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悪役令息の役どころからはサクッと離脱することにする。  作者: をち。


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それから

それからの俺の生活は…実はあまり変わらなかった。

平民になっても学校へ通う許可はでていたし、いらぬ混乱を避けるため、表向はスノーデンのまま卒業することになったからだ。


ただ、ルディアスと俺の婚約解消だけは公表された。表向き「公爵家の事情」として円満な婚約解消だと公表されたのだった。

この解消は様々な憶測を呼んだが、そのあとレオリースとの婚約がなされなかったことでうやむやになった。

これ以上追究しない方がいいとどこかから圧力がかかったのだろう。


ルディアスの新たな婚約者については、公爵家の養子縁組が整い次第公表されることになる。

俺は廃嫡済みだが卒業までは「スノーデン」を名乗ることになっていた。なので表向きには俺に兄ができ、新たにスノーデン公爵家の長子となった兄が公爵家の後継となりルディアスの婚約者となるわけだ。

どんな人なのかちょっと楽しみだ。


そしてルディアスの卒業を待たずして公爵家の実権はその兄が握る。

ルディアスが嫁ぎ正式に爵位を養子に譲るまでは、公爵はお飾りの当主として過ごすことになるのだ。

優秀な、しかも実の子ではない養子に公爵家を牛耳られての生活は、さぞかしみじめなことだろう。

結果的に公爵は一生を劣等感と屈辱に苛まれながら生きることになる。これが公爵の選んだ人生だ。






あの運命の茶会から3日後。

途切れていた朝の供物が復活した。

なんと本人の手で俺に届けられたのだ。


「……おはよう、ミルリース。数日休んでしまったが…差し入れだ、よければ食べてくれ」


真っ赤な顔でさしだされたそれは、カゲ君がくれるいつもの店の菓子だった。


「……は?え?まさか、ルディアスがカゲ君だったのか⁈」


周りの皆は口元を押さえ震えながらうつむいている。

 

「カゲ君がなにかよくわからんが、毎日菓子を置いていたのは私だ。

お前に何かしたくて、だが、どうしてよいかわからなくてな。以前お前が喜んで食べていた店の菓子なら食べてくれるのではと……。

すまん。顔を合わせる勇気がなくこっそりと置いていた」


まさか、ルディアスだったとは!

俺があそこまではっきり拒絶したのに、カゲ君として贈ってくれていたのか。

驚きのあまり菓子をそのままにひたすらルディアスを見つめてしまった。


一方、ルディアスは俺が菓子を受け取らないのをこう解釈したようだ。


「……やはり私の菓子では嫌なのだろうか?」


「い、いやいや、もらう!

喜んでいただこう!

……ルディアスには先日世話になったしな。

礼を言うのが遅くなったが……助かった。ありがとう」


ルディアスが泣きそうな表情で笑った。

そんな顔をすると存外幼い顔になるんだな。


打ち解けた俺の様子に、ルディアスを警戒していたクラスメートたちもわらわらと集まってきた。


「俺もいつもミルと一緒に食わしてもらってるんだ。美味かった。殿下、ありがとう」


クラウスがポンと肩をたたく。

ルディアスはクラウスにぞんざいな扱いをされても嫌がるどころか嬉しそうにしている。


「ルディでよい。今後はみなもルディと呼んでくれ。どうか普通にしてくれるとありがたい」


「そうか?なら俺はクラウスでいい。

てかマジで普通にするぜ?後で不敬とか言うなよな?」


「ははは!言わぬさ!」


笑うルディアスがふと真面目な顔になる。


「これからすることは、ここだけにおさめてほしい」


ルディアスは、すう、と息を吸うと意を決したように頭を下げ、謝罪した。


「これまで迷惑をかけてすまなかった!

……ミルリースを守ってくれてありがとう。これからもミルリースをよろしく頼む!」


王族が非公式とはいえ貴族に頭を下げた。しかも俺のために。

その意味の重さがわからぬようなものはこのAクラスにはいない。


しん、と静まり返ったその空気を破ったのは第一王子イージスだった。


彼は静かにルディアスの隣に立った。そして、ルディアスと同じように頭を下げたのである。


「私からも謝罪させてほしい。私の弟が迷惑をかけてすまなかった。

ミルリースにも謝罪させてくれ。今まで苦労をかけたな。何もしてやれず、すまなかった。

みな、どうかこれからもミルリースと弟をよろしく頼む」


「あ、兄上、なぜそのような……!

悪いのは私です!兄上は頭を下げる必要はありません」


イージスはポンとルディアスの肩を抱いた。


「関係ないわけないだろう。

お前は自ら考え、動いた。

そんなお前が頭を下げるのだ。ならば兄として私も下げる。お前も私の弟なのだぞ?」


「私も……弟だと言ってくださるのですか?」


「当たり前だ。お前にいらぬ苦労ばかり与えてきた不肖の兄ではあるがな?」


イージス殿下の目は優しい。

色々な周囲の思惑を乗り越え、俺たちは前に向かっていける。


「……殿下、ルディアス、握手をしませんか?」


「は?」「え?」


「流行りの本で読んだのです。謝罪の後は握手をし、お互いに抱きしめ合いキスをして友好と親愛を深めるのです」


「?キス?」


俺の言葉にミルフェが「あ!」と小さく漏らした。


「あ、あれはね、ミル、あの……」


「いいね!やってみよう!」


殿下がルディアスの手を握り、ぐっと握手。そしてそのままルディアスの体を引き寄せ、抱きしめた。


ぽん、ぽん、とその背をたたく。


「私たちもここから始めよう。大丈夫。全てうまくいく」


「…はい。はい、兄上!」


ルディアスも殿下の背に手を回した。その声は少し潤んでいた。

キスはしないようだが、充分親愛は深まったようだ。

良かったな、ルディアス!










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