第44話 錬金術
「それで、彼女達だけで各地の火山地帯を巡る。と?」
「はい、まぁ……それで支部長、クウリさんの言っていたお願いは叶えられそうですか?」
支部長は溜息を溢しながら、椅子の背もたれに体重を預けた。
こちらとしても、結構無理な事を言っているのは分かってはいるのだが。
「ギルドとして立ち入り禁止を宣言する事は出来る。しかし依頼主にはなんて説明するんだ? 火山地帯に自ら足を踏み入れる一般人は居ないだろうが……研究者や他の採掘者などは私ではどうしようもない。更に観測員としてミラのパーティだけは、入場許可を出すとなると……周りから見れば、お前達があの場を独占している様にしか見えんだろうな」
「ですよね……」
「更に言うなら、“あんな武器”が発掘された後だ。入場希望者だって増えて来ている」
「あぁぁ……タイミングが全部悪い……」
なんて、二人揃ってため息を溢していれば。
部屋の扉がノックされ、此方の返事も待たずにいつもの受付さんが顔を出した。
「支部長~ちょいと良いですかー? なぁんか現場が荒れてるみたいな報告が上がって来てるんですけど、どうします?」
「今度は何だ……」
頭を抱える支部長を他所目に、受付さんはダラッとした態度のままソファーに腰を下ろし、煙草を吸い始めた。
他の街では、こんな職員絶対居ないだろうなぁ……なんて思いつつ、呆れた視線を向けていると。
「近場の仕事に向かってた三パーティが、逃げ帰って来たんですよ。ホラ、例の炎の人影」
「またソレか……だが慌てて帰って来るとは珍しいな? これまでは攻撃の効かない、ゆっくり付いて来るだけの不気味な存在だったとしか聞いてないが」
クウリさん達が調べていたアレの話か。
私達のパーティは、ここ最近いつもの場所にしか行っていなかったので遭遇した事はないが。
やはり他の場所では、頻繁に出現しているようだ。
結局ソレは何なのだろうか? 何やら倒さないと不味い存在ではあるらしいが。
彼女達も、何も教えてくれずに現場に向かってしまったし。
などと思いつつ、首を傾げていれば。
「あーそっちじゃなくてですね、ソイツを狩る奴が出て来たらしいんですわ」
「何?」
「人型で、空を飛んでて、気が付いた時には高火力の魔法を叩きつけて。そんでもって、すぐに飛び去ったそうです。その威力がヤバイの何のって事で、怖くなって帰って来たそうですよ」
あ、それってもしかして。
「ミラ……彼女達は、その炎の人影を潰して回る。そう言っていたんだよな?」
「えぇ、まぁ……」
クウリさんの魔法なら、高火力だというのも頷ける。
グランドベヒモスに対し、一発で風穴を空けた程だし。
しかしながら。
「彼女達は、空も飛べるのか……?」
「いや、その……どうなんですかねぇ?」
あの人達、いつもやる事が派手だなぁ……。
※※※
「クウリ! 九時方向の岩陰! すげぇ見づらい所に居る!」
「だぁクソ! 高速移動しながらマジで見つけづれぇ!」
腕に抱えたトトンの声に反応して急旋回、その後周囲に人が居ないのを確認してから。
「“プラズマレイ”!」
一匹ずつ、ペレの分身体を潰していく。
非常に地味、でもやらないと本体が強化されてしまう。
イズとダイラは街に置いて来て、他の事を頼んでおいたのだが……正直これ、全員でやっても終わる気がしないわ。
あと補助魔法が切れたら、マジで干からびそう。
「だぁぁぁ! 面倒クセェ! “エージング”でまとめて巻き込みてぇ!」
「それ使ったら、現地にいる冒険者が皆“老化”しちゃうねぇ」
相手は生物として確立していないので、広範囲に“イロージョン”を使っても見つける事は出来ないし。
そもそもあのスキル、ほとんどダンジョンの隠し通路探しにしか使っていなかったのだ。
物体に“侵食”する訳だから、攻撃に使えない事も無いのだが……調整が難しいのと、殲滅なら他の魔法の方が効率も良かった為、スキルポイントはそこまで振って無いし。
調査系のスキルも、もう少し増やしておけば良かった……。
「しっかし、上から見るとマジでキリがねぇな……」
「だねぇ……俺が下に下りて、地道に潰してこようか?」
「いや、正直俺だけだと今以上に取りこぼしちまいそうだ。お前の“目”にすげぇ助けられてるよ」
そんな話をしている内にもトトンがまた一匹発見し、殲滅。
いやはや、無属性の身体強化具合が半端じゃないな。
トトンが人間レーダーみたいになってる。
