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我はツチノコ  作者: あいうわをん
断章 ツチノコのいないところで
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話がひろがリング… (^^;)



 とある時、とある場所にて。煤けた建物……もはや廃墟と言った趣のある家屋に、一人の男が入っていった。見た目初老に見えるのは髪が白いのと顔に刻まれた皺のせいか、それともその歩き方のせいか。男は辺りを見回しながら、何やら音のする方へと向かう。その音は人の喋る音だ。歩いている廊下の向こうではドアの隙間から光が漏れていた。男はドアを開ける。


「おっ! 爺さんキター! 」

「相変わらず貧相な顔してますねー! ま、駆け付け三杯! いいお酒あるよー! 」

「ん? 今日は二人だけかな? 」

「何言ってるの、爺さん入れて三人でしょ? もうボケが始まったの? あー、すでにぼけてたか! 」

「ほっほ、減らず口は相変わらずじゃのー、それで、何食べてるんじゃ? 」

「あー、これね。{エルフの耳}って言って、ブロードの端っこの所を油で揚げて、砂糖をまぶした物だって。基本人族のお店で売ってたので試しに買ってみたら案外いけるよ?」

「何で基本人族がエルフの耳、なんて名前にしたんだろうなー? 単に耳、だけでもよかったじゃん。ブロードの耳とかでさぁ。そういや、爺さん、エルフの里にちょっかいだしてたよね。あれどーなったー? 」




男は座って差し出された{エルフの耳}をつまんで食べる。ふむ、甘味が少々きついようじゃが、女子供には好まれる味かのぅ、そう考えた。


「ああ、ここに来る前にちょっと様子を見に行ってみたんじゃが、どうやら目論見は外れたらしい。その辺に意思のない竹林は残っとったが、あれじゃ駄目じゃな。ところでそっちのは酒か? できればそれをくれんかのぅ? この耳とやらはワシには甘すぎるわ」

「ほーい! このエール、すっごく濃いーの! それでいてのど越しすっきり! 私、樽で買ってきちゃったんだー! 」

「ほぅ、いつもみたいにこっそり忍び込んで盗んだんじゃないのかね? 」

「いやー、なんだか魔道具を使って普通のエールを濃くしてるみたい。さすがに魔道具盗んじゃうとね」

「へぇ、あんたらしくもないじゃない? そのお店、気に入ったの? 」

「そーなの。ホテルに入ってるレストランなんだけどね。料理はおいしいし、いろいろなデザートがでてきてもう入り浸り。おまけに銭湯なる施設があってね、今度一緒に行こうか? あんた、そう言えば、肌荒れしてるわよ? 目尻に小じわもできてるし? 」

