1st Season - 4
父と奈々との思い出を、圭介はじっくりと思い出して、確信に近いものを持った。
「あそこかもしれない!」
圭介には、他に心当たりもなく、そこに奈々がいてほしいという願いを持った。
「もしかしたら、あの場所で父さんを待ってるのかも」
「案内してくれる?」
「ああ、わかった。ここから少し遠いけど、ついてきて」
「待って」
圭介はすぐに走り出そうとしたが、リナが呼び止めたため、少しだけ待った。すると、リナは手を上げ、トナカイとソリを出現させた。
「これに乗って」
「……は?」
「良いから早く乗って! カイトも乗りなさいよ」
「わかってるよ」
サンタクロースについてはまだ半信半疑だったため、圭介は混乱してしまったが、恐る恐るソリに乗った。
「それじゃあ、行くよ」
リナがそう言うと同時に、ソリはトナカイに引かれて宙に浮いた。
「うわ!」
圭介は驚きのあまり、声を上げた。
「こんなところで飛んで、大丈夫なのか?」
「大丈夫、今は姿を消してるから。それより、案内してくれないかな?」
「ああ、えっと……」
圭介は動揺していたが、簡単に目的地を説明した。
「わかった、すぐに着くよ」
場所を確認すると、ソリは勢いよくそこに向かって飛んでいった。
「……なあ、聞いても良いかな?」
「何?」
移動中、圭介は気になっていたことを尋ねることにした。
「サンタって、すべての人の家に行くわけじゃないのかな?」
「……うん、そうだよ」
「そうだよね。俺の家には来たことないし」
わかっていたことだけど、圭介は少しだけ残念に思った。
そんな圭介に対して、カイトは笑顔を見せた。
「俺達は、サンタクロースがいる家には行かないんだよ」
「どういうこと?」
「別に大したことじゃないよ。俺達の代わりに……」
「もうすぐ着くよ」
カイトの答えを聞く前に、目的地に着いたため、圭介は奈々を捜そうと下を見た。そこには圭介の予想通り、奈々の姿があった。
「いた!」
「ホント!? それじゃあ、すぐに下りるね!」
リナがそう言うと、すぐにソリは下りていった。
そして、ソリが地面の近くまで下りたところで、圭介はソリから飛び降りた。そんな圭介と同じように、カイトもソリから飛び降りた。
「ちょっと待ってよ! みんな勝手に動かないの!」
リナの叫び声が聞こえたが、圭介とカイトは奈々の方へ向かった。
「奈々!」
圭介が呼ぶと、奈々は顔を上げた。
「奈々、心配したんだぞ」
「来ないでよ」
「は?」
「お父さんが迎えに来るまで待ってるんだから、お兄ちゃんは家に帰っててよ!」
奈々の言葉に圭介は少しだけ考えてしまった。
「……奈々、母さんだって心配してるんだ。すぐに帰ろうよ」
「嫌だ! お父さんを待ってる!」
「奈々!」
「来ないでよ!」
その時、圭介は衝撃を受け、数メートル後方まで吹っ飛んでしまった。
「今のは何だよ?」
「……バッジを持ってる」
カイトは静かな声で、そう言った。カイトの言葉を聞き、圭介は奈々が何かを持っていることに気付いた。
「奈々、その持ってる物は何?」
圭介の質問に奈々は答えなかった。
「奈々、それはこのカイトの物なんだ。だから、返してあげよ?」
「嫌だ!」
圭介はなかなか奈々に近付けず、困ってしまった。
「……ちゃんと話がしたくても、これじゃ近付けもしないよ」
その時、遅れてリナがやってきた。
「カイト、もう時間がないよ。そろそろ結界を解かないと間に合わなくなっちゃう」
「わかってるよ。 でも、どうするんだよ?」
「とにかく、やるしかないでしょ」
リナはそう言うと、奈々に近付いていった。
「奈々ちゃんだよね?」
リナは優しい声で尋ねた。
「奈々ちゃんが持っているのは、私達……サンタクロースのものなの」
「サンタさんの?」
「そう。サンタクロースって1人じゃなくてたくさんいるの。私もその1人だよ」
リナはそう言いながら、少しずつ奈々に近付いていった。
「そのバッジがないと、みんなにプレゼントを配れないの。だから、返してほしいの」
「……お父さんに会いたい」
奈々の言葉にリナは足を止めた。
「サンタさんだったら、お父さんに会わせてくれる?」
