第66話 イケオジと気になる存在
と言う事で、やって来ました居酒屋!
個室だし、絡まれる心配も無し! と言う事であっちもこっちもと注文してみれば。
目の前に並ぶのは海鮮尽くし!
うひょおぉ! 喰うしかねぇ! 飲むしかねぇ!
なんて思いつつ、グラスを掴んだ瞬間。
「クウリはコッチ。物凄く弱いお酒なんだって、それこそ立場のある子供が慣らす用のお酒だってさ。店員さんには、トトンが飲むものだと思われたみたいだけどね」
そんな事を言いつつ、差し出されたのは。
「匂いとか……全然しないんだけど。味も……うん、アルコール入ってる? って感じだし」
「文句言わない、やっぱりこれまでの記憶が邪魔してるね。今までの状態からして、ソレでも充分に酔えると思うから。でも飲み過ぎ注意ね」
などと言われつつ、宴会がスタートした。
魚介、とにかく魚介。
刺身に始まり、揚げ物だってサメの唐揚げとかある。
それらをガッと口に放り込み、醤油モドキとワサビの味を感じつつ、クイッとお酒を口に含んでみれば。
……うん、ちょっと味が付いた水だコレ。
最後だけはガッカリしつつ、ひたすらに食事を口に含んだ。
「この醤油……みたいなもの、少々味が悪いな。個室だし……替えてしまうか?」
などと言いつつ、イズがインベントリに醤油モドキを引っ込め。
そしてゲーム時代に作った醤油を皿に注いでみれば、それはもう別次元の旨さ。
コレコレコレ、これを待っていたんですよ!
なんて事を思いつつ刺身をパクつき、唐揚げに関しても多種類の調味料を付けてモリモリ頂いてしまった。
サメの唐揚げって言ってたけど、うっま!
こういうのどうなん? とか思っていた俺の固定観念が吹っ飛ばされた。
噛みしめてみれば旨味が広がるし、カリッとした衣とフワフワした鮫の肉は非常に相性が良い。
コレに関してはトトンも気に入ったらしく、奪い合う様に頬張ってしまったが。
「クウリ、水飲んで」
「あ、はい」
今日ばかりは、ダイラの完全監視体制の様で。
酒……というには余りにも薄すぎる飲み物を頂戴する事になった。
しかしながら……ちょっとアルコールが回って来た気がするのが悔しい。
この程度で酔うなよ俺! と言いたくなるが、身体は正直な物で。
食べ物を取ろうと膝を伸ばした際、フラッと来てトトンに支えられてしまった。
わぁお、滅茶クソ雑魚雑魚アルコール耐性。
俺を殺すなら、間違いなくまず酒を飲ませるべきだな。
などと思いつつ、トトンに支えられていると。
「おい聞いたかよ? 例の魔剣士の話」
「銀髪で長身、更にはすげぇ良い女って話だろ? そんなのが、辻斬りとはねぇ……」
なんて、壁の向こうから話し声が聞こえて来た。
個室と言っても、やはり壁は薄い様で。
思わず聞き耳を立てながら、壁に寄ってしまったのだが。
「クウリ、もうお酒禁止ね。ホラ、すぐ酔うじゃん。だからこの先は普通のジュースを――」
「ダイラ、シッ……」
俺の介護に入ろうとしたのか、ダイラが近寄って来たが。
相手に向けて唇の前に人差し指を立て、壁の向こうの会話に集中した。
「手を付けられない程強いらしいが……なんでも誰かを探してるらしいぞ? 相手は攻撃魔術師なんだってよ」
「おいおい勘弁してくれよ。ウチの隊にだって攻撃魔術を使う兵士は居るんだぞ? たったそれだけの理由で狙われちゃかなわねぇ。もう少し冒険者達が頼りになるのなら、こういう時に調査依頼も出せるんだがなぁ」
「勘弁して欲しいですよねぇ……これじゃ全然気も休まりませんよ」
どうやら壁の向こうに居る人達は、兵士とかそういう立場の人らしい。
しかしながら、戦闘を全て任されている為に注目されてしまったと。
お疲れさまです。
「なんて言ったっけか? 冒険者でも“聖女”ってのが生まれたんだろ?」
「本当なんですかねぇ? 教会基準で、ただ上位の者が出て来たってだけじゃないですか? 戦場に放って、なぁんにも役に立ちませんじゃ話になりませんよ。正直、学校上がりのペーペーがコッチに参加しても邪魔になるだけですし」
向こうの人達も結構酔っているのか、割と重要そうな話を声高々に喋っている訳だが……。
攻撃魔術師を探している、魔剣士?
