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自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。~極振りパーティ異世界放浪記~  作者: くろぬか
3章

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第77話 上手に焼けました!


「す、すっげぇ時間掛かる……」


 何かもうずっとくるくるしてました。

 途中で飽きたり、疲れてきて手を止めようとするとイズに怒られるし。

 トトンに交代してもらって、クルクルする係を代わって貰ったものの。

 やはりトトンも飽きてしまう始末。

 なので二人体制で交代しながら、ひたすら肉を回していたのだが……コレそろそろ食えるんじゃね? って所になっても、イズから「まだだ」と言われてしまう。

 ねぇいつ食える!? これいつ食えるようになるの!?

 もはや泣きたくなりながら、ひたすらに肉を回していた訳だが。


「そろそろ良いか」


 イズの一言が発せられた瞬間、俺とトトンがもみくちゃになりながら肉に刺さった串の耐熱部分を奪い合う。

 やらねば、やらなくては。

 コレをやりたいが為に、俺はコイツの購入を即決したのだから。

 結局トトンとの決着は着かず、二人揃ってデカイ肉が刺さった串を持ち上げた。

 そして、当然“あの台詞”を口にする。


「「上手に焼けましたぁぁ!」」


「うんうん、良かったねー。滅茶苦茶時間掛かったけど」


「手間が掛かるんだよ、こう言う類は。それこそ、冗談抜きで」


 ダイラとイズからは、少々呆れた視線を向けられてしまった。

 でもやりたかったのだ。

 どうしてもコレがやりたかったのだ。

 と言う事で、二人揃ってガブッ! と喰い付いてやろうかと口を開いたのだが。


「二人共、待て」


 俺とトトンの頭をガシッと掴んで、噛みつき体勢の俺達を制止してくるイズ。

 何故だ、何故止める!

 漫画肉と言えば、この食べ方が礼儀だろうが!

 カッ! と鋭い瞳をイズ向けてみれば。


「一度戻して、削いでみろ」


 そう言って、ナイフを渡されてしまった。

 えぇぇ……削いじゃうの? 勿体なくない?

 ガッガッガ! って食べた方が、雰囲気も出て良いと思うんだけど。

 などと思いつつ肉を火の上に戻し、刃を入れてみれば。


「あ、ありゃ? コレは大丈夫なのか?」


 欲張って結構深くナイフを刺したのだが……中、まだちょっと赤いんだけど。


「だから言っただろう。それに、そんなに大きく肉を削いでも……多分味も何も付いていないぞ」


「そ、そんなぁ……」


「それこそ下味を全てつけて、一気に齧り付きたいのなら。樽なんかで塩漬けにした挙句、もっと弱火で長時間焼く必要があるな。多分表面は塩辛くて食えないと思うが」


 ロマン、崩壊。

 と言う事で、イズが削いでくれた薄い肉……いや充分に肉厚なんだが。

 ソイツにカブリと噛みついてみれば。


「うんまっ! 超ワイルドって感じだぁぁぁ!」


「イズ! 俺も! 俺も!」


「分かっている、少し待て」


「元気だねぇ~」


 と言う事で、ココからはイズにバトンタッチ。

 焼けた所から肉を削ぎ、もっくもっくと食べていく。

 肉だぁ……デッカイ肉だぁ……。

 そして自分で作ったのだと思えば、いつもよりずっと旨く感じる。

 しかしながら、やはり単調な味ばかりでは結構飽きてしまうもので。


「あの、イズ……」


「だと思ったよ。人間意外と、同じ味の食べ物をずっと食べるのは辛いモノがあるからな」


 なんて事を言いながら、インベントリから様々な食材を取り出していくイズ。

 パンにバターを塗って、下処理を済ませた野菜を乗せてから、先程の肉を乗せていく。

 更にはソースを掛け、チーズを乗せ。

 最後にマスタードを掛けてから、上にもう一枚パンで蓋をする。

 そんなものを皿に乗せ、此方に差し出して来るではないか。


「おぉ……おぉぉぉ!」


「味変、という訳では無いが。食べ方を変えるのもまた一興、と言う事だな。流石にこのサイズの肉を、単品で丸ごと……というのは、普通はやらない。もはやフードファイトだろう、そんなの」


 サンドイッチを受け取ってから、思い切りデカイ口を開いてバクッ! と喰い付いた。

 うんまいっ!

 塩コショウでしか味を付けていなかった肉なのに、他の調味料と野菜やパンなどなど。

 それらが合わさり、もうとんでもなく極上のご飯へと進化していた。


「どうせこうなるだろうって、二人が肉回している内にスープ作っておいたよー。どうぞ~」


 緩い声を上げながら、今度はダイラがスープを差し出して来た。

 色と匂いだけで分かる、コンソメスープだ!

