そろそろ客が来る頃だと思うのだが
飲み物を持たせたメルちゃんが帰ってきた。反応はどうでしたか?
「二人ともおいしいと言って飲んでましたよ」
そうか、それはよかった。ところで日も傾いてきたのだが、お客さんがそろそろ来てもいいのではないかな?
「そうですね…… 最近は雨ばかりでお客さんの入りも少ないのですが…… まあ二組もいれば十分ですから」
ババア達はお客に入らんのな。そりゃそうか、身内だからな。リアルババアはちがうけど。
「今日のお昼にナーギーのかば焼きの実演販売をしたので、多少は客が入ると思っていたのですが、さすがにそんなには甘くはなかったようですね」
そうだね、まあたった1回でかば焼きが認知されるとは思ってないし。あ、そろそろ2回目の下茹でかな? 蓋を取りましてもう一度加熱します。さて、ちょっと外の様子を見てきましょうね。 ハンナちゃんは30分経ったら火を止めてまた蒸らしをしてください。飲み物も持っていくか。
からららん♪
マギハンドでドアを開け外に出ると…… 何やら人だかりができています! なにこれ? と思ったら、どうも剣の稽古をしているエルフさんたちが物珍しかったようです。
「そらそらっ! どうした? しばらく会わないうちに腕が鈍ったのではないか? 」
相変わらずのボルちゃん無双、強えぇ。
「お、俺たちが鈍ったんじゃなくってアンタの腕があがってるんだよ! そんくらい自分で気づけ! 」
「そ、そうですよ! 以前に比べて遥かに圧が増しています!」
「一体……何があった?」
ボルちゃんや、いったん休憩じゃ。飲み物持ってきたぞ!
「おおそうか、すまんなスネーク。皆も一時休憩だ。スネークよ、彼女らに光魔法を頼む」
光魔法な。怪我とかはしてなさそうだし、疲労回復でいいか、光魔法Lv.1疲れの癒し。我、蛍のように光ります!
「こっ、これは……? 」
「もしかして、あの伝説の? 」
「…… 光魔法……? 」
「スネークは伝説の賢者が出会ったというマルス・プミラ様から光魔法を継承したのだ。これだけでも我らの勝利は約束されている」
「え? これだけじゃないの? 」
「スネークはツチノコという魔物らしい。土魔法が得意だ。さらに各種属性魔法が使える。水魔法は制約があるためあまり使えなくなってしまったが、それでも戦いには十分な戦力になるだろう」
「スネーク……様…… 私に土魔法を見せて…… ください……」
まあまずは飲み物を飲め! いったん落ち着け!
「一旦落ち着いてほしいそうだ。スネークよ、これはさっきのとは違うな」
味付けは一緒だけどな。ハチミツレモン炭酸水じゃ!
「なんかシュワシュワしてるな。これ、飲んでも大丈夫なのか? 」
「……あ。意外といけますよ! なんだか爽やかな舌触り」
「……ぐびっぐびっぐびっぐびっぐびっぐびっ……ゲッェェェェェェェェプー! 」
「ちょっとリーちゃん。はしたないでしょ!」
「……ん。一気に飲みすぎた…… すまない。でもおいしかった…… 」
「ああ、確かにスカッと爽やかだな! それにしても、今気が付いたんだが、どうしてこんなに人がいるんだ? 」
宿の客になりたいのかな? ボルちゃん、ちょっと聞いてくれる?
「ここにいる方々は、宿に泊まりに来たのか? 迷惑をかけた。訓練なら別の場所でやるので中に入ってほしい」
見物客?の一人がボルちゃんに話しかける。
「いや…… 俺は宿の客になりに来たわけじゃねーんだが…… ここって昼間にうまい料理を串焼きで出していたところだっで聞いて様子を見に来たんだ」
「あぁ、ナーギーのかば焼きの客だったか。店のご主人の話だとナーギーは昼間ので全部売り切れたそうだ。今漁に出ているのだが今日獲れるかどうかはわからないと言っていたぞ」
「いつ頃わかるんだ?」
「さぁ? 私もここの客なのでな。取れたら晩飯にかば焼きが出るそうだ。私は楽しみにしているのだが」
「今日泊まったら、そのかば焼きとやらが食べられるのか? 」
別の男がボルちゃんに話しかける。
「ナーギーが獲れなかったら無理だろうな」
「賭けみたいなものか」
「しかし、ナーギーのかば焼きに使う調味料がバカ高いから別料金を払わないといけないと言っていた」
「宿代とは別にか?」
「宿に泊まっても酒を飲んだら別料金だろう? それと同じだ」
「なるほど。よし! 俺は今日ここに泊まる! そしてナーギーが獲れるのを楽しみに待つ! 」
「ナーギーが獲れなくても今日はおそらくうまい料理がたくさん食べられるぞ!」
「なんでそんなことがわかるんだ? 」
「今日だけ料理長が違うからさ」
「そうか。よし、俺たちも今日はここに泊まろうぜ! 」
「私たちも泊まるわ!」
「わしらもここで泊まることにするかい」
我も我もと目の前の「恋するマーメイド」の中に入っていった…… メルちゃんは天手古舞ですな!




