第32話 普通の戦闘
お給料が、入りました。
仕事の報酬って言うより、入場料を払ったので出費しかないかな?
なんて思っていたのに。
前回掘り起こした鉱石と、グランドベヒモスの素材。
それら全てを売り払って、八等分にした結果。
「うははははっ! 笑いが止まらねぇぜ!」
麻袋に入っているのは、それはもうたんまりとした金額。
だというのに。
「クウリ、俺こっちの金の感覚とか分からないから、持ってて」
「確かに。最低限の金額だけ持って、クウリに保管してもらった方が全体の所持金が分かりやすいかもな」
「俺達なら持ち逃げとかの心配とかも無いし、いいかも。と言う事で……ごめんね? お財布係よろしく、リーダー。いざって時には、いっぺんに使っちゃっても怒らないから」
そんな訳で、皆の報酬を俺のインベントリに突っ込んだ。
おっとぉ? おっとぉぉぉ!?
一気に金額が跳ね上がったんですがぁぁ!?
「よぉし皆! このままもう一回火山の依頼を受けて、インベントリにある鉱石を売り払って大儲け――」
「今回も、一緒に良いですか? クウリさん」
気分上々、これから楽する道筋一直線って所で。
前回の皆様から声が掛かってしまった。
あぁ、えぇと。
「我々は、ですね。前回の経験を元に……独自で発掘作業を、ですね……」
「それなら、任せて下さい。発掘作業に関しては専門家のミルキーとシーシャも居ますし、素人では判別も難しいでしょう? だからこそ、最大限手を貸します。勿論報酬は当分でなくても構わないですし、私達にも協力させて頂けないでしょうか?」
あ、あちゃぁ……これは面倒臭いぞ?
一攫千金、更にはその後皆で自堕落な生活を送ろうと思っていたのに。
監視役が付いてしまうとなると、デッカイ鉱石見つけました!(嘘) 売ります! 後は知らん! 不味くなったら引っ越す!
という作戦が使えないではないか。
監視役が居ると言う事は、目の前で掘り起こしたソレしか売れないと言う事。
前に掘り起こしたんですぅって言い訳も、初心者ムーブをかましている為不可能。
詰んだわ、コレ。
地道に稼ぐしかねぇ。
「い、いやでも。ベテランの方に協力を仰ぐほどでも……」
「ふざけてんのか? ベテランが居ねぇと許可しねぇって言ってんだろうが」
受付嬢さんから、厳しい言葉を貰ってしまった。
ちくしょう! 逃げ道が何処にもねぇじゃねぇか!
と言う事で、皆様のパーティ加入を認めてみれば。
「よろしくお願いします、クウリさん。私達も私達で、勉強させてもらいますね! もちろん、分からない事があればなんでも聞いて下さい!」
物凄く、良い笑顔を向けられてしまうのであった。
あぁ、違うんです。
こういうのじゃないんです。
俺等は、もっと楽に生きたいんです……なんて、思ってはみたものの。
「諦めろ、クウリ」
「こればっかりは、仕方ないかな……前回の街よりずっとマシだよ」
そんな事を言いながら、両方から肩を叩かれてしまうのであった。
ちくしょう、ちくしょう!
何もしなくても生活できる環境を、さっさと寄越しやがれ!
※※※
「ねぇねぇクウリ、溶岩って入ったら本当に溶けるのかな?」
「あー、溶けるってより、焼けるって表現に近いんじゃないか? 実際煮えたぎった岩って感じな訳だし。焼ける、肉体が炭化する、次に来る溶岩に流されて身体が砕けていくってイメージなんじゃない? 知らんけど、肉体もドロッと溶けるのかね?」
本日もダイラの魔法を掛けてもらい、火山地帯を快適に進んでいく俺達。
だった筈なのだが。
「いやしかし、過去に溶岩で肉を焼いて食べるという動画を見たな。呑まれれば命はないだろうが、表面で肉を焼く事は出来ていたぞ。試してみるか?」
そんな事をボヤくイズが、街で買った普通の長剣を振り抜いていた。
はい、戦闘中です。
この前全然小物が居なかったのは、どうやらグランドベヒモスがウロついていたのが原因っぽい。
本日に関しては、ワラワラと魔獣が集まって来ていた。
背中から火が噴き出している赤いトカゲとか、プテラノドンみたいな見た目のモンスターとか。
これらもゲーム内に登場したエネミーではあるのだが……ここまで小物の素材は、使わないし邪魔だから回収すらしていなかったなぁ。
非常に惜しい事をした、有ればこっちで売れたのに。
「戦闘中によく皆そこまでのんびり出来るよね……俺には無理だよ。って、うわぁぁ! 空から襲って来た! クウリィ!」
「あーはいはい、“チェインライトニング”っと」
ダイラは未だビクビクしているけども、正直負ける要素が無い。
