フランクフォートの馬喰
宿を出て小一時間歩いたところにそれ、”エクウス馬喰商会”
はあった。馬喰というのは馬の売買を専門に扱う商売のことを言うらしい。馬の看板が掛けられています。この世界の文字が読めなくても、馬関係のお店だとすぐわかります。メルゼブルグで初めてこの看板を見たときは、馬刺し屋さんかな?と思ったのは秘密です。
「御免! 店のものはいるか?」
ボルちゃんが店の入り口で声をかける。他の人たちは店と店の間の通路から馬をつなぐ場所に馬を連れて行った。我、ボルちゃんの頭にパイルダーオン! 店に入る前は、いつもの掛け声
”たのもーーーーー!”
奥から、ハイタダイマーという声が聞こえたと思ったら、パタパタパタと足音が大きくなって、デン! 本人登場です! 小僧さんが出てきましたよ。駆け出しの丁稚さんでしょうかねぇ? こっちでは珍しい黒髪ですな。
「ここはエクウス馬喰商会で間違いないか?」
「はい、こちらエクウス馬喰商会です! ご用件の方お伺いします!」
「メルゼブルグのここの系列店で世話になってな。フランクフォートにも店があると聞いたので、この店で一番いい馬を買いに来た。私はボルドウィンという」
「お求めになられるのは、騎馬用ですか? それとも馬車用?」
「何か違いがあるのか?」
「騎馬用ですと速度が重視されますし、馬車用でしたら力強さが求められますよ」
「そうか…… 騎馬用のを3頭頼みたい。それと、メルゼブルグの馬喰のエクウス・カバルス殿からこちらの店主殿に手紙を頼まれていた。渡してくれ」
い、いつの間にそんなものをあの馬面店主から渡されていたのか?
「承知いたしましたー!しばらくおまちください!」
小僧さん、手紙を受け取ると一礼し、元気よく店の奥にすっこんでいった。ボルちゃん、店内をぐるっと見回します。それにつられて我もぐるり。店の構造はメルゼブルグのと変わらんね。
「ま、仕様を同じにする利点があるのだろう……」
店内をぐるぐると見て回った。ここにも馬だけでなく鞍や鐙、轡が並べてありますな…… ん? これはなんだ? 馬のマスク? 顔を隠してプロレスを行うのか? ウマだ! ウマだ! お前はウマになるのだ! 行け!行け!ウマー!ウマーマスクー♪ぱからっぱからっぱからっぱからっ! 効果音を脳内で流していたら、パタパタパタと足音が聞こえた。さっきの小僧さんですな。
「お待たせいたしました。会頭は手紙を読んでからお伺いしますとのことです。厩舎までご案内します!」
「そうさせてもらおう」
小僧さんを先に行かせ、ボルちゃんあとをついていきます。
「君は馬に詳しいのか?」
歩きながらボルちゃん質問をしました。
「いや、私は勤めだして4か月目でして、馬に詳しい人が厩舎にいますので、そちらの方にお聞きしてください…… あちらになります。カコーさん、お客様です。騎馬用のを3頭お求めだそうです」
「一番いい馬を頼む!」
厩舎でお馬さんの世話をしていた老人、カコーさん? また黒髪か。変な感じだな。前の世界では普通だったが、こっちは金髪が当たり前だから慣れちゃったのかな?
”東方出身の基本人族かもしれないな”
カコーさん、こっちに気が付くと、手を挙げた。
「あ~、お客さんかえ~? ちょっと待っててくんろ~? こいつの世話で最後だから~!」
と言って再び馬をブラッシング。
「あの人、会頭さんより馬に詳しいので何でも聞いてください!」
なぜか自慢げに胸を張る小僧さんであった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
ウマのお世話を終えたカコーさん、いい顔をしていた。
「馬っちゅーもんは愛情をかければかけるほどそれにこたえてくれるもんですよ。見てくだせぃ! この馬の毛並み! 肉付き! そして顔つき! みんな儂の可愛い子供達ですじゃー!」
なるほど。
「お客さん方は騎乗馬を欲しとるそうじゃが、あなたが乗るのですかな? 」
「いや、私とあと二人はメルゼブルグのエクウス商会で購入させていただいた。店主の勧めで買ったがよい馬だった。こちらでもあと3頭必要になったからな」
「へぇさよですか。あっちの店主お元気でしたか? カバルスさんといったっけ?」
「ああ、元気そうだったな」
「どんな馬を購入されたんですかい?」
「汗血馬というやつだが、カコー殿はご存じか?」
「汗血馬を買われたか! そりゃすごい! 見せてもらってもいいですかな?」
「ああ、だが、我らも急いでいるので手短にな!」
ボルちゃんとカコーさん、あと小僧さんが馬を止めたところに行こうとしたら、あっちからも人がやってきた。
「あ、隊長さん、どこ行ってたんだ? あちこち探したぜ!」
「こちらの店で一番馬に詳しい人に馬を買う相談をしたら、我らが乗ってきた馬を見せてくれと頼まれたのでな。こちらはカコー殿、そして……名前をうかがってなかったな少年?」
「あ、僕はボツといいます。カコーさんに憧れてこの商会に就職しました」
ボツ……君?
「ワシなんかに憧れんでも、会頭さんを見習えばええがなぁ…… ささ、はよ」
促されるまま、こちらにやってきた5人のエルフは我らに合流して馬の止めてある場所へ向かったのであっ
た。これぞ無駄足。
本日は一話のみです。
お読みいただきありがとうございます。




