2nd Season - 3
リナの分を半分移した結果、カイトが運ばなければならないプレゼントの量は、とても多くなってしまった。それを見て、カイトとリナは思わず苦笑した。
「カイト、大丈夫? こんなに重いものを運んだことないでしょ?」
「えっと……まあ、大丈夫だよ。軽いのを中心に足しただけだし、俺はリナよりも配るの早いんだから」
「ごめんね」
「リナらしいよね」
そう言いながら、カイトは笑顔を見せた。
「ホント、子供好きなんだから」
「ごめんなさい」
「それにあの子……」
「カイト! リナ!」
レイアの声が聞こえ、2人は振り返った。
「リナ、戻ってたんだね」
「あ、はい」
「もうすぐ出発だよ。2人ともしっかりやりな」
レイアはそれだけ言うと、すぐに行ってしまった。
「そろそろ幸介君を乗せてもいいかな?」
「そうだね。でも、袋に入れておくなりして、見つからないようにしなよ」
「うん、わかった。それじゃあ、行くね。多分、出発までに会う時間はもうないね」
「気を付けろよ」
「カイトもね」
リナはそう言うと、ソリを飛ばした。そして、リナの姿が見えなくなった後、カイトは改めてソリに乗せた大量のプレゼントに目をやった。
「さてと、大丈夫かな?」
カイトは試しに少しだけ飛んでみたが、バランスが取れず、すぐにソリを下ろしてしまった。
「どうしよう……」
リナのために無理をしようとしたが、まだ未熟なカイトには、このプレゼントの量は無謀だった。
「まあ、何とかしよう。プレゼントをいくつか置いていって、途中で戻ってくれば……」
「カイト?」
「え?」
ソリに乗ってやってきたレイアを見て、カイトはリナがいなくなった理由をどう説明しようか考えた。そして、適当な言い訳を思い付いた。
「リナは、忘れ物したとかで……」
「もう良いよ。全部知ってる」
「え?」
意外なことを言われ、カイトは驚いた。
「リナの分のプレゼント、私も運ぶよ」
「でも……」
「早くしないと間に合わないよ。さっさと渡しなって」
レイアの言葉に甘え、カイトはある程度バランスが取れるぐらいまでプレゼントを減らした。
「すいません」
「カイトは謝らなくて良いの。リナのためにえらいことしてるんだから」
てっきり怒られると思っていたため、レイアの言葉に、カイトは安心した。
「あ、私が手伝ったってこと、リナには言わないで」
「何でですか?」
「私は厳しい先輩でいたいんだよ」
「え?」
意外な言葉に、カイトは思わず笑ってしまった。
「わかった?」
「はい、わかりました」
「それじゃあ、すぐ出発だからね。頑張りなさいよ」
「はい、大丈夫です」
レイアを安心させようと、カイトはしっかり返事をした。
リナは幸介が隠れている場所まで戻ると、ソリを下ろした。
「幸介君?」
リナが声をかけると、幸介は安心した様子で出てきた。
「大丈夫だった?」
「さっき、おじいさんが来たけど、大丈夫だったよ」
「おじいさん?」
おじいさんという言葉から連想できる人物と言えば、長だ。そのため、リナは少しだけ不安になってしまった。
「あと……ごめんなさい」
「え、何のこと?」
「サンタなんて、いないって……お姉ちゃんにも嘘つきだなんて言っちゃって……」
「そんなことは良いの。それより、一緒にプレゼントを配るの頑張ろうね」
「うん」
幸介の笑顔を見て、リナは幸介を連れてきて良かったと感じていた。今、この瞬間さえも幸介にとっては、大切な思い出になると感じているからだ。
ただ、幸介を連れてきた理由はそれだけではない。サンタクロースとしてプレゼントを配ることにより、あることを知ってほしいと思っていた。
その時、大きなベルのような音が響き渡った。
「出発の時間だよ」
リナは幸介の手を握ると、ソリに乗せた。
「行こうか」
「うん」
すると、リナはソリを宙に浮かばせた。
「僕、隠れてなくて良いの?」
「景色を見たいでしょ? 誰かに見つかっちゃったら見つかったで、何とかするから」
ふと、少しだけカイトのような適当な考えを持ち始めていることに気付き、リナは少しだけ嬉しそうに笑った。
