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我はツチノコ  作者: あいうわをん
断章 ツチノコのいないところで
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4

ここもほぼ会話だった。



 フランクフォート冒険者ギルドにて。ミア・ボルドウィン率いる魔植討伐隊はギルドマスター室に呼ばれていた。魔植の討伐に付き合ってくれていた自称・従魔のスネーク、と別れたその日にグラニーラムゼースミスの里を出発し、王里に凱旋する途中であった。魔植の討伐が終わった後でやってきた討伐隊員はそのままグラニーラムゼースミスに残し、10日ほど里の仕事を手伝わせてから王里に戻るように伝達をし、討伐に加わった隊員とともに王里へ戻る予定であった。しかし、途中までグラニーラムゼースミスの里にほど近い基本人族の街、フランクフォートによることになった。冒険者ギルドにて引き受けたランク7昇格審査試験に合格したため、その認定を受けるためであった。


 その日はその町の宿屋{恋するマーメイド}で一泊し、祝勝会を行ったのであった。昇格審査試験直前に泊ったその宿では、宿の従業員一家から自称従魔とは任務終了後に契約解除をしたという話をするといたく残念がられた。祝勝会と称して食堂の一部を借りて宴会をおこなったが、酒を飲んで酔った討伐隊の隊員たちからは(一人未成年がいるものの)

「そりゃスネークちゃんがいてくれたらおいしいレシピもらい放題ですからねー」

「オニク食べ放題ですし~」

「師匠はいろんな知識を教えてくれる」

「いろんな武器とかくれたしな」

「宝石よ、宝石ゴロゴロなのよ! 」

物をもらっただけではない、短い期間ながらも一緒に旅をして苦楽を共にした仲間と感じていた。なので気安い評価にもなる。




 そして冒頭の日。討伐隊隊長ミア・ボルドウィンはギルドマスターのドラウセン・シュッツから認定書とランク7の冒険者証を受け取った。残りのメンバー5人はランク6への昇格である。ランク7となるにはランク6のときに昇格審査試験を受けなければならず、今回の討伐はミア・ボルドウィン以外のメンバーは討伐前はランク5であった。もし、メンバー全員が審査直前にランク6だったら、全員がランク7になっていたであろう。ランク7オーバーは一流冒険者の証とされており、ギルド掲示板のレッドボードの依頼を受けることができることになる。レッドボードの依頼は他のイエローボードやブルーボードに張り付けてある依頼に比べはるかに高額の依頼を受けることができるのだ。

 全員新しい冒険者証を受け取った後、ギルドマスターは皆を長ソファに座らせた。忙しい時間帯を抜けて手の空いた受付嬢に飲み物を持ってくるように伝え、それから軽く話をし始めた。


「ミア君、そして近衛小隊の皆、改めて無事討伐終了おめでとう。ランク7のミア君はこの後、エッセン連邦かアプフェル王国で祝賀パーティを開くことができるのだが、どうする? もちろん開かないという選択肢もまだあるよ」

「業務のことをギルドの昇進審査に使ったので祝賀パーティなど恐縮するばかりです。ご遠慮させていただきたい」

「なるほど。わかりました。でも、王里での祝賀パレードには出てもらう。グラニーラムゼースミスの世界樹さまが顕現化されてパレードをやらないとあってはならない。ハズだったんだけどね」

「ハズ、とは? 」

「昨日王里から連絡があってね…… 今、王里は上を下への大騒ぎさ。本当は、今王里に入るのはお勧めしないんだが、うーん、でも、向こうは情報欲しがってるし…… 」

「情報、とは?」

「グラニーラムゼースミス、それとスネーク君、いや、光のマルス・プミラのことかな? 」

「それはわかりますが、 別にそれは今すぐ、というわけでもないでしょう? 何か他に原因があるのでは? 」

「はい、失礼します。お飲み物お持ちしました。昨日ギルマスが持ってこられたコーヒー、それに糖を入れたものです。あ、ボルドウィン様のだけは無糖です」

「ご配慮いただきありがとうございます」



ギルドマスターはたった今届けられたコーヒーカップを持ち上げると、ゆっくりと香りを楽しみ、その後で一口啜った。ボルドウィン他のメンバーも同様にコーヒーに口を付ける。


「うーん、私はやっぱり…… 」

「ヴィンちゃんはまだまだ子供だからなぁ。オレ、もう慣れた」

「糖が入ってると少しは飲みやすくなりますね」

「これはアレだね。ジンセンを食べやすくするために、周りと糖で囲む手法とおんなじ」

「あとはオニクがあればサイコーですねぇ」


いや、それはない! 発言者以外その場にいる者はそう思った。





「それで、王里が混乱している原因とは? 」

「王里自体は混乱はしていないよ。混乱しているのは宮殿の方」

「宮殿が混乱? それでは近衛軍としては一刻も早く帰らねばなりません! 」

「待って待って! 混乱しているのは上層部だけだから! 宮殿内は平然としたものだよ、たぶんね」

「なぜそう思われるのですか? 」

「それはね、混乱の原因が神殿からの急報にあるからだよ」

「神殿からの急報? 」

「そう、詳細はまた連絡があると思うけど、どうやら魔王が発生したらしい」


魔王! 


