第76話 ロマン
「本当に世話になった。元気でな、皆」
「こちらこそ、お世話になりました。皆さんもお元気で~」
入国手続きを手伝ってくれたマトンさん達と、手を振って別れた。
報酬の他に、兵士の皆さんからはそれぞれ。
「お嬢ちゃん達、俺達からの礼だ。助けてくれた奴には一杯奢る、それが通例なんでね」
そんな事を言いながら、カンパみたいな形で金銭を受け取ってしまった。
おいおいおい、全員分をまとめたら結構な額になっちゃうよ?
なんて、思っていたのだが。
どうやらこの世界、別の国に入国する時には結構お金が掛かるらしく。
それらを支払ったら見事に俺等四人、一人一杯程度の金額が手元に残った。
粋だねぇ、ホント。
良い人達と知り合えたわ。
残った金額を握り締め、フフッと口元を緩めてから。
俺達は、新しい国の大地へと踏み出した。
「さて、行きますかね」
「しばらく歩く事になるが、どうする? 村は幾つかあるみたいだが、大きな街はまだ遠いぞ」
マップを広げるイズが、此方に地図を見せて来るが……確かに、結構距離あるな。
飛ぶにしても、それなりに時間が掛かりそうだ。
「今回ばかりは、乗合馬車使う~?」
「歩きよりかはマシだけど、アレお尻痛くなるんだよね……」
トトンとダイラも声を上げるが、皆揃って“何でも良いよー”って雰囲気。
うんむ、やはりこれだけ“こっち側”で生きていれば、人間慣れて来るよね。
「村もどんな感じなのか、ちょっと気になるけどなぁ。立ち寄っても大丈夫なんかね?」
「そこはまぁ、村によるんじゃないか?」
「だよね。全然お客さんが来ない村なら、宿屋とかも無さそうだし」
どうしよっかなぁ。
移動の時間を考えると飛んだ方が速いのだが、生憎と今は日が昇ってからそこまで経っていない。
どこかの魔女様との戦闘と、兵士達と一緒に歩いていた影響で、本日が始まったばかりなのだ。
とはいっても、乗合馬車に乗って居眠りするのも危険だって話だしなぁ。
だとすれば。
「歩くか、んで適当な場所見つけて休もう。夜になったらまた飛行する感じで」
「まだ海が近いみたいだから、適当にフラフラしてみるのも良いかもな」
「また釣りでもやるー?」
「最近魚が多かったから、そろそろ別の物食べたいなぁ……」
そんな会話をしながらも、四人揃って歩き出すのであった。
ま、大きな目的としては“異世界観光”な訳だし。
あまり先ばかり急いでも仕方ないだろう。
どこぞの魔女の心配はあるが、毎日襲って来る訳でもないだろうし。
つぅかもう会いたくねぇ。
などと思いつつ、賑わっている国境付近を後にしようとしてみれば。
「旅人さんかい? 女の子四人とは珍しい。どうだい? ちょっと見て行かないか? 良いの揃ってるよぉ?」
何やら怪しげな謳い文句を言いながら、街道脇に露店を広げている行商人が。
地面に布広げて、その上に商品を並べている様な本当の意味で“露店”。
こういう場所でこんな事して良いの? なんて思って呆れた笑みを浮かべてしまったが。
「ん? なにこれ、どう使うの?」
「おっとぉ、お目が高い。コイツはね、こうして組み立てて、そんでこうして……こっちとこっちはこう使って――」
商品の説明を受け始めてから数分後。
「買う! これ欲しい!」
「クウリ……」
「おーい、お財布係ー? しっかりしてー?」
「いやでも、俺もちょっとやってみたい! クウリ俺にもやらせてね!?」
と言う事で、新商品を確保。
ホクホク顔で、俺達は旅立つのであった。
※※※
「なぜ人は、海や川に来ているのにBBQをやるのだろうか? 何故そこでは、海鮮を焼かず陸の生き物を食すのか」