「それは難しいけど……」
「だったら、返さない! プレゼントなんていらないもん!」
その時、カイトがリナの腕を引っ張った。
「リナ、1回下がろう」
「だってもう、時間が……」
「リナ、俺に任せてくれないか? 圭介、手伝ってほしい」
「ああ、言われなくても手伝うよ」
「私はどうすれば良いの?」
「バッジを貸してほしい」
「……わかった」
カイトの言う通り、リナはすぐに自分のバッジをカイトに渡した。
「俺はどうすれば良いんだよ?」
「圭介は自分の思ったことを言えば良いんだよ」
「近付けもしないのに?」
「それは俺が何とかする。時間がないから、急ぐよ」
カイトはそう言うと、奈々の方に顔を向けた。
「奈々ちゃん、聞いてほしい」
カイトは、ゆっくりとそう言った。
「お父さんに会わせることはできない」
「何で?」
「だって、奈々ちゃんは……お父さんがいなくても大丈夫だから」
「大丈夫じゃないよ!」
その時、カイトは圭介の腕をつかんだ。
「圭介、俺が圭介を奈々ちゃんの近くまで移動させる」
「は?」
「やっぱり、最後は圭介が言わないとダメだから」
カイトは小さな声で圭介にそう言った。
「お父さんに会いたい!」
「奈々ちゃんには……圭介がいるじゃないか」
カイトは優しい声で続けた。
「圭介は寒い中、奈々ちゃんを捜したんだよ? 全力で走って、必死に奈々ちゃんを捜したんだよ?」
奈々はカイトの言葉を黙って聞いていた。
「奈々ちゃんには、そんなお兄さんがいるんだ。奈々ちゃんのことを本気で心配してくれるお兄さんがいるんだ」
次の瞬間、圭介は奈々のすぐ近くに立っていた。それはワープしたかのように一瞬のことで、カイトがバッジの力で行ったことのようだ。
「……お兄ちゃん」
奈々は圭介に目を向けた。そんな奈々を前にして、圭介は自分の言うべきことがはっきりわかった。
「奈々、辛いことがあった時、家に帰りたくない時、そんな時に奈々が家に帰ってこなかったとしても……」
圭介は父の言葉を思い出しながら言った。
「こうやって、俺が迎えに来るから」
圭介の言葉を聞き、奈々の目から涙が零れた。
「それじゃあ、ダメかな?」
「……ううん」
奈々は泣きながらも笑顔を見せた。
「お兄ちゃんが迎えに来てくれるなら、それで良い」
奈々の言葉を聞いて、自然と圭介も笑顔になった。
「それじゃあ、そのバッジを返してあげよ?」
「うん」
そして、奈々は素直にバッジを圭介に手渡した。
「道が開いたぞ!」
その言葉と同時に、サンタクロース達は一斉に人間界へ向かった。既に出発の時間は大幅に過ぎているが、大急ぎで行けば、まだ間に合う時間だ。
「レイア!」
すぐに出発しようとしたレイアを長は呼び止めた。
「……カイトが迷惑をかけてしまい、すいませんでした」
「何を言っておるのじゃ? カイト達はレイアの教え通り、立派なサンタクロースではないか」
「え?」
「わしが君に言ったこと、覚えておるかな? サンタクロースはプレゼントを配ることが本当の仕事ではない」
「……はい、覚えていますよ」
長の言葉にレイアは笑った。
「それじゃあ、私も行きます。3人分のプレゼントを積んでいるので、速度は落ちると思いますから」
「ああ、気を付けてな」
レイアは静かに頷くと、すぐに出発した。
圭介は奈々から受け取ったバッジをじっと見ていた。
「圭介、ありがとう」
「ああ、ちょっと待って」
バッジを受け取ろうとしたカイトを圭介は止めた。
「何だよ?」
「奈々がやったこと、元通りにしたいんだけど、どうすれば良いかな?」
「そう思ったんだったら、もう元通りになってるよ」
「ああ、そういうものなのか。だったら返すよ」
圭介はそう言いながら、カイトにバッジを返した。
「カイト、リナ、急ぎな!」
その時、空から声が聞こえて、そちらに目をやると、また別のサンタクロースがいた。
「あ、先輩だ!」
「え、何でこんな早く来るんだよ!?」
やってきたサンタクロースを見て、カイトは怯えた表情になった。
「カイト、リナ、早くプレゼントを配りに行くよ」
「え、あの……?」
「カイト、帰ったら、うんと叱るけど、今は仕事して」
「でも、あんな騒ぎを起こしたのに……」
