2nd Season - 4
最後のプレゼントを配り終え、カイトは少しだけ一息ついた。
「よし、これで終わり!」
しかし、カイトは休むこともなく、すぐにまた移動を再開した。
「リナはどこだろ?」
リナ達の進捗が気になり、カイトはリナ達が移動しているだろう経路を推理しながら、ソリを高速で飛ばした。
「時間は……」
ふと、カイトは時計に目をやった。そして、残り時間は約1時間程度だと確認した。
「あ、いた!」
思ったよりも早く、カイトはリナと幸介を見つけた。そして、今どんな状況なのか理解した。
「たく、何やってんだよ?」
遠くから様子を見たところで、まだプレゼントがたくさん残っていて、とても間に合いそうにないことに気付き、カイトは呆れてしまった。
その時、目的の家に着き、リナと幸介が家に入っていった。そして、カイトはリナが怪我をしていることに気付いた。
「ホント、しょうがないな……」
カイトはリナのソリに急接近すると、プレゼントをほとんど自分のソリに移した。そして、すぐにその場を後にしようとした。
「あ、盗まれたって、勘違いするか」
そんな心配があり、念のためカイトはバッジの力で出した手紙を残して、すぐにその場を離れた。
リナと幸介はプレゼントを置くと、ゆっくりソリに戻った。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。急がないと間に合わないもんね」
リナはそう言いながらも、このままでは間に合わないと感じていた。それでも、できる限りはやろうと思っていた。
「あれ?」
その時、幸介が1枚の手紙を拾った。
「何それ?」
リナは幸介から手紙を受け取り、目を通したところで、思わず笑ってしまった。
そこには、『私が手伝おう! by.エリートサンタクロース』と書かれていた。
「プレゼントが3つしかないよ!」
「カイトが手伝ってくれるみたいだよ」
リナはカイトがやったことだと、すぐに気付いた。
「よし、残り3つだから頑張ろうか」
リナはそう言うと、またソリを移動させた。
移動しながら、カイトは頭を働かせていた。
「これで俺が間に合わなかったら、格好悪いな」
残り時間を考えれば、カイトでもプレゼントを配り終えるのは無理な気がしていた。
「ま、なるようになるか」
しかし、考えてもわからないと判断すると、カイトは考えるのをやめた。カイトは、そういう性格だ。
「何言ってんの? 間に合わなかったら大変だよ」
「まあ、そうだけど……」
思わず返事をしてしまった後、カイトは慌てて振り返った。
「先輩!?」
「私も手伝うよ」
「でも……」
「カイトのためでもリナのためでもなく、子供達のためだからね」
レイアの言葉に、カイトは断る理由が見つからなかった。
「それじゃあ、お願いします」
「何とか配り終えるんだよ」
「はい、わかりました」
レイアのソリにいくつかプレゼントを移すと、2人は大急ぎでソリを飛ばした。
リナと幸介は2つのプレゼントを配り終えた。
そして、残るプレゼントはあと1つだけだった。
既に朝を間近に控え、いつ子供が起きてもおかしくない時間を迎えている。しかし、リナに焦りはなかった。
「もしかしたら起きちゃうかもしれないけど、最後のプレゼントを渡そうか」
リナがそう言ったが、幸介は動こうとしなかった。
「幸介君?」
「1人で行かせてくれないかな?」
幸介の言葉にリナは驚いてしまった。
「大丈夫なの?」
「お姉ちゃんに教わった通りにするから」
幸介の真っ直ぐな目を見て、リナは幸介に任せようと決めた。
「わかった。お願いね」
そして、リナは最後のプレゼントを幸介に渡した。
今夜、リナと一緒にプレゼントを配って回ったが、やはり1人でプレゼントを置きにいくとなると、幸介は緊張してしまった。
「ほら、深呼吸して。きっと大丈夫だから」
リナの言葉に幸介は頷くと、そっと部屋の中に入った。
ベッドまでの距離は何歩か歩けば着く程度の距離だが、幸介は長く感じた。それから一歩一歩、慎重に足を進め、幸介は枕元に近付いた。
そして、幸介は枕元にそっとプレゼントを置いた。その時、幸介は眠っている少年の寝顔を少しだけ見た。
それから幸介はまたゆっくりとその場を離れ、リナが待つソリに戻った。
「幸介君、すごいよ!」
「お姉ちゃんが教えてくれたからだよ」
その時、中で寝ていた少年が動いたため、リナはソリを移動させ、少しだけ距離を取った。
「丁度良かったね。これが……私がサンタクロースとしてプレゼントを配る理由だよ」
リナはそう言うと、さっきの少年を指差した。
少年は目を覚ますと、枕元に置いてあるプレゼントに気付いた。
「あ、サンタさん来てくれたんだ!」
少年は嬉しそうに声をあげ、すぐにプレゼントを開けた。プレゼントの中身は、その少年が前から欲しがっていたラジコンカーだ。それを確認すると、少年はさらに嬉しそうに笑った。
「幸介君がプレゼントを渡したから、あの笑顔になったんだよ」
リナはゆっくりとそう言った。
「サンタクロースとして、プレゼントを配る理由は、あの笑顔を見たいからだよ」