その言葉に、その場にいたほぼ全員が凍り付いた。オニクサイコー発言をした隊員はのんびりとコーヒーを啜りつづけた。オニクはやっぱり合わないですかねぇ? でも、”はんばあがあ”や”サンドウィッチ”なら普通に大丈夫…… とつぶやいていた。


「だから、こちらに戦力の提供をしろ、といってきたとかですか? 」


近衛軍、というにはあまりにその体の小さいエルフが口を開いた。


「いや、そこまでは要求されていないようです。いまは、勇者召還するための魔力供給用として、ヴァイスハイト・オープストの供出を要求されているそうですよ。それと、世界樹さまの結晶石もたくさん」

「「「「「……」」」」」

「よく知らねーんだけどよ? 魔王と勇者召還、勇者召喚と世界樹さまの実ってどんな関係があるんだ? 」

「えとですね? この世界はマナにあふれているのですが、それが適切に循環していれば問題はないのですが、どこかで澱んだりするとそこで魔王が発生するのです」

「そりゃ知ってるが」

「魔王が活動すると人族には多大な影響を及ぼしてしまいます」

「ちょっと動いただけで地が避けたり、海が割れたりするのよねー」

「魔王の影響で作物が全然収穫できなくなったりもする、らしい」

「なので、魔王が発生したら討伐をしなければいけないのですが、我々普通の人族では通常討伐はできません」

「魔王がすげーぇーからか」

「それもあるのですが、魔王の持つ魔力のせいで魔王そのものに近づくことさえできないのです」

「んで、強ぇー魔王を倒すために、強ぇーやつを神殿が召喚するのよ。ヒーちゃんも呼ばれる、かもよ? 」

「うっせーな、呼ばれるんなら隊長の方だろよ! だけどさー、隊長なら命令だけでどこへでも飛んでいくと思うんだけど? 別に世界樹さまの実、いらなくね?」

「そーなのですが…… ”召喚”、ではなくて”勇者召還”だから魔力を必要とするのです。ただ」

「ただ?」

「前回の”勇者召還”ではヴァイスハイト・オープストだけで、結晶石は使ってなかったと記憶してるんですよね…… これはどういうことですかね? 」

「ハンナ君はどうしてそんなことを知っているんだい? 」

「それはもう、王立図書館に入り浸って資料を読んでいましたから」

「ヴィンちゃんって実はすげーやつだったんだな」

「いえ、お金貰ったうえ好きなことやらせてくれるのです。軍には感謝してますよ。それで、諸卿会議ではどのような結論になったのでしょうね? 」

「話し合いは今日も続いているよ。おそらく最初は様子見をすると思うんだけどね。そういや、ミア君は近衛軍での最初で最後の隊長職だね」

「ええ、もう次の月には近衛軍は解体されますね。そのあとはどうなるのか…… 」

「君のお兄さんに聞いた話だと、半分は宮内省に、残りは軍にわけるそうだ。女性兵士は宮内省に所属替えになると聞いたけど」

「女性兵士は宮内省に? 」

「宮内の安全確保にも男性が入っちゃいけないところがあるからねぇ。あそこにも女性官はいるけど、衛士としては能力不足だからね。近衛軍の女性兵士を衛士として招く算段だそうだ。あれ? 近衛軍の女性ってここにいるメンバーのことだね」

「隊長さんなんか、宮内省にはもったいないよ」

「その通りさ。全く役不足にもほどがあるよ。今回の功績を考えても君をそのまま宮内省に入れるのはない、私はそう思うよ。しばらくは」

「どのみち今回のミッションが成功裏に終わりましたからしばらくは休暇ですね~」

「んで、それが終わったら宮内省に出向か~、気が進まねぇな~」

「休みがあるのはいいけど、毎日訓練しないとだめだぞ! 」

「あ~、リーちゃんは訓練大好きだからなぁ…… 」

「あのねぇ、近衛軍とはいえ軍の訓練と、衛士としての訓練は別物なのよ? そのこと、わかってる? 」

「え? そんなに違うものなの? 」

「まあ基本的には変わらないと思うけど、衛士には宮廷作法の訓練もあるからね。あれは身に付くのにかなりな時間を使うと思うな。ミア君はもう大丈夫みたいだけど、君たちはどうかな?」