「いつも言ってるだろう? サンタクロースはプレゼントを配ることが本当の仕事ではない。幸せを配る事が本当の仕事だって」
「え?」
「カイトは立派なサンタクロースだよ」
その言葉の意味がわからないようで、カイトは首を傾げた。ただ、この時、圭介はその言葉の意味がわかった。
「俺達に幸せを配ったってことだよ」
圭介がそう言うと、納得したようにカイトは笑顔を見せた。
「とにかく、今はプレゼントを配るよ!」
「あ、はい」
カイトとリナはそれぞれトナカイとソリを出現させた。その直後、2人のソリに大きな白い袋が出現した。それは、幼い頃から絵本などで見た、サンタクロースがプレゼントを入れる袋そのものだった。
「それじゃあ、行くよ!」
「はい!」
焦っている様子の中、カイトは圭介の方に顔を向けた。
「圭介、何か欲しい物あるか?」
「は?」
「今日だけは特別に俺達からプレゼントしてやるよ」
カイトの言葉に、圭介は少しだけ考えた後、首を振った。
「いや、いらない」
「何でだよ? 遠慮しなくて良いのに」
「俺の欲しい物……奈々と一緒だから」
その時、圭介は思わず涙が出そうになってしまって、咄嗟に目元を拭った。
「カイト、早く行くよ!」
「……ああ、わかった。圭介、ありがとな」
カイトはそう言うと、ソリに乗って、空高く飛んでいった。
カイト達がいなくなり、圭介はため息をついた。あまりにも信じられないことが目の前で起こって、圭介は起きたまま夢を見たような気分だった。そんな気持ちを落ち着けたところで、圭介は現実的な問題に気付いた。それは寒い中、ここから家までの距離が結構あるという問題だ。
「家まで送ってってくれれば良いのに、気が利かないな。まあ、しょうがないから歩いて帰るか」
「お兄ちゃん、おんぶしてよ」
「何でだよ? 自分で歩いてくれよ」
「今日だけのお願い!」
「たく……」
圭介は文句を言いながらも奈々をおんぶした。
「疲れたらすぐに降ろすからな」
圭介はそう言ったが、心の中では全く正反対のことを考えていた。
たとえ疲れたとしても、圭介は家まで奈々をおんぶしていきたいと、そう考えていた。
圭介と奈々が家に帰ると、母と由香里と明がそれを出迎えた。
「もう、心配したんだよ?」
「ごめんなさい」
「何で由香里と明はここにいるんだよ?」
「私がここで待つように言ったのよ。圭介が奈々を見つけてくれるからって」
母の言葉を聞きつつ、圭介はテーブルに着いた。
「私、サンタさんに会ったんだよ!」
「ホント? 良かったわねー」
奈々と母の会話を聞きながら、圭介は疲れたように息をついた。
「圭介、明日一緒に買い物行かない?」
「は?」
唐突な由香里の提案に、圭介はどうしようか考えた。
「クリスマスプレゼント買ってよ」
「サンタさんにお願いしろよ」
「何だよ、せっかくなんだからデートしてこいよ」
明の言葉に、いつも通り由香里は顔を赤くした。
「デートじゃないよ」
「デートじゃねえかよ」
「そんなのどっちでも良いよ」
圭介は疲れていたため、面倒と思いながら適当な返事をした。
「ねえ、とにかく行こうよ」
「わかった、行くよ……。あ、そうだ!」
圭介はあることを思い出し、テーブルにあったケーキの箱を手に取った。
「ケーキ、入ってないでしょ?」
母の言葉を無視して、圭介は箱を開けた。
「じゃあ、みんなでケーキ食べようか」
その箱の中には、大きなケーキが入っていた。
「あら、どうしてかしら?」
母は意味がわからず首を傾げた。そんな母の様子を見て、圭介は少しだけ笑った。
夜遅くまでクリスマスパーティーをした後、みんなが解散して、圭介はすぐにベッドで横になった。
様々なことがあり、すっかり疲れてしまったため、圭介は風呂に入ることなく、すぐにでも寝たいと思っている。しかし、まだ寝るわけにはいかなかった。
数日前、物置の中にプレゼントが入っていることは既に確認した。そして、圭介はクリスマスイブの夜、そのプレゼントを奈々の枕元に置こうと決めた。今まで父がしていた仕事を引き継ぐなんて気はないが、圭介はとにかくそうしたいと思っていた。
「奈々はもう寝たかな?」
