スネークのいない(いるけど)深夜の夜営
リーちゃん視点です。
僕は隊長の顔を見る。よくあるんだろうか、こういうことは?
「また気絶してしまったな…… 1日に2回も気絶するのは初めてだな」
「隊長、どうする?」
「そうだな、とりあえずベッドで寝かせるか」
隊長が師匠を抱きかかえると、石小屋の中に入っていった……僕も途中までついていったが、食事をしたテーブルのところでおいしそうな匂いがしていることに気づく。
「そういえば、ヴィンデルバンドから時々かき混ぜてって頼まれてたっけ……」
蓋の上に乗っている大きなスプーンを持ち上げて、蓋を取ると! いろいろな香辛料を混ぜ合わせた匂いが鼻の奥へと広がった。何、この料理!目がちかちかする! とりあえず混ぜなくっちゃ! 鍋にスプーンを突っ込むと…… おかしいよ! この鍋、スプーンがどこまでも入っていくよ?かき混ぜればいいの? かき混ざるの? 僕は全身を使って鍋が動かないように慎重にかき混ぜていく…… ぐーーーーー、ぎゅるるるるる! 匂いにつられたのか、お腹が鳴ってしまった。これはこんなもんか。あと4つも鍋があるよ? なんだか刺激的なにおいのする料理が入った鍋のふたを閉じてスプーンを置きます。次の鍋のふたをあけると、これはお粥っぽい! ああ、お腹空いてきたな……あ、いつの間にか隊長が戻って来てた。
「ふーん、これは蕎麦粥か…… うまそうだな。ボーデンは腹は空かないか?」
「うん、夕食食べてもう5時間ぐらい経つし……」
「それでは味見をしてみないか?」
「え? いいの?」
「腹が減っては戦ができぬ、というやつさ」
「わかった。でもその前に、全部かき回してくる」
「よし、あとどれをやってない?」
「左隣はやったけど、他はまだ。隊長、あの黄色いスープは何?」
「あれか。あれは”カレー”というやつだな」
「カレー…… 初めて聞く」
「なるほどな…… カレーに蕎麦粥、タウルスニクのワイン煮、シチュー、カクニを作ったんだな。さすがはヴィンだ。バランスがとれている」
「バランス」
「グラニーラムゼースミスの里は結構な食糧危機と聞いているが、どの程度かわからないのでな。いきなりニクを食わせても胃腸が受け付けないものがいるかもしれないので、蕎麦粥をつくったのだろう。食欲がなくなってもカレーなら食べられるだろうしな。反対に、そこまで危機ではなくって単に肉類が足りないだけだったら、タウルス・スーススクローファ・ハオスエンテで好き嫌いなく食べられるようにしたんだろうよ」
「あ、もう一つ小さい鍋がある……」
「ふむ、これはクレッテか、ジンセン…… メルゼブルグではジンセンを糖で煮ていたな……そちらか」
「なぜ、ジンセンを糖で煮るんだろう? 糖がもったいないと思うけど?」
「ボーデンはジンセンを食べたことはあるか?」
「そりゃ、うちの里は根菜類が特産だから…… ジンセンも子供の頃によく食べさせられていたよ…… 苦くって泥臭くって…… 子供はみんなジンセン嫌いだよ」
「そうか…… ボーデンのところは土のマルスプミラ様が中心だったな。これは滋養強壮に効くらしい。スネークは、メルゼブルグであれを糖で煮込んで、お菓子みたいにして病み上がりの子供達に食べさせていたよ」
「師匠……すごい………誰もそんなことを思いつかない」
「味見してみるか…… ふむ、最初に甘みが舌に広がるが、根を噛むと苦いものがじわっと広がるな…… だがそれを甘みでやわらかくつつみこんでしまう。これならたくさん、とは言わないまでも想像以上に食べてしまいそうだな。ボーデンもどうだ?」
「それじゃあ、一口だけ……甘ッ!……苦---!けど甘い…… これはすごい! 実家に帰ったら作らせなきゃ! 」
「よかったな!土産話ができて。さて、もうかき混ぜは済んだかな? 私は麦粥をもらうとするか」
「それじゃ、僕はカレーにする。あと隊長、ロッゲンブロート持ってる?」
「ああ、そういえば、3人には配ってなかったか。ヴァイツェンブロートもあるからどっちでもいいぞ?」
「それじゃせっかくだからヴァイツェンで」
夜食を食べ終えた僕らは、お茶を飲んでからまた模擬戦をするのであった……
本日はこれにて。
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