 ソイツを一口啜ってみれば、ふわぁっと広がる幸せの味。

 煮込んだ野菜はホロホロと解れ、ちゃっかり肉厚のベーコンまで入ってるのが良い。

 あぁぁ、なんだろう。

 やはりご飯に関しては、“向こう側”よりずっと満喫している気がする。

 社会人時代は、大抵コンビニ飯だったしな。


「旨いよぉ……全部旨いよぉ……」


 どうやら俺と同じ状態に陥っているらしいトトンが、もはや泣きそうな勢いでサンドイッチに齧り付き、ゴクゴクとスープを飲んでいく。

 分かる、超分かる。

 向こう側の世界に戻れるよって言われたら、お土産にイズとダイラを食事番として下さいって言っちゃうくらいだ。

 そしてトトンも、俺と一緒に美味しく頂く係として来て良いぞ。

 何せ一緒に肉を回した仲だからな。

 なんて、馬鹿な事を考えながらバクバク食べていれば。


「フフッ、俺にこの肉を任せた事を後悔すると良い」


 不敵な笑みを浮かべるイズが、何やら肉を回しながら幅の広い筆で液体を塗りたくっているでは無いか。

 そして、香って来るその匂いは。


「や、焼肉のタレ?」


「モドキ、だがな。コレもゲーム時代のアイテムだが、味はほとんどソレだ。それに手を加えた特製ソース、街に居る間に作っておいた」


「うわぁ……すげぇ良い匂いする。ニンニク! ニンニク!」


 途中でイズにお任せしてしまったお肉様は、第二進化を遂げようとしていた。

 ブワッと広がる旨そうな匂い。

 しかも薪を放り込み、少々火力を上げて炭火焼き。

 更にはイズが液体を塗った場所から数滴ソースが薪に落ちれば、ジュワッ! という心地良い音と共に、より一層香りを広げていく。


「さて、これからこの匂いの肉が焼き上がる訳だが……どうする? そのまま喰うか?」


「「是非米でお願いします!」」


「良いだろう。しかしコレを期に、二人はもう少し料理を覚える努力をしろ。いいな?」


「「サーイエッサー!」」


 ニヤッと笑うイズはその後肉にゴマをふりかけ、更にクルクルと回していった。

 ヤバいよ、香りがもはや暴力的だよ。

 仕上げに、柑橘類は掛けても大丈夫か? という質問に対し、二人してブンブンと首を縦に振った結果。

 何かの果汁をブシャー! ってしていた。

 俺の勘違いで無ければ、アレはスダチだ。

 絶対美味いヤツじゃん!

 などと思っている内に白米を丼に盛り付けたダイラが、何やら野菜炒め的な物を米の上に広げてから。

 その上に、イズが焼いた肉を削いだ状態で乗せていく。

 超メガサイズ焼肉丼の完成した瞬間である。


「こ、これは……」


「コレ、俺が食べても良いヤツ? ホントに? リアルでこんなの食べた事ないよ? すんごい良い匂いしてるんだけど……」


 トトンと一緒に、ゴクリと喉を鳴らしていると。


「熱い内に食え、二人共」


「はい、スープでーす。さっきとはまた違うから、合うと思うよ?」


 そこには二人の女神が居た。

 超絶旨い飯を作ってくれる料理人と、それに合うスープの錬金術師。

 俺のパーティは、なんて贅沢なんだ。


「「いただきます!」」


「あぁ、食べろ食べろ」


「あはは、なんかコレが定番になって来ちゃったねぇ」


 クスクスと笑う二人を他所に、俺達は良い勢いで夕飯を掻っ込んだ。

 何だ、何だコレ。

 カブッと噛みついてみれば、なかなか噛み応えの良い焼き加減。

 かと思えば、噛みしめてみると随分と柔らかい肉が姿を現す。

 表面に塗ってあるタレの味を最大限使いながらも、噛めば噛む程ジワリジワリと旨味が口内に広がっている。

 肉だけで、コレなのだ。

 そのまま米を掻っ込んでみれば、もはや至福である。

 タレが染みた白米なんて、御褒美でしかない。

 間に入る野菜炒めも、これまた違った味わいを運んでくれて、飽きる事がない。

 夢中になって口に含み、モグモグと噛みしめてから……最後にスープ。

 思わずいっぺんにガブガブ飲んでしまいそうになるが、我慢だ。

 適量、適量を飲んで我慢するんだ。

 我慢しながら液体を胃の中に納めれば、返って来る息は「ごちそうさま」と言っているかの様。

 ホッと、それでいて凄く満足した温かい息が返って来るのだ。


「う~まいっ!」


「美味しく焼けましたぁぁぁ!」


 トトンと一緒に叫びながら、再びどんぶり飯にがっついた。

 なにこれ、何だコレ!?

 もう止まらないレベルで箸が動くんですが!?

 ガブガブとデカイ肉に噛みつき、米を掻っ込む。

 そしてスープを飲んでまた一息。

 このループが、いつまでも続く。


「「おかわり!」」


「気に入った様で何よりだ。しかし、まぁ……コレはちょっと、手間が掛かるな」


「時間掛かったもんねぇ。俺等でスープとか色々、数品作れちゃうくらいには」


 イズとダイラは、未だクルクルと回している肉焼きセットに視線を送るのであった。

 いや、うん。

 本当にごめんなさい、無駄遣いでした。

 結局最後はイズに任せちゃってるし、俺とトトン飽きちゃったし。

 本当に、申し訳ありませんでしたぁぁ……。



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