第43話 攻略の準備
「攻略に関して、現地の資料が揃った。その結果……状況めっちゃ最悪でーす! 攻略無理! 絶対無理!」
ミラさんから貰った資料を読んだ結果、そう言う他なくなってしまった。
本人は非常に気まずそうな顔をして、黙ったまま俺達の話を聞いているが。
だってねぇ、無理ですよ。
これまでに他の火山地帯で発生していた報告書を見た結果、レイドの前の状況としては最悪と言う他無い。
“溶岩神ペレ”、コイツは本戦イベント前にどれだけ備えておくかが大事なボス。
ストーリー性が強く、相手が作り出す幻影が各地に出現。
ソレをどれだけ潰せるかによって本体の能力が変わって来る。
ゲームではパーティやクランごとに、討伐数が管理されていた訳だが。
現実となったこの世界では、そんな機能有る訳が無い。
つまり探索範囲も火山地帯全域になるし、現実ではその場に行くのだって時間がかなり掛かる。
そんでもって更に最悪なのは、相手の幻影を殺せず撤退したという報告ばかりなのだ。
当たり前だ、目的など分からない新種が現れたのだから。
普通ならアレらを討伐するより、脅威なら逃げる方が得策だろう。
でも……それでは駄目なのだ。
「殲滅率が低すぎる。コレ、マジで最悪だぞ……」
「地面は完全溶岩フィールド、ゲームであれば常に高ダメージを受ける最悪な状況に代わる訳だ」
「で、でもリアルでマグマに足なんて突っ込んだら……」
「脚が無くなるね……うはぁ、やべぇ」
皆が声を洩らす中、それ以上の想定を考える。
俺がリーダーなんだ、常に最悪を考えろ。
その事態に備えられる作戦を考えて、全員をしっかり使わないと勝てる相手じゃない。
「超無理矢理をやるなら、戦えるかもしない。でも無茶だ、安全マージンが全く取れない上に、これから準備を始めても間に合う保証がない。もっと言うなら、上手く行く確証が持てない」
はっきり言って、無謀も良い所だ。
何度も言うが、このレイドボスはストーリー性を重視している。
だからこそ、これまでのイベントを放置してしまった代償は大きい。
これは……勝てる筈の無い戦いだ。
しかも現地民はソレに気付いてすらいない。
馬鹿馬鹿しいよ、ホント。
このあり得ない戦場に挑んでも、守っても、誰も事態に気が付かない。
俺等に感謝の一つだってしてくれないだろう。
だったら、逃げるべきだ。
それが一番賢いやり方だというのに。
「クウリだったら、その状態のレイドをどうやって攻略するの?」
ニッと、トトンが口元を吊り上げた。
お馬鹿、この状況で期待した瞳を向けるんじゃないの。
「全員が生き残れる可能性、あるんだろう? 試してみようじゃないか。それこそ俺達の“本気”を試す良い機会だ」
イズも、ニヤッと口元を歪めた。
多分コイツは、全力を使ってみたいって気持ちが強いのだろうが。
それでも。
「ごめんクウリ……自分でも滅茶苦茶言ってるって、分かってるんだけど……どうにかならない? 俺達は、アバターって“ズル”をしてるんだから。こういう時こそ、前に立つべきなのかなって。俺の柄じゃないのは分かってるんだけど」
ダイラも、身体を震わせながらそんな台詞を呟いて来るではないか。
だったらもう、やるしかないだろ。
仲間達は皆アイツを潰す気でいる。
後は俺の決断一つ。
だったら、俺はどうするか。
決まってんだろ、こういう時“クウリ”というキャラクターはどういう判断を下した?
不安がある? 対処出来ない可能性がある?
そんなもんいつもだろ、それをこのメンバーで潜り抜けて来たんだろ。
俺達は何だ? ぶっ壊れの能力を持ったアバターだ。
能力的にも、スキルも恵まれている。
だったら、他の奴らより優っていると胸を張れ。
綺麗事だったとしても、それをする意味があるのなら。
この程度、俺達にとっては“いつも通り”だろうが。
「攻略難易度が上がれば上がる分だけ興奮する、なんて言ってた時期が懐かしいねぇ本当に。ったく、やってられるかっつぅの」
思い切り悪態とため息を溢しながらも、テーブルの上にマップを広げた。
ゲームじゃないからこそ、不利な要素が非常に多い。
しかしコレが現実だからこそ、有利になる要素だってあるはずなのだ。
それをとことん突き詰め、意地汚く戦ってやろうでは無いか。
馬鹿馬鹿しいと思える作戦でも、滅茶苦茶単純な作戦でも有効打になる可能性だってあるのだから。
「溶岩神ペレの一番厄介な所、それはフィールドによるバッドステータス。逆にソコさえ何とかなれば、本体はレイドボスの中でも弱い部類だ」
レイドだと思うから駄目なのだ。
もっと現実的な思考で考えないと、多分勝てない。
ダンジョンの時と同じだ。
ゲームでは出来なかった事が出来る様になっている、なら逆にそこを利用してやれば良い。
「だが現状では、下準備が全く整っていない。つまり間違いなく足元はマグマの海になるぞ? 更にあのボスに近付けば近づく程温度が上がり、補助魔法でも補えない程の高温のデバフを貰ってしまう」
「今から可能な限りペレの幻影を潰して回る? いつから出現したのか正確に分からないから、本戦がいつ始まるのかも分からないけど……」
「でもソレをやる場合、もう馬車でチンタラ移動してる時間ないよね。クウリの羽を使って、一気に回るくらいしないと」
全員の意見を聞きながら、絶対にやらないといけない事、もしかしたら出来るかもしれない事を全て書き出して行った。
ほんの小さな疑問だったとしても、全て試す。
それくらいしないと、勝てる見込みがない。
「なんか、皆さんとても熱心に作戦を立ててますけど……相手の行動って、こんなにも想像出来るものなんですか? それから、HPが半分以下とか……これはいったい」
「ごめんミラさん、マジで時間無いから後にして。それから、俺達が行ってた火山。あの地域立ち入り禁止の要請と、遠目から観察してくれる人を付ける事って出来る? 噴火が起きたらすぐに報告が欲しい」
「えぇと……支部長に相談してみます」
本戦が始まるまでのカウントダウン表示なんて、当然ながら無い。
しかしペレ自身が姿を見せたと言う事は、もうあまり余裕が無いのは確かなのだろう。
今からでも出来る事は、全てやらなくては。
まずは……。
「班を分ける。準備する側と、殲滅して回る側。ダイラ、お前には一番頑張ってもらう事になる」
「うっ……俺は準備側って事だよね、分かった。やってみるよ」
試してみますか、新しい事ばかりの無謀な挑戦になってしまうが。
コレだって、今後生きていく上で必要な事なのだから。