「最終イベのレイド全開放は、ペレの分身って二百くらいだったけど……ペレ単体のイベントの時って、どれくらい発生したんだっけ?」
「準備期間が長いイベントだったからなぁ……正確には覚えてねぇけど、一つの火山地帯に入れば十~三十くらいは討伐してたし。それが長期となると……」
「うげ、考えたくないね」
せめて、マックスで二百とかだったら助かるんだけど。
見た感じ、そんな甘い事言ってられなそうだなぁ……。
※※※
「どうだ? ダイラ」
「う、う~ん……スキルを使う感覚でやれば良いって、言ってたよね? 俺のサブ職って基本ポチポチ選択して調合、って感じだったから……いまいちやり方が」
「確かに……“錬金術師”は余計に分かり辛そうだな。俺の“料理人”だって、料理中はちゃんと効果が発揮しているのか分からないし」
色々とアイテムを取り出したダイラが、難しい顔をしながら唸っていた。
トトンの話では、素材を出して“武器修復”と口に出して試したら上手く行ったと言っていたが。
その後は“何となく”コツを掴んで、簡単に出来る様になったと。
しかしその何となくが、此方としては良く分からない。
アイツは若干天才肌の所があるからな。
「うん、分からない! とりあえず初歩的なヤツから試してみよう!」
色々悩んでいたダイラだったが、普段作っていた高品質な物を最初から生成するのは諦めた様だ。
と言う事で、物凄く初歩的な薬草の類を取り出し。
「錬金! とか? 駄目かぁ……えぇと、薬草を選択、ポーションに変換。これでも駄目? うーん……」
薬草を両手に持って唸りつつ、あぁでもないこうでもないと呟いているが。
今の所、薬草がポーションに変換される気配はなし。
クウリに頼まれている物はもっと技術が必要な物品が多い為、初級ポーションで躓いていると不味い。
とはいえ俺としては手伝えることも無く、目を閉じて他に使えそうな素材インベントリから探していれば。
「うわっ!」
「どうした!?」
急にダイラが悲鳴を上げたので、慌てて瞼を上げてみると。
何故か、股下あたりがびょしょびしょになっていた。
「……ダイラ? まさか緊張と焦りで?」
「違うよ! 漏らした訳じゃないよ!」
では、アレは?
はて、と首を傾げてみると。
「えぇとね、何となくやり方は分かったかも。そんでもって、やっぱりゲームとはだいぶ違う」
そんな事を言いながら、ダイラは何やら紙に色々と書き込んでいく。
覗き込んでみると、小瓶とコルク栓、バケツ、試験管、ポーションを保管する為のポーチ。
などなど、一見まとまりのない買い物リストの様な物を作っていた。
「イズ、悪いんだけどココに書いてある物を出来るだけ多く買って来てもらって良い? バケツはなるべく大きい奴で、見つからなかったらタライとかでも良いし」
「あぁ、構わないが……どういう事だ?」
俺達は目を閉じないとインベントリが使えない為、ポーションを保管する為のポーチというのは分かるが。
バケツ? タライ? それに小瓶が必要なのは何故だ。
「見てて、こういう事」
ダイラは再び薬草を両手に持ち、ソッと掌で包み込む様な動作をしたかと思えば。
包まれた内部が少しだけ輝き、次の瞬間には掌から液体が零れて来たではないか。
手にあった薬草は姿を消し、零れ落ちた液体はダイラの服を濡らしていく。
つまり、先程の濡れた跡は。
「ポーションが、出来たのか」
「そう、でもゲームとは違って“そのもの”しか作れない。当たり前だよね、ポーションの材料だけで調合して、ソレを入れる為の瓶の材料は含まれてないんだから」
なるほど、そういう事か。
コツを掴んでしまえばサブ職業のスキルも使えるが、ゲームの時の様に“オマケ”の物品は付いて来ない。
だからこそ、受け皿は此方で用意してやらないといけない訳か。
「分かった、すぐに買って来る。その間は、代用品としてコレを使ってくれ」
そう言ってから、鍋やらフライパンやら。
とにかく液体を溜めて置けそうな物品を、インベントリから取り出して机に並べて置いた。
「ありがと、イズ。でもクウリからお願いされた“アレ”に関しては……」
「少々特殊だからな……とにかく作れるか試してくれ。ただし、換気は絶対だからな?」
「あ、そっか。あのアイテム、使った後バッドステータスあるもんね。ドライアイスみたいなモノかな?」
そんな注意をしてから、ダイラのメモを掴んで街に飛び出した。
向こうの下準備はクウリとトトンがやってくれているのだ、コチラも急がないとな……。