「あー、なんだかちょっと前にマーメイドに付けていた魔力吸収の魔方陣、破られちゃったみたい…… もう一度くっつけに行ってこようかしら? 」

「止めといた方がいいじゃろな、魔方陣が破られたってことは、こちらの狙いがばれたということじゃて。やるなら新しく的を探した方がいいじゃろ…… 」



そう言うと、男は差し出された杯を手に持つと、一口チュチュッと吸い込んだ。



「相変わらず、せせこましい飲み方よねぇ…… そんな飲み方してもおいしくないでしょ? こう、ぐわっといきなさいよー!!」

「なに、毒がはいっとるかもしれんからな。用心するにしくはなし、じゃよ…… で、お前さん、相変わらず、基本人族に散蒔ばらまいとるのかね? 」

「それなんだけどさぁ、解毒されちゃったみたい。あの町、誰か高名な神官でも来てたっけ? 」

「さぁて、あの町がどの町かは知らんけども、お主の呪毒を解呪できるような奴は未だ神殿から出ていないようじゃな…… 無名で凄腕の神官なり解呪師なり現れたのかの? 」

「あら、爺さんあいかわらずねぇ」

「怖い奴は目印付けておかないと、近づいたらすぐに逃げるようにしとかないとな…… っと、他につまみになる奴は……」



二人いた女性のうちの一人、目尻に小じわができていると指摘した方が”収納箱アイテムボックス”と唱えると大皿が出てきた。中には緑色をした鞘がたくさん積んである。


「これ、エールと合うわよ。{枝豆}っていうんだってー! こうね、鞘の中の豆をこっち側に押して、ちゅるん!と出てきたところを食べるの! 」

「ほぅ、ボーネンの若豆を食するのか。人族も変わったことをするようになったな。どれどれ…… お! 単に煮ただけではないな? 塩味が付いている! これはいけるな」

「でしょでしょ? あとまだいろいろ変わった料理あったわよ? あんた達も来てみたら? 私しばらくあそこから離れない!」

「あんまり固まらないようにせんといかんからな…… 我ら魔人族が集まったら魔力が共鳴してさらなる魔を生み出してしまうからな。手に負えない魔物でも発生したら困るからの…… っと、また誰か来たな」



ばたばたと足音が聞こえてきた。そしてドアがバタンと乱暴に開けられる。


「おーーー坊や遅かったじゃない! 今夜はおいしい物たくさんあるよ! 」



入ってきた坊やと呼ばれた人物は、はぁーっと息を整えるとテーブルを囲んでいた三人のところに駆け込んだ。



「ま、駆け付け三杯! 飲んじゃってー! 」

「僕がお酒嫌いなの知ってるくせに! 飲まないよ、こんなもの! 」

「それじゃ、さっき出したあれ、飲ませてみたら? 」

「ああ、あれね? 爺さんも飲む? 」

「わしはこれで十分」



男は空になった杯を持ち上げ、もう一杯寄越せとばかりに傾けた。


「はい、爺さんにはこっち、坊やにはこれよ」



再び”収納箱アイテムボックス”と唱えた女から出された物は透明な杯に黄金色の液体、さらに透明な杯にこれまた透明な液体、どちらも泡だっていて杯の周りには薄く水滴が付着していた。


「これはお酒じゃないよね! じゃあ飲む!」



坊やは一気に透明な杯から透明な液体を呷る…… 当然、泡だったものも飲み干すこととなり


「……げふっ! なにこれ!」

「お酒じゃないわよ? 炭酸水っていうの…… 落ち着いた? 」

「逆にびっくりだよ! 」

「それでどうした? そんなに慌てて? 」

「あ! そうそう! 聞いてびっくりするなよ?」

「だからなんなのよ? 早く言いなさいよー」

「神殿に神託が降りたんだ! 僕が監視してから初めてだよ! 」

「そうか、神託も久しぶりじゃのぅ。で、その内容は? 」

「その内容は…… 」

「溜めるんじゃないわよ! 早く言いなさいよ!」

「その内容はーーー! 魔王が生まれた、だそうだ!」

「ほぅ…… 魔王とな? それは神託も降りるな…… 何百年振りかの。それで? 」

「それでって…… なに? 」

「いや、その先があるじゃろ? 神託の続きは? 」

「いや、これ聞いてすぐに飛び出てきたので…… 」

「神殿の対応は? どうするのさ? 」

「私たち、なんかする? 」

「いや、とりあえず、勇者召喚をするみたいだけど…… 」

「ほぅ、神殿は勇者召喚をするか。勇者で遊ぶのもまたいいかもしれんな」

「え? 魔王で遊ぶのもいいとか思ってたの? 」

「楽しそうじゃないか、ふぉふぉ。今代の魔王はどんなかのぅ? 久しぶりに人型じゃと仕えてみるのも面白いのじゃが、その辺聞いておらんか? 」 

「だから魔王が生まれたって聞いた時点で飛び出してきたから…… 」

「話は最後まで聞いておかんと駄目じゃぞ? 」

「だから坊やって言われるのよ? 」

「はい、罰としてエールを三杯飲んじゃってー!」

「だから飲まないって! 」




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