山岳のツチノコ
しばらく川筋を騎馬でかけていくボルドウィン小隊。しばらくすると路が二手に分かれていた。一方はそのまま川筋を行く道だが、もう一方は山際へと向かう道だ。少し先には坑道が見える。一行は迷わず行動の見える方向へ進路を変える。
「ここからは山道になる。フランメ、トレーネ、ボーデン。馬の調子はどうだ?」
「特に変わらないけど?」
「異状ありません!」
「同じく」
「そうか。ならこのまま速歩で行く!」
「いよいよ、アレを抜けたらあれだな!」
「あれあれ行っても伝わらないですわよ!」
「あれはあれだよ!」
「そうそう」
「前はここ、走って抜けましたねー! 楽ちんでいいですー!」
「バウちゃんは騎乗訓練て、いつやったんだ? 配属されてからすぐだったろ?」
「馬をー」
「ウマオウ」
「買ってもらってから―」
「メルゼブルグっていうところだな」
「地獄のような特訓を受けました。5日連続、襲歩6時間とか。時々休憩は入りましたが。あれに比べれば、今の速さなんてそよ風のようなものです!」
「襲歩で6時間……だと?」
「隊長、鬼ですね」
「すごいね、だから二人とも楽に馬に乗れてるんだ!」
「あー、スネークちゃんがこの子らを眷属にしてますから、私たちにもよく懐いてくれてるんですよ。あ、坑道を抜けますね」
光の孔が徐々に大きくなっていき、坑道を出る。そこには崖、崖また崖。崖に沿って。いくつも分かれ道があった。
「隊長さん、道は覚えているかい?」
「ふふふ。馬鹿にしてもらっては困るな。私が何を持っているか、忘れたのか?」
ボルドウィンは腰につけたポーチから一つの魔道具を取り出した。
「位置方位盤だ。まだここなら迷い惑わしの樹の影響を受けずに済む」
「あ、道なら私が覚えているので魔道具使わなくても大丈夫ですよ!」
「衛生ちゃんは賢いねぇ!」
「それならヴィンは私の隣に来てくれ。二縦列で進む!」
後ろの方で、隊長は皮肉られたのに気づかなかったのかな? という声は馬のひづめの音でかき消されて前へは届かなかった……
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
崖下の川沿いの道を通ったり、坑道を抜けて崖の中腹の道を上ったり下りたりして1時間ほどたっただろうか。先頭のボルドウィンが声をあげる!
「前方上空に感あり! シュッツ様に聞いた、鳥系の魔物と思われる! 高速飛行をして、翼で攻撃してくるそうだ! 」
「隊長さん、数と距離、到達時間は!」
「数は今のところ3、距離は500mくらい、相手に見つかったようだからすぐに来るぞ! 戦闘用意!」
「どのくらいの大きさかわかりませんが、こちらに向かってくるんなら私にお任せあれ! 方向はわかりますか!」
「前方まっすぐだ! 来るぞ!」
トレーネはポーチからパイツェを取り出すと、右手に持ったパイツェに魔力を込める。
「これで一網打尽にして差し上げますわ! オホホのホ! いって! ナインテール!」
トレーネは、ナインテールと呼んだ9本の鞭を、円錐状に広がっていった。それと同時に前方から高速移動してくるものがいた。
「広がれ! 空中投網!」
空中に浮いた9本の鞭から一本一本それぞれに水でできた紐が結び付き、なおかつその紐同士が水でできた糸でつながる。まさに水でできた網であった。その網の中に空中を飛んできた魔物が3匹、絡まった!
「トレーネ! 油断せずに引き寄せて剣で止めを!」
「りょーかい!」
網の中でじたばたしていた鳥の魔物に、トレーネは短剣で確実に止めを刺していった。
「解体は後だ! すぐしまってくれ! 次がいつ来るかもしれないからな! ヴィン、この魔物は何かわかるか?」
「うーん、初めて見る鳥ですね…… 一見したところシュヴァルベに見えますが、翼のところに貝殻をつけていますね…… これで狙った獲物を攻撃しているように見えます」
「焼き鳥にできないものですかね~?」
「見たところあまり身はなさそうですし…… ガルスガルスやハオスエンテの方が食べ応えがあると思いますよ?」
「たくさんいたら試してみますねー」
隊長、にやりと笑った。
「喜べ、バウアー。お客さんがたくさんお出ましだ! さっきのは尖兵だったようだな!」
「たくさんて、どのくらいですの? 私のは今のところ前方だけで手いっぱいです!」
「まずいな! 数が数えられないくらいたくさんいるぞ!」
「オレの武器じゃさっきのやつみたいなのは迎撃できねー!」
「僕のニードルガンなら少し数は減らせると思うけど、打ち漏らしが絶対ある!」
「わかりました。防御に私の蛟ちゃんを出します!」
「間に合わん!来る! 」
はるか~ 山岳を~ 一つかみの雲が~♪
あてもなく~ さまよい~ とんーでーゆく~♪
山がある~ 谷もある~ なにも~ 見えは しないー♪
け-れどー ツチノコ~ お前は~ 来たんだー♪
グラニーに つーづく~ この道を~♪
「こ、この魔法は!」
「オレら全部の周りに魔物がくっついたように動かねぇ! 今がチャンスだ!」
「エア・ウォールだな! 敵が止まっている間に、やるぞ!」
「焼き鳥のもと~!」
「止まってる的なら、僕の銃で十分!」
「焼き鳥にするんなら、私の投網の方がいいですわよ!」
こうして全員でエアウォールに捕まった鳥の魔物を殺していった。
「それにしても、目が覚めるのが遅かったな。スネークよ」
タイミングはばっちりだったようでなにより。
本日はこれまで。
お読みいただきありがとうございます。




