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先ほどとは少し前。とある神殿にて。
「はー、本日の業務終了…… お水お水…… 」
なんの業務かわからないが、大きな部屋からでてきた少女。ゆったりした服装で、パタパタと廊下を小走りで歩いている。角を曲がろうとしたところ、向こうからやって来た年上の女性に咎められた。
「こら、アイシャ! 廊下を走ってはいけませんと何度も言ってるでしょう! 」
「でも、巫女長さま~、あのお部屋の中、閉め切りで風も吹かなくって暑くってしょうがないんですよ~、もうのどカラカラです、お水お水~」
「ん? おかしいですね? いつもでしたら冷風が吹いているはずですが? なにかありましたか? 」
「私、あの部屋に入ったの、初めてなんですが? それよりもお水~」
「仕方ないですね。アイシャ、一緒に休憩室まで来なさい。お水を飲んだらもう一度あのお部屋に戻りますよ」
「やった! 巫女長さまと一緒なら氷入りのお水が飲める!」
休憩室に入った二人。少女は器を手に取り、テーブルに置いてある箱のボタンを押す……氷入りの水が出て器一杯になると、少女は一気に飲み込んだ。
「…… ぷはーーー!げふっ! この一杯のために生きてる! 」
「…… 大げさな子ねぇ…… …… ……」
「巫女長さまは飲まないのですか? と言うより、何してるんですか? 」
「…… これは、口の中を清潔にしているのですよ。あなたもそろそろここのやり方を覚えないといけませんね」
いわゆる歯磨き・舌磨きである。巫女長は小布に粉を付け、対面の鏡を見ながら歯を拭い、歯が終わると歯茎を丁寧に拭いていく。最後に舌を拭ったあとで、水の入った器を口に付け、水を一含みし、口の中を濯いだ。
「ふー、それでは行きましょうか。ああ、アイシャ、あまり氷を飲むとお腹が痛くなるので飲むなら水だけにしておきなさい」
水を飲み、あるいは口中清浄を行って二人は元来た廊下を戻っていく。そして、部屋の中に入ると閉め切っていた部屋なのに天井から吹き下ろしの風が吹いていた。さらに天井のステンドグラスがキラキラと輝いている……
「こ、これは! アイシャ! すぐに神官か誰かを呼んできなさい! 」
「わ、わかりました!」
部屋を慌てて出る少女。先ほど廊下を走らないように注意されたばかりだがすっかり忘れてしまっている。注意をした方は現在そのことを忘れるくらい動転していた。
「これは…… 宝物庫に記されていた古文書通り…… すぐにでも始まりそうです…… 口を濯いでおいて本当によかった…… 」
巫女長のお昼は魚介の香草入りアヒージョだった。アヒージョ…… いわゆる食材をオリーブオイルとニンニクで煮込んだ料理である…… 巫女なのにそんなの食べていいのか?と言う疑問はさておき。ここで巫女長の意識が途絶える。
アイシャと呼ばれた少女は、程なく人を大勢連れてきた。
「巫女長さまー、神殿長をお連れしましたー!」
「いや、まだだ! 」
「神殿長は脚が悪い! 来られるのに今しばらくかかる故、マイムーナ殿! もうしばらく! もうしばらくご辛抱されよ! 」
「な、何が起きてるんですか? 巫女長さまは大丈夫なのですか? 」
「君は巫女見習いの…… アイシャと言ったか。あれは神託の兆しだ! 巫女長殿は口を濯がれたか? 」
「えーと、つい先ほどお口を布で拭いておられました」
「そうか、さすがはマイムーナ殿だ! 」
「口を濯がないと神託が降りないのですか? 」
「い、いや、そういうわけでもないらしいが…… 口を濯いでおかないと、神託時の口調が」
「口調が? 」
「よくわからないが…… 強いて言えば、子供っぽくなる、らしい…… 」
「はぁ…… それがなにか問題なのですか? 」
「君は来たばかり…… いや、まだまだ子供だからわからんか」
「ムキー! 私はもう成人してます! おっぱいだって膨らんできました! 」
「分かった! 分かったから自分の乳を揉むのは止めなさい! 巫女見習いとして恥ずかしいと思いなさい! …… 神託の口調をそのまま書面にするのは外聞がよくないのだよ」
「外聞」
「神殿は、諸国の王家や冒険者ギルド、商業ギルドなどとも一線を画する勢力なのはわかるな? そこで出た神託が
【はちゃちゃ~(>_<)、ドーリア海でおっきなオサカナが暴れてるよ~?(T_T) そのせいで大きな{たこさん}が目ぇ覚ましちゃうかもも~(^_^;)、はやくどうにかしてあげて~(><) コクランからのお願いだぞ(^з^)-☆】
と言われてみなさい! 」
「はわ~、コクラン神さまっておかわいいのですねぇ。私、神殿に入ってよかったです! 」
”子供に言ったのは間違いだった……orz”
「とにかく、書記官は記録の準備を急げ! 机と椅子は! 筆記具は持っているな! あっ、巫女長が光り出したぞ! もう神殿長は間に合わん! みんな、よく聞いておけ! 」
ばったりと倒れていた巫女長がキラキラと光り出して起き上がった。それを見ていた周りの者達は、何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている…… 起き上がった巫女長は、そのままスタンディング
ポーズをとっていたが…… いきなり動き出した!