サンタクロースは眠った子から順番にプレゼントを配って回る。つまり、早く眠った子からプレゼントをもらえるのだ。
反対に遅くまで起きているどころか、眠らない子のところにサンタクロースが来ることはない。
「まずは、あそこの家だよ」
リナは家を指差しながら、説明した。
「どうやって中に入るの? あそこ、煙突もないけど?」
「煙突から入るのは、昔の話だよ。昔は煙突のある家が多かったし、煙突から入るのが簡単だったから、そうしていただけだよ」
リナは目的の部屋に近付くと、窓の横にソリを待機させた。
「それじゃあ、私が見本を見せるからね」
リナは袋からプレゼントを取り出すと、窓をすり抜けて部屋の中に入った。そして、子供の寝顔を少しだけ見た後、枕元にプレゼントを置いた。
そして、ソリの方に戻ってくると、幸介は驚いた表情になっていた。
「すごい!」
「私が手伝うから、次は幸介君も一緒にやろうね」
「うん!」
幸介の元気な返事を聞き、リナは笑った。
「サンタクロースになった理由……」
リナは話そうか少しだけ迷ったが、話すことにした。
「私、親とか先輩とか色んな人に言われて、しょうがなくって理由でサンタクロースになったの」
真剣に話を聞く幸介の目を見ながら、リナは話を続けた。
「本当は自信とか全然ないし、サンタクロースになりたくなかったんだよね。でも、さっきいたカイトに励まされて、サンタクロースとしてプレゼントを配って、大切なことに気付いたの」
「何なの?」
「それは、最後に教えてあげる」
「教えてよ」
「ダーメ」
リナは少し意地悪な顔で、そんな風に返した。
この時、リナは初めてプレゼントを配った時のことを思い出していた。
それは、カイトに励まされ、プレゼントを配りに出発した直後のことだ。
「えっと、どこ?」
リナは迷いながら、最初の目的地を目指していた。
「あ、あれだ!」
リナは目的の家を見つけると、すぐ近くにソリを待機させた。
「これが初めての仕事……」
深呼吸をした後、リナは窓をすり抜け、部屋に入った。しかし、そこでプレゼントを持ってきていないことに気付いた。
「あ、プレゼント……」
リナは慌ててソリに戻ると、プレゼントを探した。その時、急に風が吹き、ソリが家の壁にぶつかってしまった。
「大変!」
リナは慌てて、その場を離れた。
少しした後、中にいた少年が窓を開けて外の確認を始めた。
「どうしよう……」
リナはこういった場合、どうすればいいか、学校で習ったことを思い出した。
「そうだ。別の場所に行って、また後で来ればいいんだ」
そのことを思い出したリナは、すぐに次の目的地を目指した。
「でも、初めての仕事……失敗しちゃったな」
しかし、そのことがリナの中で納得できなかった。
そして、リナは決心すると、ソリを止めた。
「やっぱり、最初はこのプレゼントを渡すところから始めたい」
リナはそう言うと、すぐに引き返した。
近くまで来て、さっきの少年がすぐに寝始めたことを確認すると、リナはまた深呼吸をした。
本来、子供の眠りが浅いと思われる時にプレゼントを置きに行ってはいけない。その子供が起きてしまう可能性が高いからだ。
しかし、リナはどうしても、この少年にプレゼントを配るところから始めたかった。それは、リナのプライドだったのかもしれない。
「よし」
リナはしっかりプレゼントを持つと、また部屋の中に入った。それから、そっと少年の枕元にプレゼントを置いた。
その時、少年が寝返りを打ったため、リナは慌てて部屋を出た。
「危なかった……」
リナは深呼吸をして、気持ちを落ち着けながら、次の目的地を目指した。
「やっぱり、私なんかじゃうまくいかないよね……」
カイトの言葉を思い出しながら、リナはこれからどうしようか考えていた。それは、このままサンタクロースとして毎年プレゼントを配るかどうかだ。
しかし、その答えを見つける前に、リナには今夜のうちにプレゼントを配り終えないといけないという仕事があった。そのため、この時はまだ、答えを出すことができなかった。
そんなことを思い出している間に、リナと幸介は次の目的地に着いた。
