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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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山賊と誘拐犯達の狂宴

 暗いため馬車を全速力で走らせるわけではないが、それなりの速度は出ている。そんな中いきなり脱輪したらどうなるか、答えは簡単だ。

 砂埃を巻き上げ、シッチャカメッチャカになってしまう。


 砂埃が収まってきたタイミングを見計らい、前衛部隊四人が山賊っぽく出ていく。一人は弓で牽制する予定だ。本当なら弓を増やしたいが、暗くなってきたから乱戦になると同士討ちが怖い。後ろに二人を配置し、イレギュラー対応は俺らでやる。


 流石に板金鎧を持ってきてはいないが、山賊とかの素人に斬られてもチェーンメイルと革鎧で大丈夫なはずだ。



「おーおー予定通り引っかかってやがるぜ!これ以上痛い目に遭いたくなきゃ持ってるもん全部置いてきな!」



「ちっクソが!あのクソアマ、裏切りやがったか!例の荷物を確認しろ!大丈夫そうなら持って、道を切り開いていくぞ!待ち伏せってことなら後ろにもいるはずだ、注意しろ!!

 アレシア!弓が大丈夫ならさっさと撃ち込め!キビク、ギミニは囲まれないようにいつも通りやれば山賊程度に後れを取ることはない、大丈夫だ。こっちで残りと弓持ちを牽制する!早く片してこっちを援護しろ!動け動け!!」


 あれぇ、こいつら、動揺してないし、対奇襲の護衛訓練や実戦をくぐり抜けたかのような経験者の動きだ。

 そう、まるで正規の兵隊だ。傭兵より洗練された動きと、リーダーの指示が明確だ。



「わかりました!隊長も気をつけて!援護射撃する。動け!

 よし、左側が手薄に見えるが山岳に続く森だ、そっちはまずい。右側を切り開いていく!!」



「中の荷物に動きはない、気絶してる!もったいないが捨て置く!」


 ちっ、山への誘い込みがバレてたか。


 相手の隊長がこちらの前衛部隊を抑えている。暗いこともあってやり辛そうでなかなかに強いが、足捌きが悪い。こいつが矢を受けた奴か。


 残った奴らも連携がうまく牽制されており、右側へにじり寄られている。

 てか、お前ら手を抜いて、こっちが手を出すようにしてるだろう。後ろの部隊も出てこないし、イレギュラー対応班出てーって合図してくる。


 仕方ない。俺も手を出さざるを得ない。



「ちっっ、お前ら何手こずってるんだ!そんな奴らさっさと倒して、誘拐された我が家の者を取り返せ!!捕らえられた者を助け出すんだ!!」


 相手に動揺が走った。



「なっ!貴族のもんが手を出してたか!計画変更だ!馬車の荷物を盾に使え、そしてこの坊ちゃまを人質に取れ!全員ぶっ殺したら坊ちゃまと中の荷物で宴だ!!」


 敵が一斉に動き出す。

 主に相手の隊長の動きは変わらないが、弓持ちは馬車の中の人質の確保に動き、残りは周りを牽制しつつこちらに距離を詰めてくる。


 味方の動きは変わらない。

 俺に実戦をこなさせる気か!



「馬車の中の人質を守れ!令息を傷つけさせるなんて淑女の恥だぞ、お前ら!」


 とか言ってたら、馬車の中に入った弓持ちが鈍い音と共に投げ出されてくる。

 中の人間が戦えないなんて、一言も言っていない。樽の蓋が盾となるように改造されており、武器の短剣も隠してある。


 出てきた奴もピクリとも動かず、気絶したようだ。短剣なら音を立てずに殺せるから、投げ出されることもない。


 それでも、動揺を見せずこちらに向かってくる奴らの目が見える。その中に見えるのは、情欲や闘争心、殺意。訓練で感じたことがない、本気の殺気。


 一人はヴィーが相手をせざるを得ない動きでヴィーを封じ、一人はこっちが相手をさせられて緊張がマックスになる。



「剣を捨てて降伏するなら、今なら生かしてやるがどうする?!」


 ダメだ、緊張するし冷や汗が出る。

 ジメジメした空気がさらに重く感じられる。


 槍を持って来た方が良かったか。兵士に槍を持たせる理由もよく分かる。剣での間合いより長い方が安心できる。ちらりと隣のヴィーを見るが、相手と斬り合っており、こちらの援護にはこれなさそう。