「こ、これは! 」
「これはなんですか! 知っているのですか、書記官? 」
「これは古代文献にある、{ゾンビダンス}という奴…… なのかもしれません! 」
「なんだその{ゾンビダンス}というのは! 」
「詳細は分かりませんが…… 夜間に死者が動き出す動きを元にしたダンスとかなんとか……」
「馬鹿な! 死者が動くわけがない! ましてやダンスなどと! あ! 今変な動きをして後ろに移動したぞ! 」
「今のが{ムーンウォーク}というやつですよ。前に歩くと見せかけて後ろに進む技だそうです!」
「それに何の意味が!」
「さぁ?」
「知らんのかい! 」
一通り{ゾンビダンス}とやらを踊った巫女長。いつもとは違う雰囲気に巫女見習いのアイシャは痺れていた!
「巫女長さまー、かっこいー! 」
その声援に応えるように一礼する巫女長。そして一声。
『みんなー、応援ありがとー! それでは神託、おろしちゃうぞ(^з^)-☆』
あかんー、これ駄目な奴やー! 一人を除きその場にいる皆がそう思った。
……神託中……
「それで、これがその結果というわけですか? 」
遅れてきた神殿長に手渡された殴り書きのパピルス。神官長は手で額の汗を拭う。
「は…… 皆も確かにそう聞きました」
辺りの者達を見回す神官長。
「マイムーナさんはどうしてますか? 」
「彼女はまだ意識が戻っておりません。治療室で休ませています」
「やはり神託中は意識がなかったのでしょうか……? 」
「神託にかかる直前まで我慢されたのだと思いますよ。巫女見習いが人を呼びに行って帰ってくるまで間がありましたから」
”くっ! 私も神託、見たかった…… ”
なんのことはない、神殿長も巫女見習いと同レベルであった。しかし内心を声にすることはない。彼女は大人なのだ。神託の内容をそのまま出すのは外聞が悪いことは完全に理解していた。その内容は
【はわわわ~(>_<)、ちょっと聞いてくれる~? さっき魔王が生まれたの~(>o<)! 怖いですねぇ恐ろしいですねぇ! え? 怖さが分からない? そいつはドラゴン種でね~、一度跳ねると大地を切り裂き、一声叫ぶと天空を割っちゃうのだ~! 怖いわねぇ! まだ怖さがわからない? (-_-)、そんじゃあただいま、大地の豊穣を奪い、無限に魔物を増やしてる最中だよ!(T_T)。今、天を海に変えて大地を水没させようとして失敗して、ちょっとだけ力を失っているのだ! 君たちの力じゃやっつけるのにまるきり役に立たないのだ! だからこの隙に”勇者召喚”しちゃってよ。彼らになんとかしてもらおーおー!(^o^)! 】
「ようするに
・魔王が現れた
・その魔王は龍種である
・現在、魔王は地力を奪い魔物を増殖中、放っておくと甚大な被害をもたらす
だから、勇者召喚せよ。
そういうことですね。それではこのことを王国とギルド総本部へ連絡、王国からは周辺国へ、ギルド総本部は各ギルド本部へと伝達していただきましょう! 」
「しかし…… 勇者召喚ですか…… 百年振りですかね? 」
「ああ、それくらいでしょうね…… 召喚に必要なマナは果たして集まるのでしょうか?」
「アプフェル王国にも協力要請しないといけませんね」
「ええ、世界樹の果実を供出していただきましょう。いくら付き合いが悪いと言っても、魔王の出現となるとその討伐に協力せざるを得ないでしょう」
こうして神殿から各所に連絡が飛んでいった……
話が広がりすギング ><
続きは来月~ ( ´Д`)ノ~バイバイ