「それじゃあ、一緒に行こうか」
「でも……」
「どうしたの?」
「僕は窓にぶつかっちゃうよ」
幸介の言葉を聞き、リナは笑った。
「今夜だけは幸介君もサンタクロースなんだよ。ほら、プレゼント持って」
幸介は袋の中からプレゼントを探した。
「ほら、これだよ」
リナが袋の中にあった1つのプレゼントを指差すと、幸介はすぐにそれを手に取った。
「それじゃあ、行くよ」
リナは幸介の手を握ると、先に窓をすり抜けて部屋に入った。そんなリナに続いて、幸介も窓をすり抜けた。
「静かにね」
驚いた様子の幸介に、リナは小声でそう言うと、ベッドで寝ている少女の枕元を指差した。
「そこに置くの」
「うん」
幸介はそっと近づくと、プレゼントを静かに置いた。
「出るまで油断しないでね」
リナの言葉に幸介は頷き、静かにしたまま一緒にソリへ戻った。
「初めてでこんなにできるなんて、すごいよ! その調子で、全部配っちゃうよ!」
「うん!」
いつの間にか、幸介も笑顔になっていた。
「緊張した?」
「うん。でも、楽しい」
「幸介君はカイトと一緒で、サンタクロースに向いてるかもね」
「え?」
リナの言葉に、幸介は驚いた様子だった。
「私は、いつまで経っても緊張しちゃうんだ。楽しいって思えないの」
リナはまた自分のことを話し始めた。
「幸介君の言うとおり、私は何の理由もなく、こんなことできないよ。でも、私にはみんなにプレゼントを配る理由があるから、今もこうしているんだよ」
「その理由って何なの?」
「それも、最後に教えてあげる」
「もう、さっきから何も教えてくれない!」
幸介は少しだけ不機嫌な表情で、そんなことを言った。
「ほら、プレゼントはたくさんあるんだから、ドンドン配らないと」
そんな風に話をはぐらかしたリナに対して、さらに幸介は不機嫌な表情になった。そんな幸介を見て、リナは思わず笑ってしまった。
偶然、近くの目的地を目指すことになり、レイアはカイトと並んで移動していた。
「リナ、大丈夫かな?」
「心配ないよ。カイトじゃないんだから」
「だから、俺と比べないでくださいよ」
「ごめんごめん」
レイアはいちおう謝ったが、悪いとは思っていなかった。
「でも、カイトはリナに優しいね」
「いつも助けてもらってますし」
「それだけ?」
「まあ、幼なじみなので」
「それだけ?」
そこまで言ったところで、カイトはレイアの言いたいことを察した様子を見せた。
「それだけですよ」
「ホントかなー?」
「俺、そこの家なので行きますね」
カイトは逃げるようにレイアと距離を取った。そんなカイトを見て、レイアは笑った。
「青春してるねー」
そう言った後、レイアは複雑な感情を持ちつつ、頭を掻いた。
「……何か、親父くさいな」
レイアはそう呟いた後、すぐに気を取り直した。
「さてと、仕事仕事」
目的の家を見つけたが、レイアは特にスピードを落とすことなく近付いた。そして、窓の近くにソリを急停止させると、袋からプレゼントを取り出し、すぐ部屋に入った。それから数秒後にはソリに戻り、また次の目的地を目指した。
「時間があるから、またカイトと一緒に行くか」
次の目的地もカイトと近くであることを知っているため、レイアは近くで待機することにした。
すると、すぐにカイトがやってきた。
「ホント、配るのは早いね」
「何で、いるんですか?」
「後輩のことを思って、待っててあげたんだよ。優しい先輩じゃないか」
「また、からかいたいだけですよね……」
カイトの言う通り、この時のレイアは、カイトをどうからかうかだけを考えていた。
リナは移動中に何度も時計を見た。
「間に合う?」
「ギリギリかもね。カイトに半分頼んで良かった」
リナと幸介は順調にプレゼントを配っているが、それでもリナが1人でやった方が断然早かった。
「僕のせいだよね?」
「幸介君はそんなこと気にしなくていいの。それに絶対間に合うから、心配しないで」
そう言いながらも、リナは少しだけ焦っていた。他のサンタクロースと会わないように移動していることも重なり、少しずつ遅れが大きくなっているからだ。そんな焦りから、リナはいつもよりもスピードを出していた。