更には、現地の戦力ではどうにもならない実力者?
この条件だけで言えば、俺達みたいな存在が例に上がる訳だが。
果たして、その辺はどうなのやら。
転生という意味合いで、アバターを手に入れたプレイヤー。
そういうのが他にも居るのなら、協力出来るかも。
そんな風に思った事はあるが。
もしも相手が反発的な態度や、攻撃的だった場合はどうだ?
間違い無く、俺達にとっての障害と脅威になる。
だとすれば、遭遇した場合出来る事は二つに一つだ。
仲間にするか、殺すか。
かち合った状態で、無関係とはいかないのだろう。
こうならない為には、そういう話が出ても近づかないのが一番なのかもしれないが。
などと思いつつ、相手の会話を聞いていれば。
「でもこの状況なら、もう出会ったら切り伏せるしか――」
「あぁちょっと待ってな? その先を言うのはちょっと待ってくれ」
何やら気になる話の切り方をされ、もはや壁に耳を押し当てる勢いで話を聞いていたのだが。
その壁に対して、コンコンッとノックの音が響いた。
「部屋に入る前にチラッと確認したが、若いお嬢ちゃん達だったよな? 止めておきな、興味本位で聞き耳を立てるのは。怪我や火傷じゃ済まなくなるぞ? 流石に気付くって、俺等一応攻撃部隊だからな」
壁の向こうから、そんな声が聞えて来た。
うわっ、マジか!? やっば!?
などと思って壁から身体を放してみれば、相手は普通にこっちの部屋へとやってきて。
何やら柔らかく微笑むおっちゃんが、ヒラヒラと手を振ってから。
「こういう酒場だからな、聞き耳を立てるなとは言わんけどさ。聞いたら巻き込まれる事例もあるからね? もちっと気を付けようか、お嬢ちゃん達。ココのお会計はオジサン達が奢るから、忘れちゃおうか。ね? 大丈夫、俺等の方で怖~い人達はやっつけるから。お酒の席は楽しみな? 怖がらせちゃったなら、悪かったね」
それだけ言って、伝票を奪い取って相手は下がっていくのであった。
わーお、出来る男って感じがすげぇ。
というか気配の感知に関しても、現地の人でも鋭いタイプは居るんだな。
流石は戦闘職、そして俺等は話に怖がって聞き耳を立てていたと勘違いされたらしい。
そんな訳で。
「すみませーん! 追加お願いしまーす!」
「ブッ!」
壁の向こうから、むせ込む声が聞こえた気がするが。
まぁ、もう少し調べてみますかね。
「お、お嬢ちゃん? さっき言った意味、分からんかった?」
コンコンッと、再び壁の向こうからノックと共に声が聞えて来たが。
「分かってますよ? 分かった上で此処に居るんです。俺も攻撃術師なので、ちょっと興味あるなぁって。どうぞ、お話を続けて下さい? あ、追加分に関しては普通に払いますからお気になさらず。さっきの伝票に関しては、御馳走様で~す」
そんな事を言いながら、今度はコッチから壁をノックするのであった。
向こうも俺が攻撃術師を名乗った事により、諦めたのか。
やけに此方に警戒を促す様な話し方に変わってしまったが。
お優しい事だねぇ、聞かれたくないなら店を変えるだろうに。
此方に注意を促す姿勢は変えない様だ。
んでもって、彼等の話を要約すると。
銀色の長髪、女にしては長身、魔法剣士であり身体能力が異常に高い。
相手の特徴はこんな感じみたいだ。
なんか、俺等の特徴を混ぜ合わせた様な女だな。
多少重傷の者が出ているが、“殺し”までは今の所やっていないらしい。
なんともまぁ、おっかない存在が居るモノだねぇ。