装備もそこらで売っていた物を使っているので、気を抜きすぎるのは良くないと分かってはいるのだが。
これでもカンストキャラ4人だからねぇ、不意打ちを食らう心配もそこまで無いだろう。
未だに驚いて大声を上げるダイラだって、相手がこっちに接近する前に声を掛けて来ている。
つまり敵意が向いた瞬間に勘づいているって事で。
グランドベヒモスとかのサイズじゃないと、もはや戦闘って感じもしないのだ。
「相変わらず……凄いですね。私達が手を出す暇もないわ……」
「まぁ慣れですねぇ、こう言うのは。あ、戦闘代わります? こっちでの戦い方も見たいし」
「あぁ、はい……そういう事でしたら。貴女達と比べたら、拙いものでしょうけど」
そんな事を言いながら長剣を抜き放つミラさん。
魔法剣士って言ってたからね、どんな戦い方をするのか期待して眺めていれば。
「せぃっ! はぁっ! “アイスエッジ”!」
戦い始めた彼女は、なんというか……とても、順当と言って良いのか。
こう、アレだ。
ネトゲプレイヤーあるあるの、“いやらしさ”が無い戦い方だった。
「普通だと、こういう感じになるのか」
一番関心を持っている様子のイズも、ジッと彼女の事を見つめていた。
お互い魔法剣士だしね、興味があるのは分かっていたが。
「イズから見て、どうよ? 元々剣術習ってたんだろ?」
「そうだな……うん、とても綺麗に動いているなと。“前”だったら、良い勝負になっていたんじゃないかな」
うは、リアルのイズってマジで何者だよ。
こっちの世界で言うと、アバターのせいで俺達は化け物みたいな存在になっちゃったけど。
それさえ無ければ“こちら側”の人間の方が、圧倒的に強いと言って良いのだろう。
目の前に死の危険が転がっている世界だし、下手すりゃ物心ついた時から武器を振り回している人だっているかもしれない。
そんな現地の人達と“良い勝負になる”って感想が出てくるのは、物凄い事だと思うのだが。
「で、でも私達のリーダーは! ウチのギルドの中では五本指に入る程の実力者ですよ! その……皆さんから見れば、大した事無いかもしれませんけど……」
ちょっと俺達の話していた内容が気に入らなかったのか、リーンさんがそんな声を上げて来た。
すっげぇ、ミラさんトップ5に入る程の実力者なのか。
そら強い訳だ。
「気分を害したのならすまない、馬鹿にした訳じゃないんだ。そうだな……多分クウリもこう思っているだろうが、俺達の様な“いやらしさ”が無い。とても綺麗な戦い方だなと思ったんだ」
「いやらしさ……ですか?」
やはり思っていた事はイズも同じだったようで。
やっぱそう思っちゃうよね、ゲーム知識あると特に。
身体能力と魔法を組み合わせて戦う、ソレが魔法剣士。
綺麗に技を繋げ、可能な限り隙が無い様に攻撃を続ける職業。
しかしながら、対人戦のあるゲーム程プレイヤーはどんどんいやらしく戦う様になる。
スキル後の硬直をキャンセルさせる動きを取ったり、派手な技をあえて囮に使ったり。
要はいつでも“裏をかいてやろう”って戦い方をし始めるのだ。
そんな俺達の目から見て、ミラさんの戦い方は……言い方を悪くすれば“中級者”って所だろうか?
グランドベヒモスに絶対勝てないと言っていた辺りって考えると、ゲーム内ではそれくらいの立ち位置と言って良いだろう。
とはいえ。
「このパーティって、戦闘員はミラさんだけなの?」
「はい……そうですね。私は補助魔法使いですし、ミルキーとシーシャは気が弱いですから。戦闘班というか、どちらかというと採掘班に近いパーティです」
「なら、余計に凄いよ。命張って、一人で前線に立って。三人も守りながら一歩も引かない。俺じゃ真似できないね」
「あ、ありがとうございます! ウチのリーダーは凄いんです!」
フンスッと拳を握って、誇らしげに笑うリーンさん。
なんともまぁ、良いパーティだ。
仲間ってのは、やっぱりこうじゃなきゃね。
俺だって仲間達を馬鹿にされたらイラッと来るし、彼女が突っかかって来たのは理解出来る。
そして褒められれば、自分の事の様に喜べる信頼関係もあるというなら、最高じゃないか。
「ホント、俺等もこうありたいもんだね」
「そうだな。これからもよろしく頼む、クウリ」
なんて、改めてよろしくされてしまうのであった。
何となくムズ痒いけど。
「クウリ見てー! 溶岩で本当に肉が焼けたー!」
「プロテクションを使ったから、直接溶岩には付けてないけど……焼けるモノなんだねぇ」
残りのお馬鹿二人は、遊んでいた様だが。
真面目にやらんかい。