「次のプレゼント、取ってくれない?」
「あ、うん」
幸介は袋からプレゼントを出し、リナに渡した。
その時、リナは焦りからか、手を滑らせてプレゼントを落としてしまった。
「大変! 捕まってて!」
リナはプレゼントが地面に落下する前にキャッチしようと、ソリを急降下させた。ただ、急降下しながらでは手が離せず、どうしようか少しだけ考えた後、先回りすることにした。
ソリは、落下するプレゼントよりも速く降下すると、地面から数メートル上まで移動したところで止まった。
「プレゼントは?」
プレゼントの落下点とソリの位置は微妙にずれていた。何もしなければ、プレゼントはソリのわずか横を通り過ぎ、地面に落ちてしまっていただろう。
「届いて!」
リナは手を伸ばし、何とかプレゼントをキャッチした。しかし、リナはそのままソリから落ちてしまい、地面に叩きつけられた。
「大丈夫!?」
幸介の心配する声に応えるように、リナは笑顔を作った。
「うん……大丈夫。プレゼントは無事だよ」
とっさに自分の体をクッションにしたため、プレゼントは無事だった。
「お姉ちゃんは大丈夫!?」
「心配してくれてありがとう」
リナはソリを下ろすと、すぐに乗った。
「痛っ……」
右から落ちたためか、リナの右腕と右足は、上手く動かせなくなっていた。
「参ったな……」
この状態では、とても残りのプレゼントを配れそうにない。
そんな考えがリナの頭に浮かび、途方に暮れてしまった。
「僕がちゃんと渡さなかったから……」
「私が焦っちゃったせいだよ。幸介君は何も悪くないから、気にしないで」
リナはどうしようか考えながらも、とりあえず移動することにした。
バッジのおかげで怪我は軽減されていたが、それでも大きな怪我に変わりはない。こんな状態で、本当に全部のプレゼントを配ることができるだろうか。そんなことを考えている間にも移動を続け、2人は目的の家に着いた。
「それじゃあ、行こうか」
リナはそう言ったが、体が言うことを聞かなかった。そして、自然と諦めようといった思いが心の中に生まれようとしていた。
「僕が1人で行くよ」
「え!?」
幸介の言葉に、リナは考えを中断させた。
「大丈夫なの?」
「お姉ちゃんに教えてもらった通りにするから大丈夫!」
幸介の真っ直ぐな目を見て、リナは笑った。
「幸介君、すごいね」
幸介が全く諦めようとしていないことを知り、リナは自分が情けなくなってしまった。
「ごめんね。私、足を引っ張ってばかりだね」
それでも、リナはどちらかといえば、悲しいというより嬉しかった。
それは、幸介のおかげで、今まで気付かなかったことに、気付いたからだ。
「私、何1人で背負いこんでたんだろうね……」
「お姉ちゃん?」
「プレゼントを配るの、今日が初めての幸介君が頑張ってるんだから、私も頑張らないとね」
リナは優等生と呼ばれていたことなどをプレッシャーにしてしまっていた。そして、まだ経験もほとんどない中、目標を高く持ってしまっていた。全てにおいて、完璧に行おうと考えてしまっていたのだ。
「完璧にしようなんて考えるからダメなんだよね」
その時、リナは何とか右腕と右足が動かせることに気付いた。
「私も一緒に行くよ」
リナは痛みに耐えながら、幸介と一緒に部屋に入った。幸介は、そんなリナを支えた。
そして、無事にプレゼントを置いて、ソリに戻ってくることができた。
「ありがとう。それじゃあ、次の目的地に行こうか」
そう言うと、リナは次の目的地を目指して、また移動を開始した。
「私が幸介君を連れてきた理由……」
リナは笑顔で話を始めた。
「幸介君が私に似ていたからなの」
「え?」
「私もやる前から無理だって決め付けて、色んなことから逃げていたの」
幸介は真剣な表情で、リナの話を聞いてくれた。
「願い事だって、絶対叶わないなんて決め付けちゃダメだよ」
リナは幸介にそのことを伝えたかった。
「でも……」
「今はプレゼントを配ることに集中しようか。この話はまた後でしよ」
リナの提案に、幸介は頷いた。