既に夜の11時を過ぎているため、圭介はプレゼントを取りに行こうとベッドから降りた。そして、部屋のドアを開けようとした時、誰かがドアを開けたのか、自動的にドアが開いた。
「何だ、圭介はまだ起きてたのか?」
そこに立っていたのは……父だった。
「夜更かししちゃ、ダメだろ」
父はそう言った後、持っていた物を後ろに隠した。
「いや、これは違うんだよ」
「何で……父さんがいるの?」
「だから、違うって言ってるだろ。ちょっと気になったから様子を見に来ただけだよ」
そう言うと、父は部屋を出て行こうとした。
「あ、待ってよ!」
圭介が呼び止めると、父は足を止めた。
「どこにも行かないでよ。ずっとここにいてよ」
父は圭介の言葉に対して、笑った。
「何を言ってるんだ?」
「だって俺、父さんがいないと不安で……」
圭介はいつの間にか泣き出してしまった。
圭介はずっと平気なふりをしていた。それは、母や奈々に悲しんでいる姿を見せたら、さらに2人を悲しませてしまうという考えがあったからだ。しかし、本当は父が亡くなったことを誰よりも悲しんでいた。
そんな我慢してきた気持ちが一気に溢れたかのように、涙は止まらなかった。
「おい、しっかりしろよ。もう中学生なんだぞ」
父は圭介の頭をなでた。
「それに、父さんは圭介達のそばにずっといるよ」
「え?」
「圭介達のことをいつも見てるよ」
「ホントに?」
「本当だよ」
何の根拠もないけど、父の言葉を圭介は信じることができた。
「だから、もう寝るんだ。夜更かししちゃダメだろ」
「うん、わかった」
圭介はそう言うと、ベッドに戻った。
「父さん……」
部屋を出て行こうとした父に、圭介はもう1度だけ声をかけた。
「俺、父さんがいなくても、頑張るから。あと……」
圭介は少しだけ考えてから口を開いた。
「ありがとう」
それは、圭介がずっと言いたくて言えなかった言葉だ。
いつか言おうと思い、言えなかった言葉だ。
そして、父が死んでしまい、永遠に言えない言葉になるはずだった。
そんな言葉を、圭介は最後に言うことができた。
そのことに安心したのか、圭介はすぐ眠ってしまった。
朝、目を覚ますと圭介はすぐに飛び起きた。
「夢……?」
圭介はそう考えると、少しだけ残念な気持ちになり、ため息をついた。
「お兄ちゃん!」
その時、奈々がドアをノックすることなく、圭介の部屋に入ってきた。
そして、奈々は大きな熊のぬいぐるみを抱えていた。
「サンタさん、来てくれたよ!」
「は?」
その時、圭介は昨夜、奈々の枕元にプレゼントを置くことなく、眠ってしまったことを思い出した。そして、どうして奈々がプレゼントを持っているのか疑問に思った。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない。サンタが来て良かったな」
そう言いながら、自分の枕元を見て、圭介は固まってしまった。そこには、昨夜父が持っていた、あの小包が置いてあった。
そして、圭介は小包を手に取ると、すぐに開けた。そこに入っていたのは、野球グローブだった。
「お兄ちゃんのところにも、サンタさんが来たんだね!」
「いや、昨日、俺のところに来たのは……」
圭介はその時、カイトが言っていた言葉の意味がわかった気がした。
「サンタクロースがいる家には行かないって……そういうことか」
「え?」
「いや、何でもない」
圭介はそう言った後、思わず笑ってしまった。
「何があったの? 教えてよ」
「いや、何でもないって」
圭介は奈々からいくら聞かれても、答える気はなかった。
「そうだ、由香里と買い物行くんだった」
「待ってよー」
圭介は奈々から逃げるようにすぐ支度をすると、外に出た。
当然、外は寒かったが、圭介は特に文句を言うことなく、由香里の家に向かった。
その時、圭介は背後に誰かの気配を感じて、振り返った。
しかし、そこには誰もいなかった。
「……最高のクリスマスプレゼント、ありがとな」
誰もいなかったが、圭介は笑顔で礼を言った。
そして、前を向くと圭介はまた歩き出した。
その時、2人のサンタクロースが飛び去ったことに、圭介は気付かなかった。