幸介も少年の嬉しそうな顔をじっと見た。
「あの笑顔は、1人で頑張った幸介君にも向けられてるんだよ。わかる?」
「うん、わかる……」
幸介は小さな声で呟いた。
「私は、この笑顔がサンタクロースへのクリスマスプレゼントだと思ってるよ」
リナは笑顔で、そう言った。
「どう、このクリスマスプレゼントは? 気に入ってくれた?」
リナから質問を受け、幸介は笑った。
今まで経験したことのない、初めてのことばかりで、なかなか上手くいかないこともあった。それでも、少年の笑顔を見て、幸介は達成感のようなものを覚えていた。
「お姉ちゃん、プレゼントをありがとう」
幸介の言葉に、リナは嬉しそうに笑った。
「それと、幸介君はサンタクロースとして、プレゼントを配って、あの子を幸せにした。そんなすごいことができるんだから、これからはすぐにできないなんて言わないこと。わかった?」
「うん、わかった!」
幸介は元気な返事をした。
そして、2人はまた少年の家に目をやった。その時、騒いでいる少年に気付き、母親が少年の部屋にやってきた。
「どうしたの?」
「ママ、サンタさんが来てくれたよ!」
「ホント? 良かったわね」
その様子を幸介は複雑な気持ちで見ていた。
「……まだ、最後のプレゼントが残ってたね」
「え?」
「今、幸介君の欲しいものが何なのか、ようやくわかったよ」
リナは幸介の額に手を当てた。
「今夜は色々と手伝ってくれたから、とっても素敵なプレゼントをあげるよ」
その時、幸介は急に眠くなり、寝てしまった。
「ママ、どこかに行っちゃうの?」
「幸介、必ず迎えに来るから、待ってて」
「うん、わかった」
幸介は児童養護施設で、いつものように目を覚ました。
「……夢?」
いつもと変わらない景色を見て、幸介はさっきまでのことが現実だったのか、夢だったのか、わからなくなってしまった。
「あ、プレゼントだ!」
その時、そんな声が聞こえ、幸介は辺りを見回した。そして、みんなの枕元にプレゼントが置かれていることに気付いた。
しかし、幸介の枕元には何もなかった。
「幸介君、プレゼントもらえなかったの?」
近くにいた少年にそう聞かれたが、幸介は笑顔を見せた。
「ううん、僕はもっとすごいプレゼントをもらったから良いんだ!」
「え、何?」
「教えない。秘密だよ」
サンタクロースとしてプレゼントを配ることができたこと。それが、幸介にとっては十分すぎるほど素敵なプレゼントだった。もしかしたら、夢だったかもしれないという気持ちもあったが、その思いに変わりはなかった。
「みんな、起きたんだね。おはよう」
朝から手伝いに来ていた由梨と、幸介は真っ先に目が合った。
「幸介君、ちょっと来て」
「え?」
「良いから、来て」
由梨にそう言われ、幸介は由梨についていった。
「何かあるの?」
「サンタさんからの、クリスマスプレゼントかもしれないね」
その時、幸介は出口に誰かがいることに気付いた。
「幸介!」
その声を聞き、幸介は驚いてしまった。
「ママ!?」
「幸介、ごめんね。なかなか迎えに来れなくて」
母親は幸介を強く抱き締めた。
幸介が1番欲しかったもの。それは母親との生活だった。
父親が亡くなり、幸介は母親と2人で暮らしていた。
しかし、母親の仕事も上手くいかず、幸介は結局、母親とも離れ離れで暮らすことになってしまった。
母親は幸介と一緒にいたいと思っていたが、幸介のことを思い、一緒には暮らせないと考えていたのだ。
しかし、昨夜、母親は幸介と一緒に暮らしていた時の夢を見て、それが間違いだということに気付いた。
そして、夜が明けると、こうしてすぐに幸介の迎えにやってきたのだ。
「幸介、今日からまたママと一緒に暮らしましょ」
「うん!」
幸介は嬉しそうに返事をした。
幸介と母親の様子を、リナとカイトはそっと見守っていた。
「良い笑顔だね」
「うん、そうだね」
「でも、あんなことして、問題になるよ?」
リナはバッジの力を使い、幸介の母親に夢を見せたのだ。それは、本来サンタクロースがするべきことじゃない。
「帰ったら、反省文書かないといけないんだよね?」
「俺が書き方教えてやるよ」
「良いよ。自分で考えるから」
リナはそう言いながら、幸介の顔をもう1度見た。
「サンタクロースになって良かった」
「……何で?」
カイトはその答えを知っている様子だったが、リナは答えることにした。
「あの笑顔が見れるから。それにみんなが幸せになれば、私も幸せだから」
リナの言葉に、カイトは笑った。
「それじゃあ、そろそろ戻らないとね」
「反省文、書くの嫌だなー。右腕動かないし」
「ソリから落ちるなんてバカだなー」
「カイトに言われたくない! カイトだって去年……」
リナとカイトはそんなことを言いながら、帰ることにした。
「サンタのお姉ちゃん、ありがとう!」
その時、幸介の大きな声が聞こえ、リナは振り返った。
「きっと、リナからのプレゼントだって気付いたんだよ」
「そうみたいだね……」
リナはただただ嬉しくて、自然と笑顔になった。
この日、空からは静かに雪が降っていた。