 それより焦りと、こちらを気にしすぎて、いつもの十分の一も力が出せていない。


 そりゃ護衛がクソなうえに直掩なし、大将が戦うなんてないわー。



「ふへへ、震えてるぞ?逆にお前の方が剣を捨てるんだったら、一生性奴隷として飼ってやるぞ。

 お前ぐらいかわいい顔なら、一生飼っても売り飛ばしても、美味しい思いができそうだ。はよ降参しなぁ。」


 相手は余裕そうにしつつ剣を中段に構え、こちらを殺すまではいかなくとも、腕の一本でも落としてやるって顔でやってくる。



「しっ」


 こちらから袈裟斬りを繰り出すが、腰が入らず浅い。いなされてしまう。一合目で体勢を崩されはしなかったが、主導権は取られた。

 こいつは剣の訓練経験と実戦経験もあるのか、足や腕などをどんどん斬られていく。傷は受けないが、衝撃はあるし、鎧の留め具を狙う動きだ。



「ほらほら、そんなへっぴり腰ならお姉さんが腰の振り方から竿の使い方まで教えて、部屋で一生飼ってあげるわよ。」


 こちらは答える余裕などなく、切り返すがいなされる。焦って繰り出したフェイントも見破られる。

 剣では負けて、残りのカードは味方だが、ヴィーは斬り合いの真っ最中。ラクトーシャはちらっとこちらを見て、小さく手を振る。


 手助けする気はなしと……。残るは暗器と魔法だけ。やけっぱちになったように見せ、大振りにしていく。そして弾かれたタイミングで、相手の足を踏み抜く。

 踏み抜き防止用の鉄芯入りブーツだ。効いただろう。これで少しは動きが鈍くなるが、隙にはならない。



「足癖が悪い子だな、手足切り落としてだるまにするぞ!」


 もうこの際だから、生け捕りとか生温いこと言ってられない。覚悟を決めなければ。

 だが、人を、人を斬れるか……。


 だんだん焦ったような顔を作り、足取りもおぼつかなくしていく。そしてチラチラと目の前の相手ではなく、隣を見たり、他の護衛を見たりすることで焦りと恐怖を演出していく。


 こいつ、鴨だ。どう料理してやろうか。こんなかわいい顔なら、早く美味しい思いをしたいそう考えて、油断し始めた。そう判断したタイミングで、こちらから仕掛けていく。



「おらぁ!」


 焦りに耐えられず思わず出した、右手だけで大振りの切り上げを、わざと受けさせる。その隙に、左籠手に仕込んだバネ仕掛けの短剣を突き出し、心臓めがけて撃ち出す。



「なっ、暗器か!ふざけやがって!くっそいてぇ!

 生け捕りにして犯すのはもうやめだ、殺す!限りなく苦しめて殺す!!野良犬のように殺して獣の餌だ!」


 心臓を狙って撃ち込んでやったんだけど、避けられて脇腹か。刺さり具合と血の色を見る限り、臓器や致命傷ではなく、激怒のご様子。血は出るが、失血死する前にこちらが死ぬわ。


 刺さった短剣は抜かず、袈裟斬りを多用してこちらを無力化するような剣だったのが、殺意マシマシの突きが多くなってくる。防御しかさせないよう繊細な動きと、暗器を警戒されて攻撃をさせないよう、正確に追い詰める攻撃に変わった。

 最悪、こちらは未だに籠手や鎧でしのげているが、きつい。そうしてなんとか防御をしていると、切り上げからフェイントを入れ、突きと見せかけた体当たりが来る。


 まずい。これは避けられないし、体勢が悪い。鈍く重い音とともに、身体が地面に倒れ込む。



「うぐぅ」



「ほぉら、カワイコちゃん、お姉さんが上になって逝かせてあげる!」


 いくら鎧下とチェーンメイルを着て、革がメインで補強に鉄片を入れているが、衝撃が酷い。体格差と勢い、腰が引けていたのもあって弾き飛ばされ、組み討ちに持ち込まれる。


 肋骨は折れたのか、めっちゃ痛いし、マウントを取られている。何よりまずいのは、相手の慈悲の短剣はまだ後ろ腰にある。組み討ちに持ち込まれた際の正攻法、頭の硬さには定評がある。頭突きで体勢を立て直さなければ。



「男からのプレゼントだ、受け取れ!」


 目の前にあった顔面に頭突きを入れる。こちらの頭も痛いが、相手の鼻が折れたのか、気が逸れる。

 その隙に左手で土を握って投げつけるが、相手も予想していたのか、左手で目をガードされる。だが、少しは目に入ったようだ。


「足癖が悪いなら手癖も悪いって知ってるさ!

 その左手も分かってたよ、貴族らしくこれで死にな!」


 本命は目を瞑らせること。もしくは、手で覆うことで右手を相手の死角に入れること。左手で顔を覆い、右手で腰の短剣を抜き、こちらに突き下ろしてくる。


 防御できないので、左手の掌で刃を掴む。細長い短剣をなんとか掴むが、革手袋ごと斬られる。

 馬乗りになられている上に力負けをしているため、段々と細長い短剣がこちらに迫ってくる。


 だが、千載一遇のチャンスだ。防御と同時に、相手からは見えていない右手に作っておいた魔法の小さな氷のナイフを突き出す。


 確かに刺し貫いた感触があり、生暖かく不快な鉄錆臭い液体がかかる。

 右肩が焼けるように熱い。



「がふっ」



「くっ」


 俺の右手に作った氷のナイフは、発動が早い代わりに刃渡りは短い。だが、殺傷能力は高く、見えづらい。

 普人族は他種族に比べて体力や腕力がない。それでも、一撃なら刺せる。訓練で培った感覚からすれば、氷のナイフは確実に脇腹から肺、心臓付近まで刺さっている。


 それでもなお、生を諦めない目をしながら、こちらに倒れ込んでくる。



「あぁ、不味い。気が遠のく。確実にトドメを刺していない。こんな所で……。」



「ミー様ぁぁあ!!く、どけぇ!!!」


 遠くからヴィーが、珍しく殿下ではなく名前を叫ぶ声と、鈍い音が聞こえる。



 懐かしい気持ちを覚えながら、応えることができないままに意識が途切れる。


おやおや、実戦をこなせたようじゃの。全く、アヴィエラも焦りおってからに・・・。

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