したと言えます。我々は彼を連れてきただけ、と言われても仰せの通りというしかありません」




「ふむ…… しかし、そやつを連れてきただけ、ではないだろう。その者を説得し討伐に参加させた功績はあると考えるが、皆はどうか? 」




「まあ結果的に任を果たしたからよいのではないですかな」




「然り」




「だれも功なきとはいわんでしょうな、この件に関しては」




「ほう、農務卿は何かご不満か? 」




「やはり引っ捕らえてでもそやつを連れてくるべきでしたな」




「………… 生かしたまま王里に連れてくるのは…… 一つだけ手段がなくもなかったのですが…………」




「それはどのような? 」




「彼は水結晶を欲しておりました。故に王里に保管してあります水結晶を与えると言えば、あるいは」




「謀って連れてこようとはせなんだか」




「嘘をついてまで同行させようとしても我らエルフ族によいようにはならないと思いました故」




「生まれてたかだか2ヶ月の魔物にそれほど惚れ込んだか? 奇特なことよのう? のう、軍務卿?」




「…… 」




「さらに私見ですが、重要だと思われましたので、ここに報告したき儀があります」




「ほう、申してみよ」




「かの魔物、”スネーク”が生まれた場所は光の世界樹があった場所とされております。私がそこに辿り着いたときにはすでに世界樹さまは枯れていたのですが、その枯れる原因となったのがピルツの類いであったと申しておりました。彼はそれを”デス・ファンガス”と呼んでいたのですが、私は寡問にして知らず。何でも樹齢重ねるととりつきやすくなる魔物だそうです。彼がそれを描いておりますので、そちらをご覧下さい」




再び書記官から一枚の色紙が国王の前に提出された…… その色紙は討伐隊最年少の衛生兵ハンナ・ヴィンデルバンドの宝物であったのだが、貴重な資料と言うことで提出してもらった。国王は、その色紙を一目して…… 鼻で笑った。




「ふっ…… フハハハハ! アハハハッハーーーーー!」




「ど、どうなさいました陛下! 」




「こ、この絵を見よ! 」




そこには倒木の洞の中にある巨大なキノコが、ニヤリと笑う水墨漫画であった……




「こ、これは珍妙な! 」




「筆と墨で描いておるようだが…… このピルツに顔が本当についているのか? 」




「いえ、そこは想像で書いたと言っておりました」




「なんだこの絵は? ふひひひ!」




「芸術? 」




「爆発しておるの! ふはははは!」




「絵こそ巫山戯ているものの、大事な資料と言うことで部下から借りて報告いたしました」




「こ、これを書いたのはその部下か? 」




「いえ、スネークが」




「蛇が筆を取って絵を描くのか………… 面白い! 」




絵自体が、デス・ファンガスというキノコの魔物の情報より国王と諸卿の頭の中をおかしくしてしまったようだった。絵を見せるより先に情報を出すべきだったとボルドウィンは後悔した。
























本物語では、度量衡と暦はツチノコ転生前の世界と一致しておりますことをご報告します^^


また来週かなぁ(@^^)/~~~

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