「気分の問題と、食材の保管と確保の難しさだろうな。あとそういう場所で騒ぐ奴等は、大抵現地の人間じゃない。だから知識が無いんだろ」
「イズ、マジレス止めてあげて……クウリもきっと“アレ”使いたくて仕方ないんだよ」
「クウリ俺も! 俺もやりたい!」
と言う事で、まだ日が高い内から俺達は水辺にやって来ており。
更には先程購入した物品を早速組み立てた。
その名も、“肉丸焼きセット”。
簡易かまどは設置するだけの魔道具であり、何と一定の火力で炎を出し続けるらしい。
もっと火力が欲しい時は、薪を放り込めと言われた。
とはいえなかなかデカイ為、普通にコレを持ち運ぼうとすると大変そうだが。
しかし俺達にはインベントリがあるので関係ない。
そしてその両脇に、Y字になった支え木と言う名の金属の太い棒を差し込み、立てる。
「イズ、“デカい”奴を頼む」
「あまり大きすぎても、火が通らないから……焼きながら削いで食べる形になるからな? あと時間掛かるからな?」
ため息と共に、イズがインベントリから巨大な肉塊を用意した。
ソイツに向かって、真ん中だけ長い三又槍の様な串をブッ刺し、ウンウンと頷いてからY字の支え木の上に乗っけた。
最後に串にクランクハンドルを取り付け……完成。
「うぉぉぉぉ! これぞ漫画肉!」
「火つけるよ!? 回そ回そ!」
俺とトトンのテンションがうなぎ上り。
これぞ、これこそが!
ロマンの塊“肉焼きセット”だぁぁぁ!
上手に焼けましたぁぁ! って絶対言うんだぁぁぁ!
と言う事で、ワクワクしながらハンドルを回し始める訳だが。
「イズ、何かこう……火、遠くね?」
「直火は駄目だ、表面だけ焦げて生焼けになるぞ? 距離を空けて、熱でじっくり火を通すんだ」
思っていた以上に高さがあり、火も遠い。
その為膝立ちみたいな体勢でクルクル。
ちょっと思ってたのと違う。
あんまりお肉の色も変わって来ないし。
「えっと、下味とか付けないの? これだとそのまま焼いてるだけだけど……それとも最後にソースとか付けるの?」
忘れていた!
ダイラの一言に、ハッとした顔をイズに向けてみた訳だが。
「いや、いつ気が付くんだろうなぁと思っていたが」
「言ってくれよ! 俺等マジで料理初心者なんだから!」
「まぁ、何事も経験だ。今回のソレはクウリとトトンでやってみたらどうだ?」
そう言いながら、調味料は準備してくれたが。
イズは傍観する姿勢の様だ。
あ、あれ? もしかして肉丸焼きセット買った事怒ってる?
全然教えてくれないじゃん。
「え、えぇと……イズさん? 出来ればその……どれくらい何を使ったら良いのかとか、色々教えて欲しいというか……」
「あぁ、良いぞ? どんな味つけが好みだ?」
あ、ありゃ? 怒っては無い?
聞けば普通に答えてくれるし、調味料の事も教えてくれるけど。
もしかして、コレって。
「あの、勘違いじゃ無ければ……コレも俺等の強化の一環っすか」
「“料理人”のサブ職じゃなくても料理は出来る。何事も挑戦は必要だろう?」
と言う事らしい。
うっそん、今回のご飯はマジで俺とトトンだけで作るの?
肉しか焼いてないけど、肉だけだけど。
とはいえ、そういう事ならより一層慎重に……なんて、思ったのだが。
「イズ、全然火が通ってない気がする」
「ゆっくりだ、こういうのは非常にゆっくり火を通して行くものなんだ」
「粗挽き胡椒って、どれくらいかけるの? こんな感じ?」
「わー! トトンそれは掛け過ぎだって! ガリガリ回すと出て来るの面白いの分かるけど、やり過ぎ注意!」
などと非常に騒がしくなってしまったが。
あの、コレ……もしかして滅茶苦茶時間掛かる事始めちゃった?




