もう来ねぇよ、またな!
ババアのめんどくさい依頼を終わらせて食堂に戻ると一般客は全員出ていって、残っていたのは従業員とお手伝いエルフたちでした。お手伝いエルフたちは賄い?を食っとりますな。あれは我が昨日準備しておいた薄切りスクローファとタウルスオニクです。食ってるのはエルフ4人。まあ、客なんだから食ってていいよね。でも、朝からそんなニク食って大丈夫なのか?
「ダイジョブダイジョブー!」
「なんだこれ、めちゃくちゃうまいし食いやすい! 味付けも小皿ごとにたくさん分かれてていっぱい食べれるな!」
「こんなお肉の薄切りしたのって誰がやったんですか? あ、スネーク君しかいないか!」
「ふぉがふぉが…… んんん…… ふぃふぉー、ふぼふぃー!」
喋らんでいいからゆっくり噛んで食え!あと野菜もちゃんと食え!
「それではヴィン、我らもいただくとするか!」
「はい! 朝飯前に仕事したのでお腹すきましたね! 」
「ハイ! 隊長さんとハンナちゃんに今日の朝食です! 」
メルちゃんが持ってきたのは朝から冷しゃぶのサラダと、ローゲンブロートにチーズをのせて軽く炙ったものだった。あとは野菜スープ? 味はどうよ?
「ん? この赤くて酸っぱいのはプフラオメの実か? 油っぽさを爽やかだが癖になる酸味が中和してるな!」
「昨日スネークちゃんが作ってたプフラオメの塩漬けを取り出して実だけを取り出しナイフで細かく刻んだものですよ。お客さんに好評でした、たぶん、ナーギーのかば焼きにも合うと思いますよ」
あれ? 梅とウナギって食い合わせが悪いんじゃなかったっけ?
「そんなことはありません。むしろナーギーの脂を中和してくれる、良い食材だと思います!ナーギーを売りにするのなら、このプフラオメも一緒にすればいいですよ」
「ありがとうございます!スネーク君には何から何までお世話になったのに、うちのバカな父親がご迷惑をおかけしました!」
あー、もうええて。馬鹿なおやじのために娘が頭を下げる必要もないだろさ。ボルちゃんよ、桃くれ。
「しかし、スネークは桃だけでいいのか? いつぞや私に言ったが、そんなに小食で大丈夫なのか?」
ポーチから3つ桃を取り出して我の前に置くボルちゃん。我、一つ一つをかみしめるようにゆっくり食べます。しかし本当に腹減らんのな!
「スネーク君はどこかに魔力を大量に貯蔵してるのかもしれないわね~。あらやだ、このタレ、おいしいわね? 」
「お母さん、それは昨日スネーク君から教わったタレだよ。ナーギーのかば焼きにもついてたでしょう?」
「昨日のナーギーの味はなんだか香ばしかったけど、これは薬味を混ぜてるわよね?マヒの実じゃない何か…… 香辛料ね?」
「ちょっとだけマスタードを混ぜてみたんだって。スーススクローファのオニクに合うよね?」
ま、あとはトマトソースもつければもっといいかな? あとはコールの葉を千切りにして、大根……レティッヒをすりおろして付け合わせれば胃の弱い方でも食べられるでしょう。って思ってたらちゃんと用意されてたよ。大根おろしとキャベツの千切り。
「あー、オニクばかりじゃ店長さんに悪いと思って、お父さんがたくさん作ってくれました」
よく見りゃ隣のテーブルで実ババアもうまそうに朝飯食ってたわ。誰かあのお婆さんに消化にいい大根おろしと梅干しの刻んだやつを差し上げてー!
「それでは、私が」
こういう時のハンナちゃんは迅速ですね。
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全員飯を食い終わり、本日の予定をボルちゃんが話します。
「ここを出たらまず馬屋で3人の馬を購入する。宿の主人の情報によると馬屋のそばに武器屋があるからそこで3人に見合った武器を手に入れたら、一旦ギルドへ寄って必要物資を確認した後、その他を購入して街を出る。何か意見のあるものは? 」
辺りを見回すと、手を上げてる人が3人いますな。
「あの~、馬屋と武器屋に行くって言われましたけど、我々の分を買ってくれるんですか?」
「隊長さんよ~、そんなお金に余裕があんのかよ~? 」
「…… 予算はいくらまで?…… 」
「馬に関しては、今我らが乗っている馬くらいのがいればいいが……一応最高級のものを頼むつもりだ。君たちも馬は乗れたよな? 武器に関しては君らの希望とその店にあるもので折り合いをつけるさ。予算は……見てからだな」
「たいちょー!」
「なにかな、バウアー?」
「食料品は買わないのですかー?」
「昨日市場を見て回ったが、やはり天候不順の影響で値段が高くなっているそうだ…… 我らエルフ族が買い占めをしてるとなると、基本人族から恨みを買いかねん。よって食品は、よほど足りないと言われなければ購入はしない。ヴィンはなにかあるか?」
「いえ、何もありません」
「それでは、ご主人、奥方、メルジーナ殿、あとはポーション屋の偽装店主殿、お世話になりました」
こっちが大概世話したけどな!
「なんでもエルフの里ではびこっている魔物の討伐とか。見事宿願を果たされた暁にはわが宿”恋するマーメイド”で祝勝会を開いていただきたいです」
開かねーよ! もう来ねーよ!
「ハハハ、ご主人はすっかりスネークから嫌われてしまいましたな」
「スネーク君は私のこと好きだもんねー!」
誰がババアを好きなもんか! くそ親父と一緒に死ね!
「スネークは奥方の願いを叶えて満足しているそうだ」
どこでそんな都合の良い翻訳になるのだ?
「ごめんねスネーク君。でもいろいろ教えてくれてありがとね。あと、お母さんからアミュレットもらったよ。作ってくれたのスネーク君なんだ。肌身離さず持っておくよ」
近々悪さする奴が現れるからな! 風呂に入るときもつけときなさいよ! スネーク君とのお約束だぞ!
「ふん! はよ居ね!」
くそババア!梅干しをこめかみに張り付けとけや! この頭痛持ちが!
「ポーション屋のおばあさん、スネークちゃんが頭の痛いときはプフラオメの塩漬けをこめかみに張ると少し痛くなくなるそうですよ」
「…… ふん! いらんお世話じゃ…… ありがとよ……」
このツンデレ婆が! 何だよ、その最後のセリフは? お、そうそう、エマさん、梅の乾燥したやつは回収したか?
「はいーーーーー! きちんと出来上がってましたー!! 試しに朝食前に食べてみたらもうよだれがでるわでるわ!」
「それではみな、出発するぞ!」
からららん♪
この玄関鈴の音、もう聞くことはないだろう! 空は一面の青空だった。今日はまた暑くなりそうだ。
今宵はこれにて。
お読みいただきありがとうございました。