「そんなもんやらないとだめなの? それだったら軍所属のままがいーわ! 」

「ヒーちゃんにはお行儀とか、無理ですもんね」

「そういうカーちゃんはできるのか? 」

「私は、ほら、あなた達と違ってなんでもできますから」

「トレーネさん、すごいですね! どこで覚えたのですか。今度私にも教えてください!」

「うーん…… 宮廷作法は図書館で覚えられるんじゃない? そのほかのことは、お子様にはまだちょっと」

「くー! 信用していた先輩からもお子様扱い! 私の味方はいないのですか! 」

「ハンナちゃんは、なんでもできるようになりますよぅ。だから今じゃなくってもいいんじゃないんですかねぇ?」

「ああ、ヴィンなら宮廷でもその才能はいかんなく発揮されるな。魔法の才はわからんが」

「えぇー?! 宮廷って、魔法使えないのですか? 職場としては魅力壊滅ですね」

「でも、王様とか王子様と接触できるかもしれませんよ? お情けをもらえば一気にヴィンちゃんも王女様に(。・ω・。)ノ」

「ああ、こういう奴だきゃー衛士にしちゃなんねーな! 」

「全く! 護衛対象を襲う衛士がどこにいるか!」

「あんた達! なんで私が王族を襲う前提なのよ! 」

「駄目だぞ、トレーネ。王国転覆の罪で仲間を幽閉しなきゃならない、なんてことは止めてくれ」

「え、えぇ? 真面目な隊長さんまでそんなこと言う!?」

「トレーネさん、さすがに隊長のは軽口だと! ほらほら! 隊長のお顔をよく見てください、口元が笑ってます」

「トレーネ先輩が王女になったら~オニクたくさんごちそう令をだしてくださいね~」

「バウちゃん! 私が王女になれると言ってくれるのはあなただけよ! でも、オニクごちそう令は王女様では無理かしら」

「無理なんですか~、あたし、ちょっとがっかり~」


いつのまにやら情報収集がただの談笑になったと感じたギルドマスターと討伐隊隊長。だがその雰囲気は嫌いではなかった。それは冒険者達が見せる、依頼達成後の解放感にも似た感じ。そして依頼中に辛抱していたことを欲望の赴くままに貪る全能感、そのようなものと同じであるとギルドマスターは気が付いていた。討伐隊隊長はそうではなかったかもしれない、ただ、初の隊長任務をやり遂げたという昂揚感があった。




「さて。今後の予定だがね? どうするね、ミア君」

「まずは、そうですね。今日中に王里に向かいます。到着は明後日となります。情報が欲しいと言われるのであれば、到着後すぐにでも王城に入る許可をいただければ」

「明後日? ボルドウィン様、それは無理ですよ! アプフェル王国がどの辺にあるか私は知りませんけど、早馬をつないでも1週間はかかるはずです!」


いつの間にかやってきて、飲み物のお代わりを持ってきた受付嬢。今度はギルドマスターの愛飲しているラヴェンドゥーラ(糖入り)だった。カップを皆に配った後の発言だったので特にこぼすこともなかったが、カップをトレイに入れてあったら確実に容器の中身は揺れて漏れていたであろう、その程度には急な発言であった。だが、その発言はすぐにギルドマスターに否定される。


「ここから、グラニーラムゼースミスの里まで、早馬を使えても3日かかるはずが、彼女達の騎馬では日が沈む前までにはここフランクフォートに到着することができた。これは私が身をもって体感したことです。この次はやりませんが」

「あれはねぇよな!ギルドマスター様でもそう思いますよね! 」

「うん、あれはないですわ~! あんな行軍、無理! 」

「本番でもやらない。やる意味は…… 少しぐらいはある」

「アレを三日もやった私たちは、やっぱりすごかったのですね!? 」

「軍ではあれが当たり前なのか~と思ってたのですがぁ」

「シュッツ様が、できるだけ早くお戻りを所望されていたので」



なにやら無茶な行軍をおこなったらしい討伐隊隊長なのであった。とすると、王里行きの行軍も同じことになるのかと思いげんなりする隊員達であった。




お読みいただきありがとうございます。

それではまた来月までには~(^_^)/~

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